大分市が挑む行政DXの最前線:daily AI導入で変わる業務効率化と市民サービス

大分市では、行政の効率化と市民サービス向上を目指し、生成サービスdaily AIを導入するなど、AI技術の本格活用に取り組み始めています。資料作成時間の削減を通じて、職員が本来業務に集中できる環境を整えることが導入の狙いです。加えて、BIツールを用いたデータ分析やAIによる道路損傷箇所の自動検知といった他分野でのAI活用も進められています。
本記事では大分市がAI技術の導入に至った背景・導入において発生した課題・導入後の効果について分かりやすく解説します。

目次

大分市がAI導入に踏み切った背景

大分市は、行政の効率化と住民サービスの質向上を両立させるため、AI技術の導入に本格的に取り組み始めました。

行政業務の多忙化と効率化ニーズ

地方自治体を取り巻く環境は、現在さまざまな課題を抱えています。特に懸念されている課題には以下のようなものがあります。

  • 少子高齢化
  • 人口減少による行政コストの制約
  • 住民サービスの多様化

大分市も例外ではなく、従来の手作業中心の資料作成や情報確認業務に多くの時間を割かれているのが現状で、職員の負荷が軽減できないという課題がありました。特に、国や関係機関からの膨大な報告書・資料を確認し整理する業務は、多くの時間と労力を要するものでした。

DX推進計画の策定と自治体方針

引用:https://www.city.oita.oita.jp/o252/documents/02actionplan.pdf

以上のような背景を受け、大分市では「大分市DX推進計画(2025年度~2030年度)」を策定し、行政事務の効率化・市民サービスの向上・人材育成を3本柱とする基本方針を掲げました。

また、DX推進の一環として、チャットボットやAI-OCR(AI技術を活用して画像内の文字をテキストデータに変換する技術)の導入を念頭におき、自治体業務の高度化を図る方向性も明記されています。

全国自治体の先進事例が与えた影響

生成AI技術への注目が高まる中、自治体レベルでも先進的なAI活用の事例が報じられています。

例えば東京都品川区では、AI検索サービスを用いることで戸籍業務の効率化に成功しているほか、茨城県つくば市では会議の議事録作成にAIを導入することで議員が手作業で行っていた議事録作成の負担を大幅に軽減できています。

さまざまな成功事例に大分市も刺激を受け、生成AIの活用を検討しようという機運が生じたことも、導入に踏み切った大きな要因であります。

生成AI「dairy AI」の導入経緯

引用:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000563.000007357.html

大分市は、行政業務の効率化を目指す中で、特に大きな障害となっていた資料作成や膨大な文書確認業務の軽減を図るために、生成AIサービス「daily AI」の導入を決断しました。

DX推進計画のなかで位置づけられた今回の試みは、職員が創造的な業務に時間を割けるよう、日常業務の下支え役としてAIを組み込む挑戦としても位置づけられています。

daily AI導入を決めた理由

daily AI導入検討の際には、以下の4つの要件が特に重要視されました。

セキュリティの確保行政機関で扱う高い機密性を持つデータに対応可能で堅牢なセキュリティ環境であること
既存文書の活用性ファイルアップロード機能を通じ、庁内で作成された文書や議事録を効率的に要約・再構築できること
操作ログの可視化誰が・いつ・どのような操作を行ったかを追跡可能なログ管理体制
職員が使いやすい操作性ITスキルの差に左右されず、直感的に使える親和性の高いUIであること

上記要件を満たす複数のAIツールが比較検討されましたが、
daily AIは以下の点で総合的に優位性があると判断されました。

セキュリティ体制の信頼性行政レベルの情報保護に対応する堅牢な環境が整備されており、クラウド利用時も通信経路・保存データの暗号化が標準化されています。
ファイル要約・再構築機能の実用性WordやPDFなどの既存資料をアップロードして要約・構成案を生成可能で、文書業務の時間削減に大きな効果をもたらしてくれます。
操作履歴の可視化と管理性各ユーザーの利用歴を自動記録し、不正利用防止や内部統制にも活用可能な点が評価されました。
現場に浸透しやすい操作性シンプルでわかりやすい画面設計により、AI活用に不慣れな職員でも即戦力として使いこなせる操作性を実現しています。
コスト面での合理性高機能ながら導入・運用コストを抑えられる点も、他社AIとの比較で採用を後押ししました。

上記の総合評価により、daili AIが行政現場でもっともバランスよく案件を満たすツールとして採用されるに至りました。

導入決定までのプロセス

大分市は庁内業務の効率化を具体的に実現するため、以下のステップで進められました。導入を決めた背景には、職員の文書作成負担を軽減し、行政サービス全体の質を向上させたいという目的があります。

導入検討の開始

2023年6月頃から、大分市は生成AI導入の検討を本格化させています。
企画部・情報政策課・ICT推進室が手動し、行政文書作成や庁内資料の確認、国・自治体資料の精査など、AIが活用できる業務領域を洗い出しました。
洗い出しの結果、AI導入による工数削減や業務品質の向上といった効果が見込まれる分野を特定しました。

要件定義と評価軸の設定

検討結果を踏まえ、要件定義フェーズへ移行します。
安全性・ファイルアップロード機能・ログ管理機能・操作性の4項目を評価軸とし、行政データを扱う上で必要なセキュリティ水準や職員が直感的に扱える操作性などを評価では重要視しています。

公募型プロポーザルの実施

2024年初頭、大分市は公募型プロボーザル方式によるペンダー選定を実施しました。
同方式は価格だけではなく、提案内容・技術力・実績を総合的に評価し、最も案件に適した事業者を選ぶものです。

採用決定

最終的に上記要件を高水準で満たしたSBテクノロジーのdaily AIが選定され、2024年5月に正式採用されました。
安全性・操作性・既存業務との親和性が評価の決め手となり、庁内での本格運用に向けた体制整備が整えられ、導入されて現在に至ります。

daily AI導入時の課題と苦労

生成AIを導入するにあたり、大分市が直面した課題や懸念には主に以下のようなものがありました。

  • セキュリティ・情報管理
  • 職員教育・操作習得
  • AIの制度・ご動作対応
  • コスト面と運用体制整備

セキュリティ・情報管理の懸念

行政がAIを利用するうえで最も慎重を要したのが、個人情報や機密情報を扱う際の安全性です。
大分市では入力データが外部学習に利用されない仕様であることを前提にdaily AIを採用しました。
さらにアクセス権限の階層化や通信の暗号化、利用ログの一元管理を組み合わせることで、内部統制の強化を図りました。運用後も庁内で生成AI活用の手引を整備し、入力禁止データの基準や利用ルールを明文化しています。

職員教育と操作の習得

新しい技術の導入では、利用者教育が鍵を握ります。
大分市では導入初期段階で職員向けに説明会や研修を開催し、プロンプト作成の基礎や庁内文書の要約・整理方法など実務に即した利用方法を共有しました。
また、SBテクノロジーが提供するテンプレート機能やサンプルプロンプトを活用し、誰もが簡単に操作できる環境を整備しています。操作になれない職員には個別支援も実施し、全ての部署での活用を支える体制を構築しました。

AIの精度・誤動作の対応

生成AIは回答内容の正確性が常に課題となります。
大分市ではAIが出力した内容をそのまま利用するのではなく、職員が確認・修正を行う前提で運用する体制をとっています。誤情報防止のため、AIに与えるプロンプトをテンプレート化し、質問の意図を明確にする工夫も実施しました。また、精度向上を目的に、庁内で有効な活用事例を共有する場を設け、改善のノウハウを蓄積する仕組みも構築しています。

コストと運用体制の整備

AI導入では運用コストと管理体制の確立も課題のひとつでした。大分市では、daily AIの定額料金プランを採用し、ユーザー数に依存しない安定的なコスト構造を実現しています。さらに、ICT推進室を中心に、管理者権限の設定やログ監査を一元管理する仕組みも設けています。運用体制を整備することにより、トークン利用料の把握や運用状況のモニタリングを継続的に実施できる体制が整いました。加えて庁内でのフィードバックをもとに利用ガイドラインやFAQの更新も実施し、運用負担の最小化を図っています。

導入後の効果

daily AIの導入後、大分市では行政事務の効率化や職員負担の軽減、意思決定の迅速化など、複数の改善が見られ始めています。

資料作成・確認工数の削減による職員負担の軽減_約30〜40%削減

daily AIの導入によって、行政資料や庁内文書の作成・確認に必要な工数を約30〜40%削減する成果が得られています。従来は、文書の要約や文面確認に職員の多くの時間が費やされていましたが、AIが下書き作成や表現調整を担うことで、修正中心の作業へと移行しました。
AIによる業務サポートを実施した結果、単純作業の負担が減少し、企画立案や政策検討といった創造的業務に充てる時間を確保できています。
また、資料のドラフト生成・要約機能が定着したことで、文書作成に要する平均時間は従来の半分程度まで短縮された部署もあり、庁内全体の業務効率化に寄与しています。

市民サービスへの影響

直接的には市民サービスに現れる効果は、まだ明示的に公表されていませんが、職員の業務効率化によって、問い合わせ対応や資料公開、行政判断迅速化などで間接的な改善が期待されます。
また、大分市の公式Webで確認できるDXの取り組み事例集でも市民サービスの向上をひとつの柱に据えています。

その他のAI活用事例

大分市では、daily AI意外にもAI/デジタル技術を使った実証やシステム導入が進んでいます。
例えばBIツールによるデータ分析・可視化の実証実験があります。
2023年12月から3ヶ月間、大分市公民連携DX推進事業の一環として日鉄ソリューションズと共同で実施され、6部署が参加して業務データの可視化・分析・ダッシュボード作成等を実施しました。
また、大分県のLINE公式アカウントでは子育て支援や妊娠。結婚に関する疑問などに24時間対応するチャットポットが導入されています。情報提供を希望するテーマを設定できるほか、必要に応じて有人チャットへの切り替えも可能です。

今後の展望

大分市では、「DX推進計画」において、行政事務の効率化・市民サービスの向上・人材育成を三本柱とする方針を掲げており、AIやデジタル技術の推進が目標達成には不可欠だと位置づけています。
今後、daily AIのような生成AIを福祉・医療・インフラ整備をはじめ他分野にも展開するほか、BIツールを用いた他局横断的データ活用やオープンデータの活用推進も視野に入れています。
加えて、職員教育やより詳細な活用マニュアル整備など、庁内にAI技術をより浸透させるための取り組みも継続中です。

まとめ

大分市は生成AI「daily AI」の導入により、資料作成・確認工数の削減による職員負担の軽減、部署横断の情報共有促進といった効果が表面化しつつあります。
他にもBIツールやチャットポットなどの技術導入も進んでおり、多方面でDX化へ向けての取り組みを展開しています。
今後はAI技術をさまざまな行政分野に広げていき、技術基盤と職員力を並行して強化することで更なる成果を見出せることでしょう。

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