OMPOホールディングス株式会社と株式会社東芝は、健康診断結果から生活習慣病発症のリスクを6年先まで予測する疾病リスク予測AIサービスを共同開発し、2020年7月から運用開始しました。本サービスは医療法人社団ミッドタウンクリニックにて、人間ドック受診後のレポートに、疾病リスク予測結果を掲載するために用いられていたAIを一般サービス化したものです。
本記事では、疾病リスク予測AIサービスについて、どのような技術によるものなのか、活用によりどのように診療を変えるのか、今後の課題は何かといったことを解説いたします。
東芝とSOMPOがミッドタウンクリニックと協力、リスク予測AIを一般化
疾病リスクを受診者にどう提示する?
東京ミッドタウンクリニックは、健康診断を行ったとしても、その後に予想される疾病リスクを受診者に対して具体的に提示しづらいという問題を抱えていました。これでは保健指導とならず、受診者自身も生活習慣改善に積極的になりません。
そうした点を克服すべく、同クリニックでは東芝の協力のもと、人間ドック受診後のレポートに予測AIを用いた疾病リスク予想を記載するようになりました。
東芝グループのAI・ビッグデータ解析技術
東芝は医療現場でのビッグデータを分析し、生活習慣病に関するデータ分析やAIの開発に注力しています。その内訳は疾病リスク予測AIサービス、重症化予防のためのソリューション、そして最適な予防法開発(ただし研究段階に留まる)といったものです。
疾病リスク予測AIサービスは1年分の健康診断データをもとに、6年先までに、糖尿病、高血圧症、脂質異常症、腎機能障害、肝機能障害、そして肥満症という6つの生活習慣病の発症可能性を予測することが可能です。
東芝は社員数が多く、離職率が低いことを特徴とした企業です。それゆえ、各社員の複数年分のデータを大量に保有し、それらを機械学習に使用できたことで、高精度な予測を行えるAIモデルの構築を可能としました。
SOMPOは健康管理スマホアプリを開発

SOMPOひまわり生命保険は自社アプリである「MYひまわりアプリ」の一機能として、東芝との共同開発による疾病リスク予測AIサービスを用いています。健康診断結果の登録により、AIが5年以内に罹患する確率の高い疾病リスクを予測します。診断結果をカメラ撮影で簡単に登録、管理できるほか、疾病に罹患した場合の平均年間医療費を予測する機能も搭載されています。
予測AI導入で保健指導はどう変わる?
疾病予測リスクを算出、改善項目を指導

AIは患者に対し、予測される疾病リスクの改善につながる生活習慣を立案、アプローチします。どういう改善策を行えば、どれだけ疾病リスクが減少するのかということを提示するため、具体性に満ちた健康増進プランを患者に提供します。
東京ミッドタウンクリニックでは、患者が健康診断を受けると、そのデータをAIが解析し、将来発症しうる生活習慣病のリスクを算出します。そしてリスク現象のために寄与する度合いと共に、さまざまな改善項目を提案します。
わかりやすい保健指導が可能に。患者の意識改革にも
今、医療関係者の方の懸念として、健康診断の受診者にとって明瞭で細やかな指導ができていない問題が挙げられています。しかし予測AIの導入により、疾病リスクを明示し、改善策をデータと共に示すことで、より伝わりやすい保健指導が可能になります。
東京ミッドタウンクリニックの受診後レポートでは、リスクをパーセンテージで示しています。これにより受診者の意識・行動の変革を促し、健康診断のリピート率向上をも実現しているのです。
自治体、法人、ヘルスケア事業者、それぞれの予測AI活用
自治体の健康サービス向上、ヘルスケア事業も立ち上げやすく
疾病リスク予測AIは、医療機関ばかりでなく企業の人事総務担当や、自治体にも貢献するシステムです。一般企業の人事担当者や、自治体職員からも、生活改善指導が困難だという声が上がっています。従業員の方や地域住民の方に健康診断結果を伝えるだけでは、生活改善の必要性・重要度を理解してもらい難いからです。
しかし予測AIを導入すれば、企業・自治体の健康経営のためのサービスを充実化できます。そのため従業員の方、地域住民の方の健康管理や、健康意識向上も期待できます。医療費削減につながる点も注目すべきでしょう。
人間ドック受診後レポートや健康アプリで予測結果が活きる
ヘルスケア事業者の方の場合、顧客に対してより進歩した健康サービスを提供したいとお考えのことでしょう。予測AIを導入すれば、東芝とSOMPOによる高品質な健康診断データを利用して、新規サービスを素早く構築できます。
また、APIサービス(顧客のデータや機能を外部サービスと連携させるサービス)により、ご自身の会社やお客様の負担にもなりません。
データの精度・信頼性・患者のプライバシーの課題
データの質をどうするか、患者の機密データを守れるか

データ関連の問題があります。
訓練データの質が低かったり、人種・性別による偏りがあったりといった要因で予測精度が低下する可能性もあります。大規模な医療データの収集が難しく、リアルタイム更新が追いつかないという事態も起こり得ます。これに関しては多民族・他人種のデータ構築を諸外国と協力して行ったり、継続的なデータ更新を義務付けたりといった対策が必要となります。
また、患者の機密データが漏洩する、サイバー攻撃によるデータ侵害を受けるといったリスクもあります。これについては差分プライバシー技術を活用し、データにノイズを加えて匿名化したり、定期的なセキュリティ監査を実施したりといった対策を取る必要があります。
パーソナライズされた予防医療へ。社会全体の医療負担軽減にも
予測対象を拡大、保険商品開発にも
疾病リスク予測AIは今後も発展・拡張の可能性を秘めたシステムであることに変わりはありません。東芝グループは2020年の時点で、糖尿病性腎症重症化予防、心疾患などにもAI活用を行い、生活習慣改善のためのテクノロジー開発を進めると発表しています。いち早くその技術を導入した東京ミッドタウンクリニックにならい、他のクリニックにも同様のAI活用医療が浸透していくことでしょう。
また、既に東芝の産業AI技術とSOMPOの保険データが融合しているように、業界横断的な健康サポートシステムの構築も見込めます。AIサービスを導入する自治体との連携も望めるでしょう。
まとめ
現代人の誰もにつきまとうリスクである生活習慣病。その予防や克服のために、疾病リスク予測AIは有効打となることが期待できます。産業AIで培われた東芝の技術と、SOMPOの保健データとの合体で、我々の疾病リスクは6年先まで予見できるようになりました。パーソナライズされた保健指導、社会全体の医療負担軽減といった効果が社会にもたらすメリットは大きいでしょう。データ制度やプライバシー問題といった課題は残しつつも、その有効性は揺らがぬものといえそうです。


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