ゆうちょ銀行がAI-OCRを導入して業務を60%削減!

「月末の請求書処理に追われている」「上層部から業務効率化を求められるが、解決策が見えない」

実際、業務の効率化は企業共通の課題です。

特に請求書や申込書といった書類のデータ入力において、課題となっているのが、手書き文字です。従来型のOCR(画像をテキスト化する技術)では手書き文字の認識精度が低く、結局は手入力に頼らざるを得ないのが現状です。

こうした中、株式会社ゆうちょ銀行(以下、ゆうちょ銀行)はAI-OCRを導入し、年間1,400万件に及ぶ自動払込利用申込書の処理を約60%効率化を実現しました。

本記事では、ゆうちょ銀行の事例をもとに、AI-OCRの導入を成功させたポイントを解説します。

目次

【AI-OCRを導入した背景】従来型OCRの課題と業務負担

ゆうちょ銀行がAI-OCRを導入した背景には、以下の2つの要因があります。

  • 従来型OCRの課題
  • 業務負担

従来型OCRの課題

要因課題
数千種類の帳票自動払込利用申込書などは、数千種類の帳票が存在し、すべてに対して読み取り設定することは困難
手書き文字の癖顧客ごとの筆跡のばらつき、崩し字、訂正印などに対し、従来型OCRでは誤読が頻発

AI-OCR導入の背景には、手書き文字の認識をAIに委ね、ミスのない体制を構築したいという狙いがありました。

業務負担

もう一つの背景として、年間約1,400万件もの自動払込利用申込書の処理が挙げられます。

全国11カ所の貯金事務センターで対応してきましたが、紙の申込書に記載された内容と顧客情報を照合する作業に、人手と時間が必要でした。

人員の減少が進む中、繁忙期に正確な処理を維持することが困難になり、業務の効率化が急務となっていました。

ゆうちょ銀行が導入したAI-OCRとは?

年間1,400万件の処理を実現するため、ゆうちょ銀行が導入したのは、日本電気株式会社(以下、NEC)が提供するAI-OCRです。

NECが提供するこのシステムには、Arithmer株式会社が開発したAIエンジン ArithmerOCRが搭載されています。

では、AI-OCRがどのような特徴を持ち、なぜゆうちょ銀行は導入したのでしょうか。次の項では、以下の3点について詳しく見ていきます。

  • 導入したAI-OCRの特徴
  • AI-OCRの導入基準
  • RPAとBPMSの連携

自社での活用も視野に入れつつ、詳しく見ていきましょう。

導入したAI-OCRの特徴

機能特徴
ディープラーニング崩し字やクセ字も読解
AIがデータを学習し、筆跡の個人差を克服
高度な画像処理シワや汚れのある紙も読解
読み取り前に傾きやノイズを自動補正し、紙の状態が悪くても精度を維持
専用学習モデル自社独自の帳票に完全対応
帳票データを学習させ、自社独自のフォーマットでも実務レベルの精度を実現

ゆうちょ銀行は、数千種類の帳票データを学習させ、独自にカスタマイズした専用学習モデルを構築しました。

AI-OCRの導入基準

ゆうちょ銀行がNECを採用した理由は、数千種類にも及ぶ自動払込利用申込書の読解という難題を解決できた点にあります。

さらに、以下の表に示す要件をすべて高い水準で満たしており、ゆうちょ銀行のニーズに合致しました。

項目要件
認識精度実際の帳票を用いたテストを実施し、業務の正確性を担保できるか確認
セキュリティ顧客資産を守るため、総務省推奨の対策やゼロトラスト環境に対応し、情報の持ち出しを防ぐ仕組みを追及
連携性システムへデータを自動で受け渡せる連携を条件

AI-OCRを選定する際は、基幹システムとデータをどのように連携させるか、その手法を見据えておくことが重要です。

RPAとBPMSの連携

ゆうちょ銀行は、AI-OCRを単体の導入で終わらせず

  • RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)
  • BPMS(ビジネスプロセスマネジメントシステム)

と組み合わせました。

それぞれのツールの役割を以下の表にまとめています。

ツール人に例えると役割
AI-OCR目の役割紙の情報を高精度に読み取り、データ化
RPA手の役割データ化した情報を基幹システムへ自動入力し、誤りがないか確認
BPMS脳の役割業務フロー全体の進捗を管理し、エラー時のみ人へ通知

ゆうちょ銀行の事例のように、AI-OCR、RPA、BPMSの3つを組み合わせることで、業務フローの自動化が実現できます。

AI-OCRを導入した成果

AI-OCRとRPA、BPMSを連携させたことで、以下の成果が得られました。

  • 精度の向上
  • 業務効率化
  • 働き方改革

ゆうちょ銀行の成果を自社の課題と照らし合わせながら、詳しく確認していきましょう。

精度の向上

導入時の課題であった認識の精度において、成果が得られました。

金融の業務では厳しい基準がありますが、ゆうちょ銀行はこの基準を満たす正確性を確保しました。

成功の要因は、2つの技術にあります。

1つ目は、ディープラーニングによる読めない文字の克服です。

従来型OCRでは誤読が頻発していた崩し字や訂正印が重なった文字も、人間と同等以上のレベルで認識できるようになりました。

2つ目は、チューニングによる進化です。

実際の帳票データを学習させることで、ゆうちょ銀行特有の記入パターンに最適化されました。

業務効率化

AI-OCRの導入の成果を以下の表にまとめました。

指標成果
処理対象年間1,400万件の処理を抱える業務負担を削減
効率化率人手による処理工数を約60%削減
コスト営業経費550億円削減の目標達成を後押し

特に注目すべきは、RPAやBPMSとの連携により業務プロセス全体の工数を約60%削減できた点です。

働き方改革

1円のミスも許されないプレッシャーの中で数字を確認する作業は、担当者にとって大きなストレスとなっていました。

AIがこれを肩代わりすることで、現場の負担は軽減されました。

さらに、効率化で生まれた時間はローン・法人営業やDX推進などの分野へ再配置されています。

人は顧客対応や企画などの高付加価値業務に集中し、定型業務はAIに任せる理想的な役割分担が実現しました。

AI-OCRの導入プロセス

ゆうちょ銀行は以下の3つのプロセスを経て、AI-OCRを導入した成果を出しました。

  • 精度の検証
  • フロー構築
  • セキュリティの確保

同様のプロセスを踏むことで、自社でも成果を出せる可能性が高まります。

精度の検証

最初のプロセスは、自社のデータで実証実験(PoC)を行います。l

まず、実際に書かれた文字が崩れた帳票や、汚れのある帳票を学習データとして使用しました。

次に、上記のデータを基にゆうちょ銀行専用の学習モデルを生成しました。そして、目標とする正読率をクリアできるまで、テストと改善を繰り返します。

重要なのは、担当者が納得するまで検証することです。

現場の確信が得られないまま導入を進めると、運用の段階で不満や混乱が生じ、定着しない恐れがあります。

フロー構築

AIも万能ではなく読み取れない文字や誤読が発生することがあるため、処理方法を事前に設計しておく必要があります。

ゆうちょ銀行では、AIの確信度を活用したフローが構築されています。以下の表に確信度について表で表しました。

AIの判断処理フロー
高確信度(自信あり)データをそのままRPAへ渡し、基幹システムへ自動入力
低確信度(自信なし)警告を出し、担当者が画像を確認して補正入力

低確信度のデータを再びAIに学習させることで、苦手だったパターンを克服し、次からは自動処理できるようになります。

つまり、使い込むほどに確信度が高まり、自動化が促進されていく仕組みです。

セキュリティの確保

金融機関にとって、顧客情報の流出は企業の存続に関わります。AI-OCR導入にあたり、ゆうちょ銀行はセキュリティを整備しました。

内容は以下の表の通りです。

対策項目具体的な取り組み
ネットワークの分離総務省のセキュリティ三層対策に基づき、機密情報を扱うシステムとインターネット接続システムを分離
ゼロトラスト対応ゼロトラストセキュリティを前提に、厳格な権限管理とログ監視を徹底し、内部不正やサイバー攻撃に対応

アクセス権限の管理やログ監視が機能しているかを確認することが大切です。

AI-OCRの導入ロードマップ

ゆうちょ銀行から学べる導入のロードマップは以下の通りです。

  • スモールスタートの実施
  • ツールの連携を踏まえた導入

具体的なステップを見ていきましょう。

スモールスタートの実施

ゆうちょ銀行は、年間1,400万件の処理が発生する自動払込利用申込書を重点的に取り組みました。

すべての帳票を対象にすれば調整は長期化します。そのため最も枚数が多いものに絞り、成果を出すことが重要です。

特定の業務で実績ができれば、社内の反対も説得しやすくなります。この業務だけは絶対に自動化するという方向性が必要です。

ツールの連携を踏まえた導入

AI-OCRを導入した目的は、業務の自動化です。

AI-OCRで読み取った後、RPAやBPMSの連携を踏まえた戦略を考える必要があります。

予算を組む際は、AI-OCRのライセンス費用だけでなく、RPAツールや連携開発費を含めたトータルコストで考える必要があります。

その上で、削減できる人件費やミス対応時のコストと比較し、明確なROIを算出しましょう。

AI-OCRによる業務改革

ゆうちょ銀行の事例では、年間1,400万件の自動払込利用申込書処理において、業務効率を約60%向上させることに成功しました。

この実績を支えたのは、AI-OCRやRPA、BPMSを連携させた業務プロセスの完全自動化です。紙のデータ化からシステム入力、工程の管理まで一連の流れをつなぐ仕組みが、業務の効率化をしました。

導入を成功させるためには、どの業務がボトルネックかという課題の抽出から始めてください。課題を起点にAI-OCRとRPAをつなぐロードマップを描くことが、自社の業務を60%削減へと導く最短ルートとなるでしょう。

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