AI導入で変わる老人ホームのケア〜安全性・QOL・介護負担軽減への効果とは〜

2025年、75歳以上の人口が2000万人を超えました。超少子高齢化の時代に介護現場は人手不足・負担増という構造的問題を抱えており、AI・ロボットはそれを補う選択肢として注目されています。

この記事では、実際のAI・ロボットの導入事例を交えて介護現場でのAIの活用について考えていきます。

目次

介護現場の現状

◇高齢者の定義とは
現在の定義では65歳以上が高齢者、75歳以上は後期高齢者とされています。しかし、平成 29 年3月時点における日本老年学会・日本老年医学会「高齢者に関する定義検討ワーキンググループ報告書」の段階ですら、65 ~ 74 歳では心身の健康が保たれており、活発な社会活動が可能な人が大多数を占めていることから、65 歳以上を高齢者とすることに否定的な意見が強くなっていました。75 歳以上を高齢者の新たな定義とすることが提案されています。

実際に65 歳以上の就業者等は増加し続けており、65 歳以上を一律に高齢者と捉えることは現実的ではないとされています。実際に、2021年の段階でも65~69歳の就業率は50%を超えているのです。

引用:統計局HP

◇75歳は介護における大きな節目
先のデータで見たように、病気やケガなどで就労が困難にならない限り、現代の医療技術や健康志向の流れを考えると75歳以上の人口は今後も増えていくことが容易に想像できます。実際に現在すでに75歳以上の人口は増え続けているのです。

この75歳という年齢ですが、介護をを受ける(要介護認定を受けている)1つの大きな節目の歳とされています。厚生労働省の調べでは、要介護認定を受ける割合は、65歳〜74歳では約4.4%ですが、75歳以上になると約32.3%(約3人に1人)まで大きく上昇します。初めて認定を受ける平均年齢は約75歳、介護施設(グループホーム等)の利用者の半数以上は85歳以上となっています。

◇75歳以上の介護とは
主に必要とされる介護の種類は大きく分けて3つあります。
・身体機能の低下
・認知機能の低下
・慢性疾患のに対する医療的管理


この3つが発生した際に要支援・要介護の認定を受ける割合が急増します。認定を受けることで介護保険を適用して様々なサービスを受けることが可能になります。しかし、これらが発生したからといって、すぐに老人ホームなどに入居するわけではなく、訪問介護・看護やデイサービスなどを利用するケースがあります。本人や家族の意向に応じて状態に適したサービスを利用する形となります。これらのサービスを利用するにはさまざまな段階を踏んで、各種専門担当スタッフに相談しながら利用へと至ります。

1. 身体介護(身体機能低下への対応)
介護スタッフが実際に体に触れて行う介助
移動・歩行の介助(トイレ、寝室からリビングへの移動)
入浴、着替え、排泄の介助
食事の介助
体位変換や清拭(寝たきり予防・褥瘡予防)

2. 生活援助(日常生活のサポート)
家事や生活上の困難をサポートする内容。75歳以上で一人暮らしや老老介護の場合に特によく利用される。
掃除、洗濯、布団干し
調理、買い物
薬の受け取りや服薬管理

3. 特徴的な介護・支援
75歳以上の身体特性(認知症や機能低下)に応じたケア
認知症ケア(認知症対応型通所介護やグループホームなど)
機能訓練・リハビリ(デイサービスでの運動)
医療的ケア(訪問看護、痰の吸引、褥瘡処置など)
福祉用具のレンタル・購入(歩行器、杖、介護ベッド)
住宅改修(手すり取り付け、段差解消)

4. 75歳以上でよく利用されるサービス形態 
在宅サービス(居宅): 訪問介護(ヘルパー)、訪問看護、デイサービス(通所介護)
地域密着型サービス: 小規模多機能型居宅介護(通い・訪問・泊まりを一体的に提供)、認知症対応型グループホーム
施設サービス: 特別養護老人ホーム(特養)、介護老人保健施設(老健)

「高齢による衰弱(31.5%)」が最も多く、次いで「関節疾患(16.4%)」「脳血管疾患(12.1%)」となっています。また、夫婦のみの世帯や独居世帯が増えるため、食事や掃除といった生活支援から介護が始まるケースが多いとの調べもあります。

介護分野におけるAIの活躍

《利用者向けサービス

◇見守りAI ― 転倒・異常行動検知で安全性向上

WatchOverSmart(OKI)沖電気工業株式会社

引用:沖電気工業株式会社


OKIが提供する「WatchOverSmart」は、ベッド上に設置したセンサーで離床や転倒予兆を検知し、スタッフへリアルタイム通知を行う見守りAIです。映像に頼らず動作データを解析する設計のため、プライバシーに配慮しながら常時見守りが可能となっています。また、夜間の巡視回数削減や介護負担軽減につながるとして、介護・生活支援ロボット認証も取得しています。

同様のAI見守りシステムを導入した施設では、事故対応会議の時間が約3分の1に短縮されたという報告もあります。
“事後対応”から“予兆検知”へ移行することで、介護の質そのものが変わり始めているようです。

期待される効果
転倒・離床の予兆を検知 → 事故の未然防止
夜間巡視の回数を削減 → スタッフ負担の軽減
スタッフへの迅速な情報共有

Kami Fall Detect Camera(Kami Vision)

引用:KamiHome


Kami Fall Detect Cameraは、アメリカのKami Vision(カミビジョン)社によって開発されたAI搭載の高齢者向け転倒検知カメラです。AIカメラが転倒を自動検知し映像付きで通知するシステムで、公表情報では約99%の転倒検知精度があるとのこと。転倒は要介護度を大きく引き上げる重大リスクであるため、検知精度という数値で評価できる点は、導入検討時の重要な判断材料になります。

効果のポイント
転倒発生から通報までの時間短縮
個室設置に適したシンプルな構造
家族との情報共有が容易に可能

◇コミュニケーションAI ― 孤独感と認知機能への影響

ElliQ(Intuition Robotics)

引用;兼松株式会社


ElliQ(エリキュー)は、イスラエルに本社を置くスタートアップ企業Intuition Robotics(インテュイション・ロボティクス)が開発したAIコンパニオンロボットです。高齢者の孤独感解消や健康管理、自立支援を目的とした、対話型のAIソーシャルロボットで、イスラエルの技術企業が核となって開発していますが、米国などで利用が広まっていることで知られています。また、 2025年9月、日本の兼松株式会社が同社へ出資し、日本市場向けに共同開発・展開することが発表されました。

ロボット介入に関する学術レビュー(JMIR Aging など)で、以下のような効果が期待されるということで今話題になっています。人の完全な代替とまではいきませんが、「毎日話しかけてくれる存在」が心理面に与える影響は決して小さくないことは間違いないでしょう。

期待される効果
認知機能の改善傾向
抑うつ症状の軽減
ポジティブ感情の増加

Pecola(Pecola Inc.)

引用:工業技術研究院


Pecolaは台湾の工業技術研究院(ITRI)が開発した、独居高齢者のためのスマートケアロボットです。転倒検知、生活モニタリング、ビデオ通話を統合した介護支援ロボットで、2020年にはCES Innovation Awardも受賞しています。

部屋に置くだけで、AIが高齢者の動きや生活リズムを学習し、普段と異なる行動(長時間トイレにこもる、夜間に起きたままなど)を検知します。非侵入型(カメラ不使用)でプライバシーに配慮し、カメラではなくセンサーを使用するため、寝室や脱衣所にも安心して設置できるため安心して使用ができます。また、緊急事態を検知すると家族や介護者のスマートフォンへ通知が届くなどの情報共有もされる機能がついています。

利用者自身が会話することで認知症予防や孤独感の解消を促したり、介助者にとっても日々の生活データを記録し、生活習慣の改善や、ケアプラン作成の基礎資料として活用するなど、さまざまな使い方ができます。このように、近年の介護分野におけるAIの特徴として、単機能型から複合型へと進化していることがあげられます。

期待される効果
見守り+コミュニケーション機能を統合
家族との映像通話による安心感向上

AIみまくん(ロボ・スタディ株式会社)

引用:ロボ・スタディ株式会社

AIみまくんはロボ・スタディ株式会社の音声認識AI搭載の小鳥型見守り対話ロボットです。ChatGPTと連携しており、高齢者の話し相手、孤独解消、薬の飲み忘れ防止、緊急時の家族への連絡などを、Wi-Fiと電源だけで簡単に行える介護・生活支援ツールとして開発されました。会話内容は記録され、日々の健康チェックにも活用することが可能です。

ロボットのくちばしを10秒つまむと、あらかじめ登録した家族のLINEへ緊急連絡してくれるなど、他とは違う変わった機能も付いています。落語や脳トレクイズ、音楽再生などの機能も搭載しており、日々の楽しみのためにも使えます。このようにAIは“会話を増やす触媒”としても機能し始めています。

実際に取り入れている現場の声
入居者が自発的に話しかけるようになった
スタッフとの会話のきっかけが増えた

《介護スタッフ向けサービス》

介護現場で最も時間を奪われている業務のひとつが「記録作成」です。ケア内容、バイタル、食事量、排泄状況など、これらを毎日入力する作業は、現場にとって大きな負担になっています。ここに導入が進んでいるのが、音声入力やAI要約による記録支援システムです。

◇生活支援・業務支援AI ― 介護職の時間を取り戻せるか
ほのぼのNEXT(NDソフトウェア株式会社)
介護ソフト大手NDソフトウェアが提供する「ほのぼのNEXT」は、ケア記録・請求業務・ケアプラン管理を統合したシステムです。近年は音声入力や入力補助AIの導入が進み、記録時間短縮と入力ミス削減が現場効果として報告されています。

イズマンシステムSP(ワイズマン)
ワイズマンシステムSPは、株式会社ワイズマンが提供する、介護・福祉・医療分野でトップクラスの導入実績を持つ包括的な介護ソフトです。介護記録、請求業務、計画作成、経営分析まで幅広く対応し、クラウド型(ASP)も提供されているため、タブレットでの記録や複数事業所の情報共有、災害時のデータ保護に強みがあります。

音声記録支援AIを導入した施設では、記録作業が約60分 → 約25分に短縮されたという事例も報告されています。重要なのは、削減された35分が「休憩時間」ではなく、 入居者との対話時間・ 丁寧なケア時間・ 観察の質向上に再配分されているという点です。

見守りAIが「事故を減らす」技術だとすれば、記録支援AIは「人と向き合う時間を取り戻す」技術です。介護現場の疲弊は、体力だけでなく“書類負担”からも生まれているのです。AIは直接ケアをするわけではありませんが、AIがケアする人をサポートすることで、ケアをする人の余裕をつくることにつながります。記録支援AIの最大の価値はそこにあるといえます。

それでも万能ではない。AIと共に介護現場をささえる。

介護分野では、AI技術が事故予防利用者の心理的安定職員の業務効率化に一定の効果をもたらすことが確認されています。転倒検知センサーや見守りシステム、記録支援ツールなど、現場の負担を軽減する技術は着実に普及しつつあり、特に夜間の見守りや記録業務の効率化では明確な成果が見られます。

一方で、導入には依然として多くの課題が残されています。初期費用やランニングコストの負担職員のITリテラシー向上の必要性、そして人と人との関係性が希薄になるのではないかという懸念は、現場で繰り返し指摘される点です。AIが介護の質を高める可能性を持つ一方で、「人間らしいケア」をどのように守るかという問いは避けて通れません。

特に中小規模の介護施設では、AI導入の判断材料として投資対効果(ROI)の明確さが欠かせません。現実に、次のような理由から導入をためらうケースが多く見られます。

  • 費用対効果が見えにくい — 利用者数や稼働率が限られるため、投資回収の見通しが立てにくい状況
  • 既存システムとの連携が必須になる — 介護ソフトやナースコールとの接続が必要な場合、追加開発やカスタマイズ費用が発生し、想定以上のコストになる
  • 導入しても即戦力にはならない — AIは人手不足を「すぐに」解消する魔法の道具ではなく、運用定着までに時間と教育が必要
  • 現場の不安感が根強い — 「機械に頼りすぎるのではないか」「利用者との関係が薄れるのではないか」といった心理的抵抗も無視できない

こうした事情から、「導入すればすぐに人手不足が解消するわけではない」という現実が、施設側の慎重な姿勢につながっています。

AIを単なる“省力化ツール”として捉えるのではなく、介護の質を守りながら持続可能な体制をつくるための基盤として位置づけることが重要です。そのためには、次のような視点が求められます。

  • 小さく始めて効果を可視化する — 一部の業務から導入し、成果を数値化して職員と共有することが有効
  • 現場の声を反映した設計・運用を行う — 技術側の論理ではなく、介護現場の実態に合わせたカスタマイズが必要
  • 人とAIの役割分担を明確にする — AIは“判断の補助”や“見守りの強化”に徹し、最終的な判断や寄り添いは人が担うという線引きを共有することが大切
  • 教育とサポート体制を整える — ITリテラシーの差を埋める研修や、トラブル時のサポートが不可欠

AI導入の目的を「人手不足の穴埋め」ではなく、「介護の質と働きやすさを両立するための投資」と捉え直すことで、より現実的で持続可能な導入戦略を描けるようになります。

まとめ

老人ホームなどで使われるAIは、人を置き換える存在ではなく、人を支える存在へと進化しています。見守りAIは“事故を減らす”・会話AIは“孤独を和らげる”・業務支援AIは“ケア時間を増やす”といった形でAIにどのようなサポートを求めるかで実現されるものは変わってきます。ここまでご紹介してきた事例や製品については、テクノロジーそのものの性能よりも、介護という営みの価値をどう守り、未来につなげるかという視点に根ざしています。

これからの超高齢化と少子化が進む社会では、介護分野におけるAIとの向き合い方は、単なる技術導入の問題ではなくなっています。AIをどのように活用するか以上に、その技術と共に介護現場をつくっていく過程で、高齢者の尊厳をどう守るか、そして介護者が持続可能に働ける環境をどう維持するかが、本質的な課題として浮かび上がっています。

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