日経BPの各種媒体の読者など1450人を対象とし、2025年7月に実施された独自調査で、日本企業における生成AIツールの導入率は64.4%、AIエージェントの導入率は29.7%であることが明らかになりました。2024年の調査では全社的または一部で活用している企業が33.8%にとどまっていましたが、この1年でその数は約倍になっています。しかし、アメリカに比べるとまだまだ導入に後れを取っており、大手企業と中小企業でも格差は激しい状態です。アメリカでは、AIの利用方法がこれまでとは形を変えてきています。アメリカにおける、AIを「使う」から「組み込む」とはいったいどういうことなのでしょうか。
この記事では、生成AIの技術を「使う」から「組み込む」に視点を当てて使用例を見ていきたいと思います。

「使う」・「組み込む」その違いとは
生成AI利用普及のターニングポイントは2022年末~2023年にかけてでした。OpenAIのChatGPTが公開されたことが、その理由と考えられています。それまでは、個人が気軽に利用できるAIのサービスがなかったため、情報はあっても利用する機会がありませんでした。しかし、ChatGPTの公開により、「誰でも使える」「手軽に試せる技術」として一気に注目をされて普及していきました。それは、個人だけでなく、ビジネスにおいても「ビジネス用途・業務効率化ツール」として認識されるようになりました。その結果、多くの企業が「まず使ってみる → 社内で活用検討 → 本格導入」という流れを始め、この転換が2023年〜2024年にかけて加速し、現在の導入率の伸びにつながっていると考えられます。
しかし、AIと一口に言っても生成AIとAIエージェントでは役割が異なります。この2つが「使う」と「組み込む」の差を生み出しています。それらの役割の違いと日本の企業の特徴をそれぞれの導入率のデータから見てみましょう。
□日本企業のおける生成AI導入率とAIエージェント導入率
以下のデータは日経BPの各種媒体の読者など1450人を対象とし、2025年7月に実施されたものです。
※全社的に導入と一部で導入の2つを単純合算すると64.5%となるが、これは四捨五入の影響で、実際の合計は冒頭で紹介した64.4%となる。(日経BP記事より)

ChatGPTの利用開始から始まった生成AIの開発や普及によりChatGPT以外の生成AIも進化をしてきました。株式会社ICT総研の調査で、企業での導入率が高い生成AIが明らかになりました。ランキングを見る限り、やはりChatGPTがダントツで利用率が高いといえます。

しかし、同誌の調査では、生成AIの導入率は上がっているものの、AIエージェントの導入率は伸び悩んでいることが調査データでわかります。

そもそも生成AIとAIエージェントにはどのような違いがあるのでしょう?
□生成AIとAIエージェント、どう違う?
簡単に言うと以下のイラストにあるように、何かを生成する(作る)ために使うのが生成AIで、業務の中にシステムを組み込んで人が指示を出し、代わりにタスクを実行してくれるのがAIエージェントです。用途が異なるため、それぞれ使用するツールも異なります。AIエージェントに関しては、日本国内において社会問題になっている人口減少や労働力不足という点で、今後利用が広がっていくことは間違いありません。

つまり、「AIを使う」と「AIを組み込む」の違いは、企業がAIをどのように導入し、どの深さで活用しようとしているかの違いとも言えます。
使う(利用する)ということに関しては、 既存のAIサービスをそのまま業務に取り入れるイメージといっていいでしょう。たとえば、「生成AIで文章を作る」「チャットAIで問い合わせ対応を補助する」などです。
組み込む(統合する)ということに関しては、 自社のシステムや業務プロセスの中にAI機能を組み込み、仕組みとして活用するイメージです。例えば、「社内システムにAIを組み込み自動判定を行う」「サービスにAIを埋め込んで顧客体験を改善する」などです。
日本の企業では、「使う」は普及してきていますが、「組み込む」が今後の課題となっており、各企業がチャレンジを続けている点でもあります。では、「組み込む」が日本よりも進んでいるアメリカでは一体どのように、AIを業務に組み込んでいるのでしょうか?
アメリカ大手企業で業務に溶け込むAI
どの程度AIを業務に取り入れるか。これはいうなれば、「AIに対してどこまで投資するべきか」ということです。投資した分、またはそれ以上の利益は返ってくるのでしょうか。また、ITリテラシーの進捗状況においても、導入することへの壁となる場合があります。
しかし、現在アメリカではより多くの大手企業が業務へのAI組み込みに積極的になっています。いくつか事例をご紹介します。
・Intuit(インテュイット)× Claude(以下、Claude・Intuit公式サイト参照)

アメリカには長年使われてきた、TurboTax などの税務申告ソフト/サービスを提供しているIntuit(インテュイット)という企業があります。Intuitは2023年9月、「Intuit Assist」というジェネレーティブAI搭載のデジタルアシスタントを発表しました。これは税務申告を支援するサービスで、人とAIの協業による税務申告支援が行えるというものです。同年11月には「オンライン版」「Live サービス版」において、生成AIによる機能強化が実装され、「DIY(自分で申告)」するだけでなく、「TurboTax Live(専門家サポート付き)+ Intuit Assist(AIサポート)」という形になりました。その後、2024年の確定申告シーズンから実運用が開始され、税金計算結果の説明や、控除チェック、ユーザーへの案内といったサポートをしてくれる形になりました。
このサービスは既存のTurboTaxの中にAnthropic(アンソロピック)のClaudeを組み込むことで実現したサービスです。Claudeの組み込み前と後で、以下のような違いがでてきたことで利用者(個人から企業まで幅広いユーザー)にとって、とても有益な効果を発揮しました。
組み込み前⇒手作業が多い・サポートは“検索型”(Q&Aをチェックするなど)・入力ミスに気づきにくい
組み込み後⇒Claudeと“対話しながら”申告が進む・Claudeが必要書類や控除を“自動で提案”・誤りやリスクの“リアルタイム警告”
つまり、Claudeが過去のデータまで精査してくれて、その人専用のチェックリストを作ってくれることで、申告漏れなくなる上に、専門家に相談しながら作業を行うような感覚で申告作業ができるようになりました。
・Cox Automotive(コックス・オートモーティブ)×VinSolutions(CRM システム)

(以下、Cox Automotive公式サイト参照)
Cox Automotive は、世界中で自動車流通・販売・流通支援サービスを手がける大手企業グループで、中古車オークション、ディーラー支援、流通プラットフォーム、クルマ売買サイトなど、多様なサービスを展開しています。そのCox Automotiveが2024年12月、VinSolutionsというCRMシステム(顧客管理システム)に生成AI機能を統合しました。この統合により、販売店(ディーラー)が持つ顧客データとCox Automotiveのマーケットデータを活用し、購買の可能性が高い「見込み顧客」を予測・抽出できるようになりました。
また、車種、在庫状況、市場需要、買取オファーなどを反映して、販促用の文章を自動生成するシステムを構築。案内文を短時間で作成できるようになったことで、「適切な車を、適切な顧客に、適切なタイミングで提示することができる」「顧客とコミュニケーション効率と反応率が向上する」といった、販売促進・成約率アップに有益であると同社は語っています。そして、手作業や属人管理の削減、人的ミスの低減、コスト効率化などに対しても同時に対応していけるツールとして期待がされています。
ここまで、2社の実例を見てきました。2社ともに社員一人一人が各業務を行うためにAIを「使う」といった形ではなく、AIが各社が使用している既存のシステムの根幹に統合されており、企業全体の取り組みとして使用されている子ことがわかります。
これらの事例を紹介している、モルガン・スタンレーでAI関連企業を統括しているシャーン・テハル氏はこれらの事例に関して、以下のように語っています。
「人手で時間をかけて行っていたが創造性を必要としない業務については、生成AIが代替する領域がすでに明確化されている」
日本におけるAIの組み込みの未来とは
生成AIの実用的な分野のひとつにコード生成があります。大学生や子供たちのプログラミン学習においても、生成AIは活躍しています。現在では、プロンプトを記述するだけで、フロントエンドやバックエンドの開発を自動で進めることが可能になりつつあり、特にアメリカではコード生成の分野において活用が普及しています。日本ではまだまだ、IT人材不足やコンサルタントへの依頼によるり、企業が独自で生成AIを活用し業務に組み込むことが難しい状況です。生成AIをうまく使えるようになるということは、企業が持っている独自のサービスと組み合わせて使用することができるようになるということです。
生成AIを導入したからといって、すぐに大きな成果が生まれるわけではありません。
まずは、社内でAIを使いこなせる少数の人材を中心に、小さな成功事例を積み重ねながら“自社らしい使い方”を見つけていくことが重要です。そのような取り組みを続けることで、AIは徐々に業務に根づき、気がつけば組織にフィットした自然な形で活用されていくはずです。
経営陣もこの点において、人材育成やAI導入にどの程度投資することで、それが未来で利益を生み出して企業の成長になるのかを見定めていく必要があります。


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