建築現場では、慢性的な人手不足によって技術継承が困難になっており、建築業界全体が抱える大きな課題のひとつです。
また、作業中の事故も減少してはいるものの無くなっているわけではなく、安全管理も解決しなければならない課題のひとつといえるでしょう。
東洋建設は、建築現場全体が抱える課題を解決するために、早くからAIを活用した取り組みを進めています。
本記事では東洋建設がなぜAI技術導入に踏み切ったのか、その背景を解説しつつ、具体的な導入事例を4つ紹介し、導入に踏み切った理由・導入までのプロセス・導入後の効果について分かりやすく解説します。
東洋建設がAI技術導入に踏み切った背景とは?
建設現場では、人手不足や熟練技術者の減少により、作業効率や安全性、技術継承が大きな課題となっています。
東洋建設はこれらの課題を解決するため、早期にAI技術を導入。
AIを「人を支える仕組み」として活用し、現場の負担軽減と安全性の向上を実現しています。
- 課題1ː膨大な資料や図面を探すのに時間を浪費
- 課題2ː現場の監視範囲が広く目視では事故やヒヤリハットの抑制に限界がある
- 課題3ː現在の教育プログラムでは客観的な技術評価ができない
- 課題4ː設計業務の負担が大きく作業効率が上がらない
上記4つの課題を解決するため、以下のAI技術を活用しています。
- 課題1への対策ː社内のデータや図面をデータ化し、AIによる検索の実現
- 課題2への対策ː現場にAIカメラを設置、危険行動や危険区域への進入をリアルタイムで検知、事故未然防止
- 課題3への対策ː作業者の動きや技能をAIで分析、評価・教育に活かす『技能見える化」プラットフォームを開発
- 課題4への対策ːトイレのレイアウトをAIが自動提案し、設計のスピードアップと品質の均一化を実現
AIの導入によって、東洋建設は現場の安全・効率・教育のすべてを支援する体制を整えつつあります。
社内ナレッジを即検索!東洋建設のGPT総合プラットフォーム
建設業界では、過去の設計図面や施工データが膨大で、必要な情報を探すのに時間がかかっていました。
紙やPDFを手作業で検索する非効率さが、ミスや情報の見落としを招いていたのです。
東洋建設はこの課題を解決するため、AIを活用した「GPT総合プラットフォーム」を導入しました。
GPTを活用した社内検索システム「TOYOBAI ASSISTANT」の導入

東洋建設は自社の抱える試料を迅速に検索するため、GPT(Generative Pre-trained Transformer)を基盤とする社内ナレッジ検索プラットフォーム「TOYOBAI ASSISTANT」を独自に開発し、導入しました。
同システムは自然な文章で質問するだけで社内文書や設計図面、報告書などを統合的に検索可能で、文脈を理解して関連情報を抽出してくれます。
さらに検索結果の要約や複数資料の統合回答も生成AIで実行可能で、必要な情報に素早くアクセスできることを実現。
導入のステップと工夫
導入にあたっては、社内に散在していた文書やデータをデジタル化・整理し、統一フォーマットでプラットフォームに取り込みました。
問題点として、建設業界特有の専門用語や社内用語が多々あるため、対応するためにAIモデルをチューニングする必要がありました。
チューニングしたAIが問題なく機能するかを確認するため、最初は一部部署で試験的に運用しています。
導入効果:情報検索と業務効率の大幅改善
AI導入により、従来は数十分から数時間かかっていた資料検索が数秒で完了し、業務効率が大幅に向上しました。過去事例の参照が容易になったことで設計品質や現場の安全性も改善され、若手社員や新任者も社内ナレッジを活用しやすくなりました。これにより教育効果が高まり、情報活用・業務スピード・人材育成の三面で成果を上げ、建設DXの推進につながっています。
AIカメラが危険を検知!東洋建設の労働災害防止フォーム
建設現場では高所作業や重機の操作など、常に労働災害の危険が伴います。
特に東洋建設が手がける海洋工事やインフラ工事では広範囲で作業を実施するため、人の目だけで監視するには限界があり、事故の未然防止が大きな課題となっていました。
現場の安全課題を解決するため、AIカメラによる映像解析技術を活用した「労働災害防止プラットフォーム」の開発・導入に着手します。
AI技術と導入プロセス
導入されたシステムは、現場から送られるカメラ映像をAIがリアルタイムで解析し、ヘルメットの未着用・立入禁止区域の侵入・危険な姿勢など労働災害のきっかけとなるような危険因子を自動検知して知らせるといった仕組みです。
AIは過去の映像データをもとに学習を重ねており、作業員の動きや周囲の変化を認識できるように設計されています。
導入にあたっての課題
AIカメラ導入時は、学習データの不足と高コストが大きな課題でした。
東洋建設は「フライングビュー」とクラウドAIモデルを活用し、社内で学習体制を構築。
その結果、外部委託を減らし、導入コストと期間を6割以上削減することに成功しました。
効果と成果
AIカメラの危険予知システムは、限定的な現場から段階的に運用が進行中です。
導入により、危険行動の早期発見と事故の未然防止が実現し、安全管理の負担も軽減。
さらに検知データの分析でリスクの高い時間帯や場所を可視化し、安全教育や計画に活用されています。
AIで技能を見える化!東洋建設の能力評価・教育プラットフォーム
建設業界では、熟練技術者の知見を若手へ継承することが課題になっており、東洋建設も例外ではありませんでした。
技術継承に関する課題を解決するため、東洋建設ではAIを活用した能力評価システムとLMS(学習管理システム)を導入し、社員の技術を可視化することで効率的に育成する取り組みをスタートさせています。
客観的かつ定量的な分析データによるAI能力評価・教育プラットフォーム
東洋建設では入社から10年で作業所長へと育成する「10年教育プログラム」に則って新入社員を教育していましたが、自分のレベルを把握する客観的かつ定量的な分析データがありませんでした。
新たに作成したAIによる能力評価システムでは、職位ごとに設けられた能力要件を172項目に分類し、従来の人材管理システムをAIが分析して個々の能力を評価します。
LMSには「SmartSkill Campus」が採用され、時間・場所に制約されずに学習できる環境を整備しました。
導入後の効果
導入後は、社員自身が自分のスキル到達レベルを理解しやすくなった、LMSを使って学びやすくなったことで、教育へのアクセス性が向上し、学習機会の均等化につながったといった効果が報告されています。
今後はAIによる分析結果と組み合わせて、研修やジョブローテーションの計画に反映させる構想も検討されています。
東洋建設はAIによる能力評価を単なるスコア化ツールではなく、社員の学びと成長を支えるインフラとして育てる予定です。
生成AIがレイアウトを自動設計!東洋建設のトイレ設計支援AI「AI Design Assistant」
建築設計では、トイレ空間のレイアウトを決める際、動線・企画・便器数・男女別配置などの制約が複雑に絡みます。
設計者は複数案を繰り返し検討しなければならず、特に初期段階では案を提出するまでに時間と労力がかかるという課題を長らく抱えていました。東洋建設ではトイレ空間のレイアウトを考案する際に生じる反復業務を効率化し、設計者の発想を支援する目的で、生成AI「AI Design Assistant」を用いた自動設計支援を作成しました。

技術・アプローチと実証実験
同取り組みは株式会社テクトムと共同で開発を進めており、深層学習を用いた画像生成AI技術を適用しています。
東洋建設が保有する過去の設計図面烏薬1,400枚を学習データとしてAIモデルに与え、設計者がトイレを配置したい領域を指定すると、複数のレイアウト案を自動的に生成してくれます。
さらに男女のエリア分け・大便器数・小便器数・洗面所数といった条件指定も入力可能で、指示された制約を満たす案を複数提示します。
効果・成果と展望
自動設計支援AIの導入により、設計者が条件を入力するだけで複数案を短時間で取得可能となり、案出しの初期段階における時間が大幅に削減されました。
実証実験段階でも、従来の設計案比較の手間を削減し、設計者の発想力を支援するツールとしてのポテンシャルが確認されています。
AI連携による「現場全体DX」への拡張
東洋建設は今後、個別AIシステムを連携させ、現場全体を横断するDX基盤の構築を進めています。
現在、現場全体のDX化実現のために実施している取り組みの一部は以下の通りです。
- 統合業務システム「WIZDOM」により、安全日誌や帳票類をデジタル化して工事・安全・施工管理のデータを一元管理
- AI×フライングビュー映像の物体m検知システムにより、クラウド経由でAIモデルを現場展開し、導入コストや期間を削減
- AIカメラ・教育プラットフォーム・設計支援AIのデータ統合により、現場から設計・経営層まで情報をシームレスに連携
上記取り組みにより、東洋建設はAIを全社的な業務最適化を担う戦略ツールとして位置づけ、今後は施工現場と経営層をつなぐ統合DXの実現を目指しています。
まとめ
東洋建設はAIを業務改革のツールではなく、知識・技能・安全性を組織で維持・向上するための基盤として積極的に取り入れています。
単に最新技術を取り入れるわけではなく、今まで蓄積してきた人の知識や経験を生かしつつ、会社全体の業務をスムーズにすることを目指しています。
例えば、社内の資料やデータをAIがまとめて検索可能なシステムを導入し、必要な情報をすぐに見つけられるようにしました。
現場の安全情報や設計図面・社内規定なども一括で調べられるため、作業の手間を大幅に減らすことに成功しています。
また、社員のスキルや学習状況を見える化する仕組みやAIがトイレのレイアウトを自動で提案するツールも開発するなど、さまざまな分野でAIが導入されつつあります。
今後は個々のAIシステムを連携させ、設計・施工・安全・教育をまとめてAIがサポートする現場全体のDX化を進める方針です。


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