東京海上日動火災は、AIとドローン技術を融合させたAirobotics(エアロボティクス)を導入し、損害調査業務の迅速化と効率化を実現しました。
自然災害が増加する中、保険金支払いのスピードと正確性を両立する先進的な取り組みとして注目されています。
本記事では、その導入背景や効果、業界へのインパクトをわかりやすく解説します。
東京海上日動火災がAI導入に至る背景・課題
導入を後押しした外部環境と戦略的背景
・激甚化・多様化するリスクへの対応
近年、自然災害が激甚化・頻発化しており、迅速かつ正確な保険金支払いが必須となっています。
また、サイバーリスクなど、社会課題が複雑化・多様化し、従来の保険の枠を超えたリスク予測やソリューション提供が求められています。
AIの高度な分析能力は、これらの新しいリスクに対応するための「安心」の仕組みを構築する上で不可欠です。
・顧客体験(CX)向上の要求
デジタル技術の進化に伴い、顧客は事故対応や保険金請求プロセスにおいて、迅速性や透明性を強く求めるようになりました。
AIによる自動化と高度な意思決定支援は、この顧客期待に応えるために欠かせません。
・競争激化と技術の進化
FinTechやInsurTech企業の台頭に加え、生成AI(LLM)の急速な進化は、業務プロセスを抜本的に見直し、非連続的な生産性向上を実現する好機と捉えられました。
乗り越えるべき内部課題
・専門業務の属人化と複雑性
損害サービスや引受審査といった専門業務は、知識やノウハウがベテラン社員に属人化しやすく、対応の品質が均一になりにくいという課題がありました。
・大量の非効率な定型業務
保険業務には、マニュアル検索、文書作成、書類チェックなど、定型的だが時間のかかる業務が大量に存在しました。
これにより、社員が「人にしかできない」付加価値の高い業務(顧客との高度なコミュニケーションや企画業務)に集中できない状況が生まれていました。
・ 厳格なセキュリティ・倫理的課題
顧客の機密情報を扱うため、AI導入においては、情報漏洩リスクや、AIのバイアスによる不公平な判断(倫理性)といったリスクを徹底的に排除するための、セキュアな環境と厳格なガバナンス体制の構築が不可欠でした。
これらの課題認識に基づき、東京海上日動では、「人による付加価値創造」のための時間確保と、サービスの品質向上の両輪で、AIの戦略的な導入を追求していました。
同社では、AIを単なる効率化ツールではなく、「お客様や社会の“いざ”をお守りする」というミッションを達成するための戦略的なコア技術と位置づけています。
Airobotics(エアロボティクス)とは?

東京海上日動が提携しているAiroboticsは、イスラエルに本社を置くテクノロジー企業で、産業施設向けに完全自動化されたドローン(UAS: Unmanned Aircraft System)プラットフォームを提供しています。
サービスの核となる特徴
・完全自律型のドローン運用
パイロットによる遠隔操作を必要とせず、飛行プログラムに基づいてドローンの離陸、飛行、着陸の全プロセスが100%自動化されています。
・専用格納庫(ドローン基地)
コンテナのような専用の格納庫「ドローン基地(Drone Station)」を設置し、ドローンはここを拠点に自動で任務を開始・終了します。
・自動バッテリー・ペイロード交換
ドローンが基地に戻ると、ロボットアームが自動でバッテリーや搭載機器(カメラなど)を交換します。
これにより、オペレーターの介在なしに24時間体制での連続運用が可能となります。
・データ収集とAI解析
ドローンが収集した高解像度画像などのデータをクラウドに蓄積し、AIが解析することで、設備点検、測量、セキュリティ監視などの分野で必要な情報を自動で抽出します。
保険業界での活用と目的
・保険業界
東京海上日動火災保険のように、自然災害で被害を受けた大規模施設(工場・倉庫)の損害調査に利用され、調査時間の短縮と迅速な保険金支払いに貢献しています。
Airoboticsは、ドローン運用にかかるコストと人的リスクを削減しつつ、高頻度かつ高精度なデータ収集を実現することで、産業界の業務効率化と安全性の向上を支援する企業です。
東京海上日動火災のAirobotics導入までの流れ
①課題の明確化と技術的ニーズの特定
課題認識
・迅速性の限界:
大規模な自然災害が激甚化・頻発化する中で、迅速な保険金支払いを行うための損害調査能力に限界があり特に被害が広範囲に及ぶ場合、調査に時間を要してしまう。
・安全性とコスト:
工場や倉庫など高所にある建物の屋根を調査する際、調査員の労災リスクが高く、足場や高所作業車の手配によるコストと時間が大きな負担となっていた。
・客観性の確保:
調査員の経験や目視に頼りがちだった損害査定に、客観的なデジタルデータを導入し、査定の品質と公平性を高める必要性。
ニーズの特定
これらの課題を解決するため、「パイロットレス(無人)で自動飛行でき、高解像度画像を収集し、その画像をAIで瞬時に解析して損害額を算出できるシステム」という技術的ニーズが特定されました。
②戦略的連携とソリューションの選定
先進技術の探索
国内外のInsurTechやドローン関連技術を調査する中で、イスラエルを拠点とするAirobotics社に注目しました。
Airoboticsが提供する完全自律型のドローンプラットフォームは、自動離着陸、自動バッテリー交換、そして人間のオペレーターを必要としない連続運用が可能であり、大規模な産業施設の点検・調査ニーズに最適と判断されました。
特に、従来までの人間の経験と勘や危険に依存していた損害調査に対し、データとテクノロジーによる「迅速」「安全」「正確」な査定へと変革する上で、Airoboticsの導入は大きな決め手となりました。
連携と技術統合の決定
東京海上日動は、Airoboticsと連携しドローンが収集したデータをAIが画像解析し、損害の程度や修理費の概算までを自動的に行う仕組みを構築することを決定しました。
これにより、「ドローン飛行」と「AIによる査定」を一気通貫で行う、画期的な損害サービスプロセスが設計されました。
③実装、検証、そして本格的な活用拡大
実証実験(トライアル)の実施
実際の顧客の工場や倉庫など、特定の案件や地域を対象にシステムを導入し、トライアル運用を実施しました。
この検証では、ドローン飛行の安全性、AIによる損傷箇所の特定精度、修理費算出の妥当性などが厳密に評価されました。
現場の損害サービス担当者からのフィードバックを収集し、システムと現場の業務フローとの連携を最適化する調整が行われました。
本格的な活用と効果の確立
実証実験で、調査時間の大幅短縮、高所作業リスクの排除、査定精度の向上といった明確な効果が確認されました。
特に、災害発生時の初期対応において、迅速な被害状況の把握と保険金支払いが可能となることが高く評価され、Airoboticsのシステムは、大規模施設・高所調査における標準的な損害調査手法の一つとして本格的に業務に組み込まれました。
東京海上日動火災の具体的なAirobotics活用事例
①現場調査の「安全性向上」と「高精度化」
従来の損害調査では、大規模な建物(特に屋根や高所)の被害確認に、調査員が直接登るか、足場や高所作業車を手配する必要があり、時間とコスト、そして調査員の労災リスクが伴いました。
完全自動化の実現
Airoboticsの自律型ドローンシステムは、事前に設定された飛行ルートに基づき、人の手を介さずに自動で離着陸・飛行を行います。
迅速な状況把握
ドローンが広範囲の被害状況を短時間で撮影し、高解像度画像データを即座に収集します。
②AIによる「正確な査定の算出」と「保険金支払いの加速化」
ドローンが撮影・収集した画像は、単なる写真データとして扱われるのではなく、AIによって解析されます。
AI画像解析
収集された高解像度画像をAIが解析し、屋根のひび割れ、損傷の程度、必要な修理範囲などを自動で特定・分類します。
修理費の概算算出
AIの解析結果を基に、システムが損傷状況に応じた修理費の概算を迅速に算出します。
保険金支払いの加速
調査時間の短縮と査定のデジタル化により、保険金支払いまでのリードタイムが大幅に短縮され、被災した顧客(企業)の事業復旧を早期に支援できるようになりました。
東京海上日動火災のAirobotics導入後の効果
①損害調査スピードの大幅な向上
調査時間の短縮
Airoboticsの自律型ドローンは、この作業を数時間以内に完了させ、現場調査時間を大幅に短縮しました。
ドローンであれば、広範囲の被害を即座に空撮・把握できます。
また、人が立ち入れない場所も瞬時に確認できるため、よりスピーディーな損害調査につなげることが可能です。
初期対応の迅速化
大規模災害発生時、広範囲の被害状況をいち早く正確に把握できるため、被害の全容把握と保険金支払いのための初期対応が格段に迅速化しました。
②調査の安全性向上とコスト削減
調査員の労災リスク排除
危険な高所での目視点検作業をドローンが代替することで、調査員の墜落や転落といった労災リスクが完全に排除されました。
コストの効率化
高所作業車や足場の設置、それに伴う人件費が不要となるため、調査コストの削減と、効率的なリソース(人員)配分が可能になりました。
③査定品質と客観性の向上
AIによる解析は、査定業務の精度と公平性を高めています。
査定の均質化と客観性
ドローンで収集された高解像度のデジタル画像をAIが一律の基準で解析するため、調査員の経験や目視に頼りがちだった査定結果の客観性が向上し、品質が安定しました。
詳細な損害把握
AIが屋根のひび割れや損傷箇所を細かく特定・分類することで、肉眼では見落とされがちな微細な損害も見逃さず、より正確な修理費の概算算出を可能にしました。
これらの効果は、東京海上日動が目指す「迅速な安心提供」と「サービスの質と効率の両立」を具体的に実現する基盤となっています。
保険業界におけるAirobotics活用の展望
①損害サービス業務のさらなる高度化
リアルタイム査定とスマートコントラクトの融合
ドローンが収集しAIが解析した損傷データ(日時、場所、程度)を、ブロックチェーンなどの技術と連携させることで、保険金支払いを自動でトリガーするスマートコントラクト(自動契約)の実現が期待されます。
小規模損害への展開
現在、大規模施設での活用が主ですが、技術の小型化とコストダウンが進めば、一般住宅の屋根や太陽光パネルなど、小規模な損害調査にも自律型ドローンが活用されるようになります。
不正請求検知の強化
定期的に同じ場所を自動撮影・監視することで、事故前後の状態変化をAIが客観的に比較し、保険金請求における不正や過大請求のリスクをより高精度に検知できるようになります。
②予防保全とリスクコンサルティングへの活用
予防保全サービス
保険会社がドローンを活用して、契約者である企業の設備や建物を定期的に点検し、AIで劣化の兆候や軽微な損傷を早期に発見します。
引受リスクの正確な評価
保険契約の引受時( underwriting)に、ドローンで撮影した建物の現状をAIが評価し、劣化具合や周辺環境のリスク(例:隣接する危険物)を客観的に把握できます。
③課題と乗り越えるべきハードル
活用拡大には、技術的な進化だけでなく、制度面や社会的な受容も必要です。
規制・制度の整備
ドローンの完全自律飛行や目視外飛行に関する航空法などの規制は依然として厳しく、広範な商用利用にはさらなる制度緩和とルール整備が必要です。
データ連携と標準化
収集した高精度な画像を保険査定システムや他のAIとスムーズに連携させるためのデータフォーマットの標準化や、クラウドインフラの整備が不可欠です。
社会的な受容
ドローンによる私有地の撮影や監視に対するプライバシー保護の懸念を払拭するため、利用目的の透明化と厳格な運用ルールが求められます。
このように、Airoboticsの導入事例は、保険業界が「守り」から「攻め」のリスク管理へとシフトし、テクノロジーを活用して顧客に新たな価値を提供する未来を示しています。
まとめ
東京海上日動火災のAI導入は、単なるコスト削減を超え、「人」が介在する付加価値の高い業務に集中できる環境を創出することを目的としています。
今後もAIを「当たり前の時代へ」と位置づけ、人とデジタル技術の融合を通じて、お客様や地域社会への新たな価値提供を加速していく方針です。


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