サントリー食品インターナショナルは、生成AIやChatGPTなどの会話型AIを積極的に活用し、ブランドコミュニケーションや業務改革に革新をもたらしています。炭酸飲料「C.C.レモン」では、顔・声・動きまでAIが生み出した擬人化キャラクターを制作し、SNSを中心に話題を集めました。また、「やさしい麦茶」ではChatGPTとの対話から誕生した“AI部長”がCM企画に関与し、ユニークで印象的な映像表現を実現。
さらに、自販機事業ではAIチャットボットの導入により、問い合わせ対応の自動化と業務効率化を進めています。
サントリー食品インターナショナルが会話型AIを活用した背景

サントリー食品インターナショナルは、商品の魅力をより印象的に伝える新たな手法を模索する過程で、会話型AI「ChatGPT」を活用したWebCM制作に踏み切りました。特に「GREEN DA・KA・RA やさしい麦茶」のリニューアルでは、従来にない表現でブランドの個性を打ち出す必要があり、その挑戦が導入の契機となりました。
AIとの対話の中から誕生したキャラクター「AI部長」は、キャスティングの提案や内容の修正を主導し、奇抜でユーモラスな映像演出を生み出しています。この試みは、AIの創造性を広告表現に取り入れることで、ブランドコミュニケーションの新しい方向性を示した事例といえるでしょう。
活用事例①|C.C.レモンの擬人化キャラクター制作プロジェクト

出典:https://www.suntory.co.jp/softdrink/news/pr/article/SBF1399.html
炭酸飲料「C.C.レモン」のブランド価値を新たに訴求すべく、サントリー食品インターナショナルは生成AIを活用した擬人化キャラクターの制作に取り組みました。ここでは、C.C.レモンの世界観を立体的に表現するキャラクター制作の裏側について紹介します。
顔・衣装・声・動き・セリフすべてを生成AIで制作
C.C.レモンの擬人化キャラクターは、生成系AIと文章生成AIを駆使して制作されました。顔はスタッフの写真をもとにAIがベースを生成し、髪型や年齢感の調整も行われています。衣装はボトルの色味を反映させながら、プロンプトを微調整することで完成度を高めました。
声や動きは、人の音声やモーションを変換して自然な表現に仕上げています。一方でセリフは、C.C.レモンらしさを学習させたAIが多数生成し、その中から人が最適なものを選び構成しました。
自己紹介動画を皮切りにSNSでコンテンツ展開を開始
第1弾として公開されたのは、キャラクターによる自己紹介動画です。この動画では、生成AIを活用して生まれたキャラクターが、自身の誕生経緯や個性について語っています。顔・衣装・声・動きの生成には画像・動画系のAI、セリフには文章生成AIを使用し、C.C.レモンらしさが表現されています。
コンテンツはYouTubeやTwitterで配信され、今後もSNS上での展開が続く見込みです。さらに、制作過程の詳細はnote上で公開されており、AIを活用した新たなブランド発信手法としても注目を集めています。
C.C.レモンの世界観をAIキャラクターで立体的に表現
擬人化キャラクターの顔は担当スタッフの写真をもとに生成し、髪型や年齢感の微調整を加えて完成度を高めています。衣装はボトルの配色である黄色・緑・赤を取り入れ、レモンらしさを視覚的に演出しました。
セリフには若者言葉やスラングを交え、元気で親しみやすいキャラクター性を際立たせています。さらに、音声とモーションもAIで制作され、キャラクターは動画上で生き生きと動きながら自己紹介を行います。こうした多層的なアプローチにより、「レモンの元気!」というブランドの象徴が、映像・音声・言葉のすべてを通じてリアルに伝わる構成となっているのです。
活用事例②|ChatGPT活用「やさしい麦茶」AI部長CM

出典:https://www.suntory.co.jp/news/article/mt_items/SBF1383.pdf
商品の新たな魅力を引き出す手法として、サントリー食品インターナショナルは会話型AI「ChatGPT」を活用したWebCMの制作に挑戦しました。ここでは、AI部長が関与したCM制作の舞台裏について紹介します。
ChatGPTで生まれた“AI部長”がCM企画に全面関与
ChatGPTを活用する中で偶然誕生した“やさしい麦茶宣伝部のAI部長”は、新CMの企画全体に深く関わりました。担当者がChatGPTと対話を重ねる中で、理想的な人物像として浮かび上がり、キャスティングや演出の修正提案まで行う存在となりました。声優・白井悠介さんの起用も、AI部長による強い推薦がきっかけです。
CM本編では、白井さんがバレエダンサーとして高速回転する場面や、空からキウイが降るシーンなど、意外性のある展開が次々に登場します。人間の発想では生まれにくい構成が特徴的で、生成AIの自由な発想力が際立つ仕上がりとなりました。
奇抜な演出やキャスティング案もChatGPTが提案
“やさしい麦茶”の新CMは、ChatGPTを用いて誕生した“AI部長”の奇抜な発想が、演出やキャスティングに大きな影響を与えました。出演者として選ばれた声優・白井悠介さんの起用も、AI部長が「この人しかいない」と強く推薦したことに端を発しています。CMでは、白井さんが突如バレエダンサーとして高速回転したり、空からキウイが降ってきたり、ドーナツに乗って空を舞ったりと、予測不能なシーンが次々と展開されます。
なかでも、巨大な麦茶の蓋の上で繰り広げられるスプリットジャンプは、視覚的インパクトの強い象徴的な演出です。こうした独創的な構成は、AIならではの自由な発想が色濃く反映された結果といえます。全24シーンを1日で撮り切る体力勝負の現場も、白井さんの豊かな表現力によって乗り越えることができました。
活用事例③|自販機対応における会話型AIチャットボットの導入

近年、生成AIや会話型AIの導入が業務効率化に大きく貢献する中、自動販売機における顧客対応でもその活用が進んでいます。ここでは、自販機対応における会話型AIチャットボットの導入事例について紹介します。
年間60万件の問い合わせ対応に向けてKore.aiを導入
サントリーグループのサンベンドは、年間60万件を超える自販機関連の問い合わせ対応における業務負担を軽減するため、会話型AIプラットフォーム「Kore.ai Virtual Assistant Platform」を導入しました。人手不足や、季節・時間帯による入電数の波に対応する柔軟な運用体制を整えることが目的です。
新システムでは、自販機に貼付された管理ステッカーのQRコードをスマートフォンで読み取るだけで、チャットボットとの対話が可能になります。これにより、有人対応の業務のうち約4割を自動化する計画です。
さらに、問い合わせ内容はCRMと連携し、該当するルートセールス担当者に自動で通知される仕組みも備えています。将来的には、音声AIとの統合も視野に入れ、コールセンター業務のさらなる効率化を推進していく方針です。
自販機のQRコードから直接アクセスできるチャットボットを設置
サンベンドでは、自販機に貼付する管理ステッカーへQRコードを記載し、問い合わせの入口を電話からチャットボットへと転換する新システムの構築を進めています。利用者はスマートフォンでQRコードを読み取るだけでチャットボットにアクセスでき、空き缶回収や売り切れ報告といった問い合わせを24時間受け付けられるようになります。
従来の電話による番号入力の手間が不要となり、利便性が大きく向上しました。チャット内容はCRMと連携し、担当者へ自動通知されるため、有人対応への引き継ぎもスムーズです。この仕組みにより、3年後にはコールセンター業務の約4割が自動化される見込みであり、人手不足やBCPの観点からも注目を集めています。
チャット対応内容はCRMと連携し営業担当にも自動通知
自動通知された情報はリアルタイムでCRMに記録され、担当ルートセールスのもとへ即時に共有されます。これにより、営業担当者は現場へ向かう前に必要な対応内容を把握できるようになり、訪問後の対応漏れや確認ミスを防ぐことが可能です。問い合わせ内容がデータとして可視化されることで、社内での情報共有や対応履歴の管理も円滑になり、業務の属人化を防止する効果も期待できます。
また、定型的な応対をチャットボットが担うことで、営業担当者は本来の商談活動や提案業務に集中しやすくなります。業務効率の向上に加え、顧客満足度の底上げにもつながる運用体制といえるでしょう。今後は音声AIとの連携によって、さらなる自動化の推進も視野に入れています。
サントリー食品がAI活用で得た3つの成果

サントリー食品インターナショナルは、生成AIを積極的に活用することで、広告表現の革新や業務効率化、社内のリテラシー向上といった複数の成果を上げています。ここでは、同社がAI活用によって得た3つの具体的な成果について解説します。
ブランドの世界観を拡張する新たなコミュニケーションを創出
生成AIやChatGPTの導入により、サントリー食品はブランドの世界観をより多層的に広げました。「C.C.レモン」では、AIが生成した顔・衣装・声・動きを活用して擬人化キャラクターを制作。自己紹介動画はYouTubeとXで公開され、公開1週間で12万回以上再生されました。反応数も3,500件を超え、高い注目を集めています。
一方、「やさしい麦茶」のCMでは、ChatGPTから生まれた“AI部長”が企画全体に関与し、キャスティングや演出の提案を行いました。AIの自由な発想が、視聴者との新しい接点を創出し、生活者との関係性を再構築する新しいブランドコミュニケーションへとつながっています。
社内外での生成AIリテラシー向上に貢献
サントリー食品では、生成AIの活用を通じて社内外のリテラシー向上にも取り組んでいます。2023年に展開した社内専用ツール「ガウディ」は、国内従業員約19,000名を対象に導入され、活用促進の一環として開催されたオンラインセミナーには350名超が参加しました。
セミナー後は1日あたりの利用者数が2倍に増加し、業務への定着が加速しています。さらに実務での活用力を高める「ChatGPTマスター育成研修」も始動。選抜メンバーの中から生成AIアンバサダーの育成が進み、グループ全体のDX推進にもつながっています。
まとめ:サントリーの事例から、会話型AI活用のヒントを見つけよう

会話型AIを活用したサントリー食品インターナショナルの取り組みは、広告表現・顧客対応・社内研修の各領域で大きな成果を上げています。生成AIによるキャラクター制作や、ChatGPTとの対話から生まれたCM企画、さらにチャットボットによる業務自動化など、多岐にわたる実践が行われてきました。
いずれの事例も、AIの自由な発想力や即応性を活かすことで、人間の想像力や業務の質を高めるヒントとなります。また、社内外のAIリテラシー向上に向けた継続的な取り組みも、DX推進の基盤として注目に値します。こうした実例から、会話型AIをどのように業務や顧客体験の向上に結びつけるか、自社に合った活用法を見つけていきましょう。


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