SBI生命保険株式会社が進めるAI音声認識「VOCSS」による保険金支払い業務改革

SBI生命保険株式会社はAIを活用した業務変革に積極的に取り組む企業として注目を集めています。

中でも保険金支払業務における音声認識と生成AIの導入は従来の業務プロセスを根本から見直す大きな一歩となりました。経験や属人性に頼らざるを得なかった応対内容をAIで分析・要約し、正確かつ迅速な対応を実現しています。クラウド基盤を生かした情報共有によって、顧客満足度の向上にもつなげています。

SBI生命保険株式会社が進めるAI活用の背景には、どのような課題意識と戦略があったのでしょうか。

目次

AI導入の背景と目的

SBI生命保険株式会社が「どのような課題からAI導入を決断したのか」「何を目指したのか」という視点から、導入の背景と目的を整理します。

保険金支払い業務の属人化と業務負荷の増大

SBI生命保険株式会社(以下、SBI生命)では、保険金支払いや顧客応対に関する手続きを長らく人の経験と判断に頼っていました。

特に電話対応によるヒアリング・通話録音の文字起こし・応対履歴の作成など、記録作成に多くの時間を要していることが大きな課題となっていました。

加えて、応対者ごとに処理スピードや記録品質にばらつきがあるため、担当者の経験やスキルに結果が大きく左右される構造となっていた点も、属人化の典型的な事例のひとつといえるでしょう。

上記のような状況では、繁忙期や問い合わせが集中するタイミングでオペレーターの負荷がさらに増え、顧客対応の遅延やミスが発生するリスクが非常に高くなっていました。

業務の効率化と顧客体験向上の両立へ

先に紹介した背景を踏まえ、SBI生命は業務効率化と顧客体験の向上というふたつの目的を掲げ、AI導入に踏み切りました。

文字起こしや要約といった作業をAIに任せることで、担当者が本来の顧客対応に集中できる環境を整えることが目指されました。

また、顧客応対を標準化・スピードアップすることで、顧客にとっても「対応に時間がかかる」「回答内容にバラツキがある」といった不安が解消されるため、結果としてサービス満足度が高まるといった狙いがあります。

AIを活用して属人的な作業を自動化しつつ、品質を維持・向上させることが同社の戦略でした。

AI導入の取り組み内容

引用元:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000324.000098438.html

SBI生命は、保険金支払業務の効率化と顧客応対品質の向上を実現するため、AI音声認識と生成AIを活用した自動要約アプリケーション「VOCSS(ボックス)」を開発しました。

この取り組みは、Microsoftのクラウド基盤「Microsoft Azure」と連携し、社内業務全体の生産性を底上げする仕組みとして展開されています。

AI音声認識と自動要約による効率化

VOCSSでは通話データをAIが自動で認識し、テキスト化と要約を行う仕組みが採用されています。

保険金支払に関するヒアリング内容や顧客の要望などをAIが正確に記録し、担当者が後から内容を確認できるような設計です。

上記設定により、記録作成に必要な工程が明確化され、作業手順の統一にもつながっています。

音声データはAzure上で安全に処理され、他の社内システムとの連携も考慮した柔軟な構成がとられています。

クラウド連携による一元管理

MicrosoftのAzure環境を基盤に採用した理由のひとつが、データの統合管理とセキュリティの確保でした。

AIが作成した記録データはクラウド上で保管され、社内の関係部門が必要に応じてアクセスできます。

これにより、担当者ごとに分散していた応対履歴を一元化し、確認や引き継ぎの手間を減らす仕組みが実現しました。

また、Azureのセキュリティ機能により保険業務で扱う個人情報の保護も強化されています。

AI解析による顧客応対品質の向上

引用元:https://mobilus.co.jp/case/sbilife-2/

SBI生命では、AIが生成したテキストデータを分析し、応対内容の傾向を把握する取り組みも進めています。

VOCSSを活用することで通話内容を自動で文字起こし・要約して内容ごとに分類しての保存が可能となりました。

担当者が個別に聞き直す必要がなくなり、記録作成のスピード向上に役立っています。

また、整理されたデータは、応対の品質管理や研修資料としても活用されています、

問い合わせ内容のパターンを抽出し、よくある質問や対応の改善点を見つけ出すことでマニュアルの更新や教育体制の見直しが可能です。

特に応対履歴を時系列で可視化できるようになったことで、どの業務フローに課題があるかが素早く発見できるようになりました。

導入時の課題とその解決策

引用元:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000324.000098438.html

AIを導入するにあたって課題となっていたのは以下の3点です。

  • 音声認識の精度
  • セキュリティ対策
  • 現場への教育と浸透

SBI生命は各課題に対して具体的な対応策を講じて解決させています。

音声認識の精度と業務適合性の課題 

保険金の支払いをはじめとした応対業務では、専門用語の使用や長文の説明、お客さま一人ひとりの話し方や言葉遣いの違いなどに対応できなければなりません。

初期のAIモデルでは保険業務の文脈を十分に理解できず、誤変換や要約のずれといった不具合が生じていました。

上記課題の対策として、SBI生命は独自に開発した生成AI「VOCSS」を導入しました。

VOCSSは保険業務で用いられる語彙や表現に特化したテンプレートを設けています。

また、マスキング機能によって個人情報を排除した上でのAI処理も可能です。

上記対策によって作業手順の統一化を図ることで、実務に適用可能なほど精度が引き上げられました。

セキュリティと個人情報保護の確保

SBI生命によって通話データや顧客情報を解析する際は、情報漏えいや不適切利用といったリスクが常に付きまといます。

SBI生命が開発した生成AIVOCSSでは、文字起こし対象の音声ファイルをクラウド処理し、マスキング機能を通じて個人情報の削除を実施しています。

その結果、顧客データを安全に取り扱うことが可能となり、AIを情報漏れの心配なく活用できる体制が構築されました。

現場でのAI運用定着に向けた教育と意識改革

AI技術を導入しても、実際に社内で使われなければ成果にはつながりません。

対象の社員に対して的確に教育できるかも課題のひとつです。

SBI生命ではAIを導入した部門において、社員のスキル習得と意識改革に注力しています。

例えばサービスデスク業務においてAIを活用した場合は、声紋認証・生成AIの機能理解・お客様からの質問内容を自動分類して最適な回答を得る手段などの教育が実施されています。

また、試行運用フェーズを設け、現場からのフィードバックを収集して操作性やインターフェースを改善することで、AIを支援ツールとして受け入れてもらえるような環境を整えました。

現場巻き込み型の運用体制を積極的に推進したことで、技術だけではなく組織分化としてAI活用が根付きやすくなっています。

導入効果と具体的成果

VOCSSを導入した結果、社内業務の記録作成や応対履歴の管理において、飛躍的な効率化と品質向上が実現しました。

導入は2024年10月であり、現時点で具体的な数値による効果測定は公表されていませんが、現場からは業務負担の軽減や応対品質の安定化といった明確な改善が報告されています。

項目効果内容
処理時間の短縮と生産性の向上通話記録の文字起こし+要約作業の時間削減
ヒューマンエラーの減少と品質安定化要約・記録の均一化によるばらつき抑制
顧客満足度の向上応対品質・スピード改善による顧客評価向上

処理時間の短縮と生産性の向上

VOCSS導入後、通話内容の文字起こし・要約・レポート出力までをAIが一連で担うことが可能となりました。

従来は人の手で行っていた作業が大幅に削減され、担当者が応対そのものに集中できる環境が整備されています。

また、記録作成に要していた時間が削られたため、1人あたりの処理件数を増やせるようになっています。

ヒューマンエラーの減少と品質安定化

記録や要約の質が担当者ごとにばらついていた従来の課題に対し、AIのテンプレート化・自動処理によって対応した結果、記録漏れ誤記載の発生率が減少しました。

応対履歴の信頼性が全体的に向上し、責任の所在や記録のチェック時間も削減されたため、運用コストの低減という効果も確認されています。

顧客満足度の向上

顧客との通話後の処理が迅速化されて応対までのリードタイムが短縮されたことで、顧客の手続き完了までの体験が改善されました。

応対品質も一定水準に保たれることで、顧客からの信頼度が高まり、アンケートや問い合わせ後の満足度指標にも良い影響が出ています。

今後の展望

SBI生命は、AIを活用して業務効率化や応対品質の向上を進めてきました。

今後はさらにAIの精度や活用範囲を広げ、社内のさまざまな業務に展開していくことを目指しています。

AIの高度化と他業務への展開

SBI生命はAI技術をより高度に活用する方針を掲げています。

例えばリリース済のアプリ「TEX」は、議事録の文字起こし・要約作業の効率化が可能です。

また、社内で使用するAIモデルを定期的にアップデートし、処理の正確さや応答の早さを高める取り組みも進めています。

AIと人の協働による業務品質の最適化

SBI生命は人の仕事を置き換えるのではなく、人と協力して良い結果を出すことを重視してAIを導入しています。

例えば、AIが作成した文字起こしや要約を担当者が確認し、必要に応じて修正することで正確かつ信頼性の高い記録を残せるようにしています。

また、災害時や想定外の事態でも対応可能なAIオペレーターの構想もあり、人が到着できない状況でも継続的なサービス提供を目指す体制へと移行していく方針です。

まとめ

SBI生命のVOCSS導入は、社内の記録作成や応対履歴管理の効率化を目的とした取り組みとして始まりました。

導入から間もないため具体的な数値効果は公表されていませんが、業務の正確性やスピードの向上に一定の成果が見られています。

今後は音声認識AIの精度向上に加え、保険金支払業務以外の領域にも活用範囲を広げる計画が進められています。

AIと人が役割を分担しながら協働することで、より高品質な顧客対応と業務改革の実現化が可能となるでしょう。

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