楽天証券が開発した「投資相談AIアバター」とは?背景や特徴などについて解説!

楽天証券株式会社(以下「楽天証券」)は、2024年1月にNVIDIA Corporationが提供する「NVIDIA ACE」を採用したアバターと会話ができる日本初のサービスとして、「投資相談AIアバター」をデロイト トーマツ コンサルティング合同会社の支援を受け開発しました。

金融サービスの顧客体験においてAIアバターを活用することで、24時間365日、プロフェッショナルかつ親身な投資相談の機会を提供し、国民の金融リテラシー向上と資産形成の民主化を実現することが期待されています。

この詳細について紹介していきます。

目次

金融DXの最前線とAIアバターの位置づけ

近年、金融業界の中でもとりわけ証券業界では、デジタル・トランスフォーメーション(DX)の波が加速し、顧客接点(カスタマー・インターフェース)の革新が重要な経営課題となっています。

インターネット証券として顧客基盤を拡大してきた楽天証券では、この潮流の中で最先端の生成AI技術を駆使した革新的なサービスとして「投資相談AIアバター」を2024年1月に開発・発表しました。

このサービスは、単なるチャットボットの延長ではなく、NVIDIAの高度なAI技術とデロイト トーマツ コンサルティングの金融分野における知見を組み合わせることで実現した、日本初の個人向け投資相談AIアバターという点で注目されています。

楽天証券では、このAIアバターを顧客の「資産づくりの親密な伴走者」として機能させることを目標としており、その実現に向けた取り組みを多角的に分析しています。

投資相談AIアバターの開発に至る背景

従来のサポート体制が抱える課題

従来の証券サービスにおいて、顧客サポートは主に以下の課題を抱えていました。

  1. 心理的ハードルの高さ

投資初心者にとって、「今さら聞けない」初歩的な疑問を人(コールセンターや対面窓口)に聞くことへの心理的な抵抗感が強く、これが投資を始める障壁となっていました。

  1. 待ち時間と即時性の欠如

電話サポートは営業時間や待ち時間の問題があり、FAQやチャットボットは回答が画一的で、複雑な質問やニュアンスを汲み取ることが困難でした。

  1. 非人間的な体験

テキストベースのチャットや自動音声応答は、顧客に「冷たい」「機械的」という印象を与えやすく、深い信頼関係の構築には繋がりませんでした。

「人間らしい」対話の必要性

楽天証券は、これらの課題に対しAIに「人間らしさ」を持たせることで解決を図りました。

投資相談という、顧客の将来の資産に関わるデリケートな対話には、単なる情報提供だけでなく安心感と親近感が不可欠です。

AIアバターは、視覚と聴覚を同時に刺激し、非言語的な要素(表情、動作)を再現することで、従来のデジタルサポートでは実現できなかった「共感性」を対話にもたらすことを目指しています。

これは、同社が新たに設立した「楽天証券 AI・データ&ヒューマンラボ」の、AIとヒューマンタッチの融合というビジョンを体現するものです。

投資相談AIアバターの特徴

画像引用:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000522.000011088.html

NVIDIA ACE(Avatar Cloud Engine)の採用

投資相談AIアバターの中核をなすのは、GPUの世界的リーダーであるNVIDIAが提供する会話型AIプラットフォーム「NVIDIA ACE」です。

  1. リアルタイム対話の実現

ACEは、音声認識(ASR)、自然言語理解(NLU)、音声合成(TTS)、およびアバターアニメーションの生成をリアルタイムで実行し、それらを統合します。

これにより、ユーザーの音声入力に対して、間髪入れずにアバターが合成音声で応答し、対話が途切れることのないシームレスなコミュニケーションを可能にしています。

  1. 非言語要素の再現(ヒューマンライクな応答)

ACEは、AIが生成したテキストだけでなく、「エモート(しぐさ)」や「表情の変化」といった非言語的な要素も同時に制御します。

具体的には、質問を聞いている間の「頷き」や「聞き耳を立てる姿勢」、あるいは回答時の手の動きなどを細かく再現し、ユーザーに「しっかりと自分の話を聞いてくれている」という感覚を提供します。

  1. 高精度なリップシンク

合成音声とアバターの口の動き(リップシンク)が高精度で同期することで、違和感のない、極めて自然な発話体験を実現しています。

これは、単なる音声応答と比べ、信頼感と没入感を飛躍的に高めています。

デロイト トーマツ コンサルティングとの連携

サービスの企画・開発・実装においては、デロイト トーマツ コンサルティングが提供するカスタマーサービス向けソリューション「Quartz Frontline AI powered by NVIDIA」が活用されています。

この連携は、金融サービスという極めて厳格なセキュリティとコンプライアンスが求められる領域において、最先端の生成AI技術を安全かつ迅速に導入するための重要な役割を果たしています。

膨大な企業知識を基に学習し、ハルシネーション(誤情報生成)のリスクを最小化しつつ、顧客の問い合わせに的確に応答できる信頼性の高い知識基盤の構築に貢献しています。

サービスの内容と顧客体験(CX)の変革

提供される機能と知識ベース

AIアバターは、楽天証券が長年蓄積してきた知識と、最新の市場情報を学習することで、幅広い質問に対応します。

  1. 提供元となる知識ソース

楽天証券の公式ウェブサイト、FAQサイト「よくあるご質問」、各種商品情報ドキュメントなど、正確性が担保された情報が学習データとして使用されています。

  1. 対応されている領域
  •  商品知識投資信託、国内外株式、NISA、iDeCoなどの基本的な仕組みやメリット・デメリット。
  • サービス利用方法口座開設手続き、ログイン方法、取引ツールの使い方、手数料体系など。
  • 資産形成の基礎
  • リスク分散の考え方、長期投資の重要性、アセットアロケーションの概念など。
  1. 今後の展望

従来のテキスト回答に加え、将来的には、複雑な概念を解説するために図やグラフ、関連動画へのリンクなどを会話の中で視覚的に提示するマルチモーダルな情報提供へと発展することが見込まれます。

顧客体験(CX)にもたらされる価値

このAIアバターが顧客にもたらす最大の価値は、「手軽なプロの相談相手」の存在です。

  1. 安心感と親近感

視覚的なアバターが、優しいトーンの合成音声で応答することで、ユーザーは「機械と話している」という冷たい感覚ではなく、「親切な担当者と話している」という安心感を得られます。

特に投資初心者にとっては、心理的な安全性が確保され、素朴な疑問も恥ずかしがらずに質問できるようになります。

  1. 24時間365日の即時対応

時間や場所を選ばず、ユーザーが「今知りたい」と思った瞬間に、質問を投げかけ、リアルタイムで専門的な回答を得られます。

これにより、投資に関する疑問が未解決のまま放置されることを防ぎます。

  1. 学習ツールとしての機能

何度でも同じ質問を繰り返したり、表現を変えて尋ねたりできるため、金融リテラシーを独学で向上させるためのパーソナルな学習ツールとしても機能します。

業界へのインパクトと将来的な課題

証券業界における先行者メリットとDX効果

楽天証券の「投資相談AIアバター」は、日本の証券業界におけるデジタル変革の明確な試金石となります。

  1. 差別化と新規顧客獲得

日本初の試みとして、技術的な先進性は企業のブランドイメージを高め、特にデジタルネイティブな若年層や新しいテクノロジーに敏感な顧客層の獲得に大きく貢献します。

  1. 業務効率化とコスト最適化

AIアバターが、問い合わせ件数の約8割を占めるとされる定型的な質問対応を肩代わりすることで、人手によるサポートスタッフは、より高度な金融知識や共感力が必要な「高度な個別相談」や「富裕層向けの提案」といった、高付加価値業務に集中できるようになります。

これは、人的リソースの最適化とコスト削減に直結する戦略的なDXです。

将来の展望とパーソナライズ化

このAIアバターの将来的な進化の方向性は、「超パーソナライズ化」にあります。

  1. ロボ・アドバイザー機能との統合

現時点では一般的な情報提供が中心ですが、将来的には、顧客の同意を得た上で、口座情報、保有資産、過去の取引履歴、リスク許容度などの個別データと安全に連携することが期待されています。

これにより、AIアバターは「あなたの現在の資産配分ではリスクが高すぎるかもしれません」「この目標額を達成するためには、毎月の積立額をあとX円増やすことを推奨します」といった、顧客一人ひとりの状況に深く踏み込んだ、具体的なパーソナル・アドバイスを提供する高度なロボ・アドバイザーへと進化する可能性があります。

  1. 感情認識AIとの連携

さらに技術が進めば、ユーザーの音声のトーンや話し方から不安や焦りといった感情を認識し、それに応じてアバターの応答のトーンや表情を変化させる「感情認識AI」との連携も視野に入ります。

今後の課題

金融サービスにおいて、AIの導入には常に「信頼性の担保」という課題が伴います。

  1. ハルシネーション対策

生成AIが誤った情報(ハルシネーション)を発することが、顧客の誤った投資判断に直結するリスクがあるため、AIの回答が、常に学習ソース内の正確な情報に基づいていることを検証する厳格なガードレールの設置と、継続的なチューニングが不可欠です。

  1. セキュリティとコンプライアンス

顧客の機密性の高い金融データを扱う可能性を見据え、最高水準のセキュリティ対策と、金融商品取引法などのコンプライアンス遵守を徹底した運用体制が求められます。

まとめ

楽天証券の「投資相談AIアバター」は、NVIDIA ACEという最先端技術を基盤とし、金融サービスの顧客体験を「単なる情報提供」から「人間味のある対話と共感」へと引き上げる、革新的な取り組みとして期待されています。

このAIアバターは、人手によるサポートの限界を超えて、すべての人に24時間365日、プロフェッショナルかつ親身な投資相談の機会を提供し、国民の金融リテラシー向上と資産形成の民主化に大きく貢献する可能性を秘めています。

今後、この先進的なサービスがどのように進化し、日本の金融業界の未来を形作っていくのか、その動向に注目が集まっています。

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