物流業界や製造業では労働力不足への対応としてロボット活用が進んでいますが、家庭や小規模事業者にとってはロボット導入のハードルは依然として高いのが現状です。
こうした課題に対応するため、株式会社Preferred Robotics(プリファードロボティクス)は、深層学習技術と独自開発のSLAM技術を駆使した自律移動ロボット「カチャカ」を開発しました。2023年5月の発売以来、家庭から医療・飲食・オフィスまで幅広い分野で導入が進んでいます。
業界最安水準の価格と簡単操作を実現した家庭用AIロボットの開発は、「すべての人にロボットを」というビジョンを掲げる同社ならではの挑戦です。本記事では、この革新的な取り組みについて、導入背景から技術詳細、プロセス、今後の展望まで詳しく解説します。
導入前の背景・課題|家庭・事業現場が直面する搬送業務の負担

日本の家庭や事業現場では今、ロボット活用への関心が高まっています。高齢化社会の進展により家庭内での物品運搬負担が増加し、事業現場では人手不足を背景に搬送業務の自動化ニーズが急速に拡大しています。
なぜ搬送ロボットの導入が困難だったのか
通常、搬送ロボットの導入には高額な初期投資と専門知識が必要であり、一般家庭や中小規模施設では現実的な選択肢ではありませんでした。具体的には以下のような課題が存在していました。
- 設置環境の制約:マーカーや磁気テープの設置が必要な製品が多い
- サイズの問題:狭い通路や住宅内での走行が困難
- 高額な導入コスト:業務用搬送ロボットは1台100万円超〜数百万円が一般的
- 操作の複雑さ:専門知識やプログラミングスキルが必要
Preferred Roboticsでは、これらの課題を解決するため、AIとロボティクス技術の融合による新たな挑戦が始まりました。
採用技術・導入したAIソリューション|Preferred Roboticsの高度なAI技術
こうした従来の搬送ロボットが抱える課題を解決するために開発されたのが、自律移動ロボット「カチャカ」です。
カチャカには、親会社Preferred Networksの機械学習・深層学習技術と、Preferred Roboticsが独自開発したSLAM技術を搭載。マーカーや磁気テープの設置が一切不要で、家庭から事業現場まで幅広い環境での自律移動を実現しています。
カチャカの技術的な強み
| 従来の課題 | カチャカの解決策 |
|---|---|
| マーカーや磁気テープの設置が必要 | SLAM技術により設置工事不要 |
| 狭い通路で走行できない | 幅24cmのコンパクト設計で55cm幅の通路も走行可能 |
| 操作が難しい | 音声・アプリ・ボタンの3つの方法で誰でも簡単操作 |
| 他システムと連携できない | API公開でIoT機器・外部システムと連携可能 |
カチャカ/カチャカプロの製品スペック比較
カチャカには家庭向けモデルと業務向けモデル「カチャカプロ」があり、用途に応じて選択できます。
| 項目 | カチャカ(家庭用) | カチャカプロ(業務用) |
|---|---|---|
| サイズ | 幅24cm×奥行38.7cm | 幅24cm×奥行38.7cm |
| 最小通路幅 | 55cm | 55cm |
| 最大牽引重量 | 20kg | 30kg |
| LiDAR検出距離 | – | 12m(広い空間対応) |
| 価格帯 | 本体228,000円〜 | 100万円以下(4年保守込み) |
| 主な用途 | 家庭内の家具・物品運搬 | 医療・飲食・オフィス・工場 |
導入効果・成果|省人化と業務効率化の両立を実現

カチャカの導入により、家庭から事業現場まで幅広いシーンで効果が確認されています。
主要な導入事例と成果
事例1:戸田建設株式会社(オフィスDX)
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 活用用途 | 使用済みドリンクカップの回収自動化 |
| 導入効果 | カフェスタッフの往復約2km/日の移動を削減 |
| 技術活用 | IoTボタンを押すとカチャカが自動で回収場所へ移動する仕組みを自社で構築 |
| 導入の決め手 | ・棚の付け替えが簡単 ・外部システムと連携可能 ・100万円以下の低価格 ・広いオフィスでも安定稼働 |
事例2:医療機関(KKクリニック)
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 活用用途 | クリニック内のカルテ運搬 |
| 導入効果 | 医師・スタッフの移動を大幅削減、診察効率向上 |
| 技術活用 | アプリ操作による運用 |
| 導入の決め手 | ・患者と接する時間の確保 ・生産性低下プロセスの発見 |
事例3:飲食業界(カフェ)
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 活用用途 | 配膳・下膳作業の自動化 |
| 導入効果 | ワンオペ経営でも1日の客数が増加 |
| 技術活用 | 音声指示・アプリによる運用 |
| 導入の決め手 | 「カチャカ=ワンオペの救世主」との声 |
事例4:ネットワーク機器メーカー(アライドテレシス)
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 活用用途 | 無線LAN技術の品質検証自動化 |
| 導入効果 | 休日・夜間も含めた長時間テストが可能に |
| 技術活用 | カチャカにスマートフォンとノートパソコンを搭載して走行テスト |
| 導入の決め手 | 人力では不可能な長時間検証の実現 |
導入事例から見る効果まとめ
これらの事例から、カチャカ導入により以下のような効果が確認されています。
| 効果項目 | 詳細内容 | 解決する課題 |
|---|---|---|
| 作業負担の軽減 | 重労働である搬送作業をロボットが代替 | 高齢者・体の不自由な方の負担 |
| 業務効率の向上 | スタッフが本来業務に集中できる環境を実現 | 人手不足による業務過多 |
| 顧客満足度向上 | 接客時間の確保、待ち時間短縮 | サービス品質の維持 |
| 継続的な改善 | API連携による業務フロー最適化が可能 | 従来の自動化では難しかった柔軟な対応 |
AI導入プロセス|専門知識不要の簡単セットアップ

セットアップの流れ
家庭用・法人用ともに、カチャカのセットアップは非常にシンプルで、専門知識は一切不要です。
- 機器準備(本体+専用家具)
- Wi-Fi接続・専用アプリインストール
- 初期設定(アプリのガイドに従って数分で完了)
- マップ作成・目的地登録
- 運用開始(即日可能)
3つの操作方法
カチャカは以下の3つの方法で操作できます。
- 音声指示:「ねえカチャカ、キッチンシェルフをダイニングに持ってきて」などの言葉で操作。音声ショートカット機能により短いフレーズでの指示も可能
- スマートフォンアプリ:目的地や棚を選択するだけで搬送指示
- カチャカボタン:物理ボタンを押すだけで事前設定したアクションを実行(最大3種類)
法人向けサポート体制
法人向けカチャカプロは、4年間の保守サービスが含まれた価格設定となっています。導入から運用まで安心のサポート体制を提供しています。
| サービス | 内容 |
|---|---|
| 設置サポート | 専門スタッフによる初期設定支援(オプション) |
| 購入方法 | 一括払い/48ヶ月リース契約対応 |
| 保守対応 | 故障時の代替機交換(保守期間内) |
| 技術支援 | API連携・カスタマイズ相談 |
導入時の課題と解決策|実運用に向けた留意点

革新的な技術導入には課題も存在します。
主な課題と対策アプローチ
| 課題 | 現状 | 対策アプローチ |
|---|---|---|
| 導入環境の確認 | 段差のないフロア、Wi-Fi環境が必要 | 事前の環境チェック |
| 操作習熟 | 高齢者・初心者には慣れが必要な場合も | アプリ操作ガイド、動画チュートリアル、電話サポート |
| 環境変化への対応 | 家具配置変更時のルート再計算が必要 | SLAM技術による自動ルート再計算(大幅変更時はマップ再作成) |
| 初期投資コスト | 家庭用でも約25万円〜の投資が必要 | 分割払い(48回)対応、サブスク月額980円〜 |
今後の展望|生成AI連携と新製品展開の可能性
生成AI(LLM)との連携による高度化
2025年3月、Preferred Roboticsは旭化成ホームズと共同で、生成AI(LLM:大規模言語モデル)と連携したカチャカの実証を開始しました。
実証で検証中の機能
この実証では、以下のような機能の実現に向けた検証が進められています。
| 機能 | 詳細 |
|---|---|
| 家族構成に応じた行動選択 | 幼児がいる家庭と小学生がいる家庭で異なるサポートを提供 |
| 天気・季節連動 | 雨天時はタオルを持って出迎え、冬はコート受け取りなど |
| IoT機器連携 | 住宅内センサー情報と連動した生活サポート |
| 自然な対話 | LLMによる人間らしい声掛けと状況推論 |
新製品・サービス展開
Preferred Roboticsは、カチャカシリーズの拡充も進めています。
| 製品・サービス | 概要 |
|---|---|
| カチャカスリム | 幅260mmの狭路対応モデル(2025年11月提供開始) |
| カチャカフリートマネージャー | 複数台のカチャカプロを管理・運用するフリート管理システム |
| HAPiiBOT | アマノ株式会社との共同開発による業務用小型床洗浄ロボット |
これらの展開を通じて、Preferred Roboticsはオフィスビル・宿泊施設・医療機関・工場など、さまざまな空間におけるラストワンマイルの自動搬送実現を目指しています。
まとめ|家庭用AIロボット「カチャカ」が切り開くロボットと暮らす未来
Preferred Roboticsの自律移動ロボット「カチャカ」は、家庭から事業現場まで幅広いシーンで搬送業務の効率化を実現する、革新的なソリューションです。Preferred Networksの深層学習技術と独自SLAM技術の融合により、以下のような多面的な効果が実現しています。
- 業界最安水準の価格(カチャカプロは100万円以下)で導入可能
- 専門知識不要の簡単操作
- 狭い通路(最小55cm)でも走行可能なコンパクト設計
- API連携による柔軟なカスタマイズ
「すべての人にロボットを」というビジョンのもと、これまでロボット導入のハードルが高かった家庭や中小規模施設でも活用が進んでいます。
今後は生成AI(LLM)との連携により、単なる搬送ロボットから「暮らしのパートナー」へと進化することが期待されます。人手不足対策や生活の質向上を検討する家庭・事業者にとって、カチャカは有力な選択肢となるでしょう。


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