日清食品グループ × NISSIN AI-chat導入事例

日清食品グループが2023年4月に独自開発した対話型AI「NISSIN AI-chat powered by GPT-4」。
わずか3週間という驚異的なスピードで全社に広がったこのシステムは、2025年現在、社内AI利用率7割という数字を叩き出しています。何より驚くべきは、年間32,591時間もの業務削減効果を出しています。

発端は入社式でのCEO発言でした。日清食品グループはこの約2年で、生成AIを「特別なツール」から「誰もが使う文房具」へと変貌させることに成功しました。その裏側には、どんな戦略と工夫があったのか。リアルな導入プロセスと成果を追っていきます。

目次

日清食品グループが生成AI活用に踏み切った背景

「DIGITALIZE YOUR ARMS(デジタルを武装せよ)」というスローガン

引用:https://www.uchida.co.jp/system/report/20210016.html

日清食品グループには「NISSIN Business Transformation (NBX)」という全社活動テーマがあります。そこで経営トップが打ち出したのが「DIGITALIZE YOUR ARMS(デジタルを武装せよ)」というメッセージでした。

このスローガンには強烈な意図が込められています。
「IT部門に丸投げするのではなく、一人ひとりが自分の頭で業務を見直し、自らデジタルツールを使いこなせ」と。従来型の「一部の人だけがデジタル化を推進する」スタイルから、全社員が当事者になる組織へ。この文化改革こそが、後のAI導入スピードを支える土台になりました。

NBXが見据えた2つのゴール

NBXでは「ビジネスモデル自体の変革」と「効率化による労働生産性の向上」という2本柱を立てています。単なる業務効率化で満足せず、ビジネスそのものを変えていく。そのために日清食品グループでは具体的な施策を次々と実行してきました。

ペーパーレス・ハンコレス化、RPAツールのフル活用、スマートファクトリー構想、データドリブンな営業活動。これらの取り組みが地ならしとなり、生成AIという新たな挑戦へとつながっていったわけです。

入社式がきっかけ—異例の速さでの導入決定

2023年4月3日の入社式での発表

すべての始まりは入社式でした。2023年4月3日、ホテルニューオータニ東京で開催された式典。安藤宏基CEOは新入社員129名を前に、ChatGPTで生成したメッセージを披露します。
テーマは「日清食品グループ入社式 × 創業者精神 × プロ経営者 × コアスキル」。

CEOが新入社員に伝えたかったのは「テクノロジーを賢く使って、短期間でたくさん学んでほしい」ということでした。経営トップ自らが生成AIを使いこなす姿を見せたこの瞬間が、全社的なAI活用の起爆剤になったのです。

その日のうちにプロジェクトチームの立ち上げ

式典に出席していた成田敏博執行役員CIOは、その日のうちに動きました。プロジェクトチームを立ち上げ、ChatGPTのような技術を社内に展開する方法を検討開始。
「一日でも早く全社員が使える環境を」という強い意志で、即日プロジェクトがスタートしました。

たった3週間で「NISSIN AI-chat」の稼働

そして入社式から3週間後の4月25日、「NISSIN AI-chat」が運用開始にこぎつけます。方針検討、専用環境の構築、周知活動(Web社内報・説明会・社内ポータル・デジタルサイネージ)を並行して進め、猛スピードで完遂しました。

通常、新システム導入には数ヶ月から1年以上かかるのが常識です。それを3週間でやり遂げた背景には、経営トップの強力なリーダーシップと、現場の即応体制がありました。

NISSIN AI-chatの中身—技術仕様とセキュリティ対策

引用:https://ledge.ai/articles/ledgeai_expo_2023_summer_review_nissin

専用環境で構築されたシステム

「NISSIN AI-chat powered by GPT-4 Turbo」は、Microsoft社・OpenAI社と連携して作られた日清食品グループ専用のセキュア環境です。GPT-4とAPI連携し、Microsoft365認証を適用することで、nissin.comドメインを持つ社員だけがアクセスできる仕組みになっています。

一般公開版のChatGPTをそのまま使うのではなく、企業利用に特化した専用環境を用意したこと。これが全社への迅速な展開を実現した大きな要因でした。

2つのリスクに対する明確な対策

日清食品グループは、生成AI導入時のリスクを「情報漏洩」と「不適切な流用」に絞り、両面で対策を実施しています。
セキュリティ面では、入力データがOpenAIの学習に使われない仕組みを採用し、機密情報の流出を防止。
コンプライアンス面では、誤情報や著作権侵害に対応するガイドラインを整備し、社員教育を徹底しています。
さらに初回ログイン時にはCEOメッセージ確認とテストを必須化し、以降はキャラクター「ひよこちゃん」が注意喚起を行う仕組みを導入。
これにより、全社員が安全かつ主体的にAIを活用できる環境を実現しました。

段階的な導入プロセス—営業部門を起点に横展開

フェーズ1: 営業部門での集中プロジェクト(2023年5月)

日清食品グループは全社導入を一気に進めたわけではなく、効果が出やすい部門から段階的に展開していきました。

最初は、組織規模が最も大きい営業部門。2023年5月、全国8ブロックから約20名を選抜してプロジェクトを開始しました。プロンプトエンジニアリングの基礎研修、業務の洗い出し、テンプレート作成、効果検証。この4ステップをわずか1か月で完了させました。

営業現場での活用方法を確立した結果、「得意先情報の収集」「資料骨子作成」など32業務で成果が出始めます。利用率は5月の28%から11月には68%まで跳ね上がり、社内に定着が進みました。

フェーズ2: マーケティング部門への展開(2023年8月〜)

営業部門の成功モデルを土台に、次に動いたのがマーケティング部門です。
2023年8月から「ターゲット分析」「新商品提案」「コピー検討」「プレスリリース作成」など18種類のプロンプトテンプレートを整備しました。

創造性が求められる業務とAIの親和性は想像以上に高く、12月には利用率が90%を超えるという大きな成果を上げています。

フェーズ3: 全社展開(2023年10月〜2024年3月)

2023年10月から2024年3月にかけて、いよいよ全社展開へ。営業・マーケティングの成功事例を横展開し、経営企画、法務、品質保証など全18部署に導入しました。各部門の業務特性に合わせてテンプレートを調整した結果、全社平均で50%を超える利用率を達成しています。

レベル別研修で継続的な学びを支援

さらに日清は初級・中級・上級に分けた「プロンプトエンジニアリング研修」を実施。「NISSIN DIGITAL ACADEMY」では外部講師による講座も開催し、生成AIを使いこなせる人材を計画的に育成しています。

導入効果—年間32,591時間の削減を実現

数字で見る圧倒的な成果_年間32,591時間の作業工数削減

2024年3月時点で、日清食品グループはNISSIN AI-chatの導入により年間32,591時間の作業工数を削減しました。1日8時間労働に換算すると約4,074日分、つまり約11年分の労働時間に相当します。

部門別で見ると、NSS営業(BS部)が25,120時間、NSSマーケティング部が4,631時間を削減。特に営業現場で大きな成果を出しています。営業担当者1人あたり年間約100時間、月に1日分の業務時間を削減できた計算です。

各部門での具体的な活用事例と効果

営業部門では「情報収集」「プロモーションリサーチ」「プレゼン資料作成」「商談内容の要約」など32業務でAIを活用中。情報整理や資料作成を自動化したことで、提案業務や顧客対応により多くの時間を割けるようになりました。

マーケティング部門では「ターゲット分析」「新商品のフレーバー提案」「コピー案検討」「プレスリリース作成」など18業務に活用し、短時間で多様なアイデアを出す体制を構築しています。

さらに経営企画ではM&A候補先調査、財務経理では為替見通し資料の作成、法務では商標関連語句の生成、品質保証ではお客様相談対応文の作成など、全社的にAI活用が広がっています。

社内問い合わせ業務での効果検証

特に注目すべきは、社内問い合わせ業務での効果です。過去の履歴データを学習させた結果、適切な回答のヒット率は55%から70%に、工数削減率は24%から32%へ向上しました。一次窓口で23%、二次窓口で38%の削減を達成しており、より高度な対応が必要な領域でもAIが確実に成果を出しています。

課題と対策—利用率向上への取り組み

初期の課題—利用率1割以下からのスタート

導入当初、NISSIN AI-chatの利用率は1割にも届きませんでした。導入直後は話題性から多くの社員が試したものの、日常業務に戻ると使わなくなる。「導入したけど使われない」という、よくあるパターンに直面したわけです。

失敗した施策—全社一律のプロンプト研修

最初に取り組んだのは、全社員向けのプロンプト研修でした。「全員がプロンプトを書けるようになれば活用が進むだろう」と。しかし期待した成果は得られませんでした。多くの社員が「自分の業務にどう使えばいいのか分からない」状態だったんです。

成功のカギ—部門別プロンプトテンプレート

そこで方針を大きく転換しました。各部門の業務に最適化されたプロンプトテンプレートを整備したんです。社員はゼロから文章を考える必要がなく、すぐに使える形で導入できるようになりました。この仕組みにより、部門によっては利用率が50〜60%まで上昇し、日常業務にしっかり定着しました。

2025年の新施策—管理職約600人への必須研修

2025年には新たな取り組みとして、課長職以上の管理職約600人を対象にAI研修を実施しています。
「管理職が使えばチームも使う」という法則に基づき、トップダウンとボトムアップの両面からAI活用を推進する戦略です。

これから先—AI活用の次のステージ

2つの軸でさらなる拡充

導入から約2年、日清食品グループのAI活用は新たなステージに入ろうとしています。
今後は「社内の情報を把握するAIの構築」と「AI利用を前提とした業務プロセスの確立」という2つの軸で拡充を図ります。

全社統合データベースとの連携

まず進めているのが、全社統合データベースとの連携です。営業・生産・経理など複数のシステムを横断して情報を統合し、例えば「A社の過去3年の取引実績と販売計画を教えて」といった質問にAIが即座に答えられる環境を目指しています。」

業務プロセスへのAI導入

さらにタレントマネジメント、製品開発、生産、カスタマーサポートなど、各業務領域にAIを組み込む設計を推進中です。「AIを使うかどうか」ではなく、「業務に組み込まれている」状態へ。これが次の目標です。

商品開発への展開

特に注目されているのが商品開発領域。フューチャーフード研究開発部では、味の組み合わせや開発ノウハウをAIに学習させ、新しい味の創出に挑戦しています。日清の「おいしさ」がAIと融合したとき、どんな商品が生まれるのか。今後の展開に期待が高まります。

まとめ—日清食品のAI活用から学ぶ成功の鍵

日清食品グループが全社的なAI活用を実現できたのは、経営トップの強力なリーダーシップとスピード導入、安心して使える環境整備、部門別展開、そして「すぐに使える」プロンプトテンプレートの存在でした。管理職研修や業務特化型テンプレートなどの工夫が利用率向上を支え、年間32,591時間の削減を達成。AIを武器として全社員が使いこなす文化が根づいています。

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