保険業界大手の明治安田生命が2020年8月から本格運用を始めた「タレントマネジメントシステム」。
約1万3000人の社員を対象に、AIを活用した適性分析による最適な人材配置を実現しています。これまで経験に頼りがちだった人事判断を、データに基づく客観的な意思決定へと変革したこの取り組みは、人事業界の注目を集めています。大規模組織で、どのように人材の適性を見極め、最適な配置を実現しているのか。公開資料をもとに、その革新的な取り組みを追っていきます。
人事配置の課題解決を目指したAI活用への挑戦
「人こそが財産」という理念と現実のギャップ
明治安田生命では「人こそが財産」という理念を掲げていますが、人事配置の現場では課題を抱えていました。多数の社員の人事異動を行う中で、各拠点や部門の特性、社員の適性や希望を考慮する作業は膨大な時間を必要とします。
さらに社員のキャリア履歴、研修実績、評価、資格などの情報が分散管理されており、必要なデータを集約するだけでも多くの時間と労力を要していました。結果として「適材適所」を実現するためのデータ活用が十分に行えず、戦略的人材配置の障壁となっていたのです。
「MY Mutual Way 2030」が後押ししたDX推進

2020年からの10年計画「MY Mutual Way 2030」では、一人ひとりの意欲や適性に基づく成長・活躍の実現が重点テーマに掲げられました。従来の経験則に頼る配置では限界があると判断し、同社はデータドリブンな人事を目指す方針を明確化し、システム導入を検討。
複数のシステムを比較検討した結果、選ばれたのが電通国際情報サービス(ISID)の統合HCMパッケージ「POSITIVE」でした。人事情報の一元管理・可視化に加え、AIによる分析と使いやすさが評価の決め手に。理念と現場のギャップを埋めるDX推進の核として、AI活用による科学的人事への転換が始まっています。
データ統合×AI分析:「POSITIVE」が実現する人材マッチングの仕組み
明治安田生命×ISID「POSITIVE」の主な特徴
- 人事情報の一元管理
社内に分散していたキャリア履歴、研修記録、資格、評価結果などを統合的に管理。 - 人材の「見える化」
社員一人ひとりのスキル・経験・評価を可視化し、全体像を把握可能。 - データに基づく人材配置
勘や経験に頼らず、「どの部署で活躍できるか」を客観的に判断可能。 - AWS上に構築されたシステム
Amazon Web Services(AWS)環境で稼働し、柔軟かつ安定した運用を実現。 - 既存システムと独立・連携可能
既存の基幹人事システムと独立運用しつつ、連携も容易な構造を採用。 - モジュール選択によるコスト最適化
多機能の中から「タレントマネジメントモジュール」を厳選導入し、最小限の投資で最大効果を発揮。
AIが発見する「見えない適性」の価値
AI機能「タレントアナライズ」は、人事データを学習して最適な人材配置を提案するシステムです。
成功事例を分析し、潜在的な資質やリーダー適性など「見えない能力」を可視化します。
従来の勘や経験に頼る判断を、データに基づく科学的な配置へと進化させます。
最終判断は人事担当者が行い、AIと人の知見を融合して公正で精度の高い人事判断を実現します。
3段階のトライ&エラーで成功した導入プロセス
明治安田生命のAI人事プロジェクトは、一気に全社導入するのではなく、段階的なアプローチで進められました。試行錯誤を重ねながら最適解を探る「トライ&エラー型」の進め方が、成功の大きな要因となりました。
フェーズ1: 基盤構築とパイロット導入
初期フェーズでは、人事グループ マネジャーの古賀生治氏が「要件を固めすぎず、実際に使いながら改善する」方針を掲げました。電通国際情報サービス(ISID)とは、単なる発注・受注の関係ではなく、課題分析から活用方法までを共に考える伴走型の協業体制を構築。約3,000名を対象にパイロット導入を行い、人事データの一元化と可視化の基盤を整えました。この段階ではAI分析よりも、データ統合とアクセス性向上に重点を置き、実運用の中で改善点を洗い出しました。
フェーズ2: AIモデルの精度向上
次に取り組んだのはシステム機能の向上です。フィードバックを重ねながらシステムの改良を進めました。同時に、紙ベースで管理されていた評価情報のデジタル化や、各部署で異なっていたフォーマットの統一も実施。データ基盤の整備を進めました。さらに、営業・管理・システムなど職種ごとの特性に合わせた調整も行い、より現場ニーズに即したシステムへと改善しました。
フェーズ3: 全社展開と機能拡充
2020年8月からの全社展開では、部門単位で段階的に導入を拡大。当初は情報参照中心でしたが、徐々にAI分析機能を活用し、人事業務の中核ツールとして定着しました。さらに、役職者のキャリア履歴を全社員に開示する新機能を追加し、「目標とする人材像に近づくためのキャリアパス」を可視化。社員が自らキャリア相談できる仕組みも整備され、導入6ヶ月で13万件を超える閲覧が記録されるなど、社内全体での活用が急速に進展しました。
数字が語る変革の成果と実感される効果
業務効率化がもたらした時間とコストの削減
- タレントマネジメントシステム「POSITIVE」導入により年間1,000名規模の人事異動業務が効率化
- 異動関連の約20種類の申請手続き(引越し・社宅・交通費など)を完全ペーパレス化
- 2023年度末までに紙5万枚と人事部業務6,000時間の削減見込み(テレワーク環境でも人事業務を滞りなく遂行できる体制を構築
- 手作業・確認業務の時間削減により戦略的な業務に注力可能に
- 人事部門全体の生産性が飛躍的に向上
データに基づく配置で実現した「適材適所」
- AIによる客観的データ分析の導入でミスマッチを減少
- 個人の強みを最大限に活かす配置が実現
- リアルタイムでの情報収集・活用が可能に
- 家庭状況やキャリアビジョンなど多面的情報のデータ基盤を整備
- AI分析と人間判断の組み合わせが人を活かす人事戦略を支援
明治安田生命のAI導入課題と対応策
治安田生命のAI導入では、デジタル人材の育成と既存職員の活躍機会が大きな課題となっています。
アクセンチュアと協業し、社内でDXを推進できる人材を少なくとも300人育成するプロジェクトが進行中です。
永島社長は「人を採用するのではなく、人を変えていく挑戦が必要」と述べ、社員の成長を重視しています。
また、AIによる効率化の中でも雇用を維持し、事務職員を新たな領域で活躍させる体制を整えています。
未来を切り拓くAI人材分析:明治安田生命の展望と可能性
明治安田生命は「MY Mutual Way 2030」で「人とデジタルの融合」を掲げ、DX戦略を加速させています。
アクセンチュアとの長期提携のもと、生成AIを活用した営業職向けAIエージェントを導入し、全社的な業務改革を推進中です。
この取り組みは単なる効率化ではなく、「人ならではの価値を最大化するDX」として位置づけられています。
今後は経営・法務・ヘルスケアなど各分野に特化したAI開発も進め、社内データを統合するAIプラットフォームで全社員を支援します。
永島社長は「デジタルで安心を、人の力で信頼を」と語り、人材分析を企業戦略の中核に据えています。
まとめ—明治安田生命の成功に学ぶ「AI×人事」導入の鍵
成功要因:3つの実践アプローチ
明治安田生命のAI活用が成果を上げた背景には、3つの実践的アプローチがあります。
1つ目:「トライ&エラーの許容」
要件を最初から厳密に固めず、現場の声を反映しながら改善を重ねた柔軟な姿勢が、実用的なシステム構築を後押ししました。
2つ目:「伴走型パートナーシップ」
ISIDと共に課題分析から改善までを協働で進め、人事部の知見と技術を融合。外注ではなく共創の体制が成功を支えました。
3つ目:「ユーザー中心設計」
経営層だけでなく一般社員の使いやすさにもこだわり、キャリア支援機能など”個人の成長を促す仕組み”を整備しました。
AI人事を成功させるためのポイント
AI導入を成功させるには、まずデータの質と標準化が不可欠です。
次に、誤解を防ぐためのチェンジマネジメントと教育体制が鍵となります。
そして何より、「AIは判断を支援する道具」という原則を守ること。最終判断は常に人間が行うという姿勢が、健全なAI活用の基盤になります。
明治安田生命の事例は、人とAIが協働する新しい人事の形を示し、企業と社員の双方が成長する未来を描いています。


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