JAL(日本航空)が世界初 となる、AIによる手荷物分析の実証実験に成功しました。(注1)
JALは、長年の課題である航空業界の「機内持ち込み手荷物」(以下、手荷物)の問題に対し、AIを活用した取り組みを進めています。
本記事では、JALがNECと共同で推進する、画像認識AI導入の背景にある「定時運航率の維持」や「CXの向上」という課題と、AI導入がもたらす「業務効率化」について深掘りします。さらに、AIの具体的な仕組みから、実証実験を経て本格導入を目指すプロセス、そしてAIが実現する「未来の空港運営」を解説していきます。
注1:2024年11月時点 NEC調べ。
なぜJALは手荷物にAIで挑んだのか?
JALがAI導入の対象として着目したのは、空港における手荷物でした。
手荷物は、航空会社の経営基盤である定時運航率、顧客体験(CX)、そして現場の業務効率に影響を与えています。
定時運航率の維持
航空会社の信頼の証である定時運航率において、搭乗時の手荷物収納は長年の課題でした。
機内の収納棚が満杯になると、乗客が空きスペースを探して通路が混雑します。最終的に収納しきれない手荷物は貨物室へ預け直す作業が発生します。
手荷物を収容できなくなるプロセスが、フライト遅延の原因です。定時運航の維持はJALにとって最重要課題であり、この原因の解決に力を入れています。
顧客体験(CX)の向上
手荷物収納時の混雑やトラブルは、乗客にとって大きなストレスです。
「自分の席の近くに荷物を置けない」「通路が混雑して進めない」といった不満は、フライト全体の満足度を低下させます。
JALは手荷物問題の抜本的な解決により、搭乗時のストレス解消を目指しています。
業務効率化への期待
手荷物は、顧客だけでなく現場の業務負荷を増大させていました。これまでは、混雑予測や乗客への案内を、主に客室乗務員や地上スタッフの経験と勘に頼らざるを得ませんでした。
この属人的なオペレーションは、「いつ混雑するか分からない」という精神的プレッシャーや、収納トラブル発生時の対応負荷につながります。
AIによるデータ支援は、業務の標準化と効率化を実現します。結果として、現場の負担軽減、すなわち「従業員体験(EX)の向上」にもつながると期待されています。
JAL×NEC Baggage Counting Solution:画像認識AIの技術
JALが課題を解決するために採用したのが、NECと協業して導入を進める「NEC Baggage Counting Solution」です。
本ソリューションは、機械学習(AI)を活用し、搭乗口での手荷物のデータに基づいて解決します。

手荷物の量と種類を瞬時に把握
核となる技術は、搭乗口に設置されたカメラ映像のリアルタイム解析です。
AIは、搭乗ゲートを通過する乗客一人ひとりが持つ手荷物の「個数」と「種類」(スーツケース、リュックサック、紙袋など)を瞬時に、自動で識別します。これまで現場の経験則に頼っていた便の手荷物量が、客観的なデータとして即座に可視化されます。
手荷物のサイズ・形状から推定する技術
本ソリューションの特徴は、AIを用いて個数を数えるだけではなく、認識した手荷物のサイズや形状に基づき、それが機内の収納棚のスペースをどれだけ占有するかという積載量を自動で推定します。
推定された手荷物の総量が、機内の収納容量の境界に近づくと、AIがスタッフにアラートを発信します。アラートにより、収納棚が満杯になる前に、乗客への案内や貨物室への預け替えといった先手の対応を行うことが可能です。
JALのAI活用プロセス
JALはAI導入にあたり、現場の課題特定から始め、以下の実証実験を行いました。
課題の可視化と仮説検証
- プロジェクトは、「機内持ち込み手荷物による搭乗時間の長期化とフライト遅延」という課題から始まりました。
- JALは経験に頼らず、手荷物総量をリアルタイムで可視化することで、事前に対策を講じられると考えました。
AIモデルの構築と精度検証

- JALとNECは、AIモデルの有効性を検証する実証実験を行いました。
- 実験は2024年4月から9月にかけて、羽田空港第1ターミナル13番搭乗口という実際の現場で行われました。
- 目的は、AIの検知・分類精度や、アラート発信のタイミングが適切かを徹底的に検証することでした。
本格導入に向けた検討
- 約6ヶ月間の実証実験により、ソリューションの有用性が示され、JALは今後の本格導入を検討すると表明しています。
- AIによる積載量推定が遅延防止に活用できることが、データで示されています。
課題から始まったプロセスは、検証を経て、いよいよ本格的なオペレーション変革へと動き出します。
AI活用でJALが目指すものとは?
JALが推進する手荷物分析AIの導入は、収集されるデータを活用して「遅延の削減」「顧客体験(CX)の向上」「業務の効率化」という3つの経営課題を根本から解決することを目指しています。
遅延削減へのアプローチ
フライト遅延の原因となる手荷物問題の解決に向けて、本ソリューションは革新的なアプローチを採用しています。AIが搭乗口を通過する手荷物の総占有スペースをリアルタイムで推定し、収納棚の満杯を事前に予測する仕組みです。
実証実験により、この技術が確認され、スタッフは適切なタイミングで乗客への案内や貨物室への預け替えといった予防的対応を取ることができるようになりました。
ストレスフリーな顧客体験(CX)の実現
二つ目の目標は、ストレスフリーな顧客体験(CX)です。
搭乗時の混雑や、自分の手荷物をどこに収納すればよいかという不安は、快適な空の旅を妨げる要因でした。AIによる予測システムは、こうした不安の解消に貢献することが期待されます。スタッフがデータに基づいた案内を行うことで、乗客は手荷物のストレスを感じることなく搭乗可能です。JALは、AI活用によって「スムーズな搭乗の実現」と「顧客満足度の向上」を目指しています。
データに基づく業務効率化の推進
本ソリューションは、現場で働くスタッフのオペレーションをデータに基づいて変革し、業務効率化を推進します。これまで手荷物対応は、個々のスタッフの豊富な経験に依存する部分が大きく、それが業務負担の原因になっていました。AIが客観的なデータを提供することで、スタッフは「なぜ、今この対応が必要なのか」という明確な根拠を持って行動できるようになります。業務の標準化が進み、特定の個人のスキルに依存する体制から脱却が可能です。
結果として、より効率的な空港運営が実現し、従業員体験(EX)の向上にも寄与することが期待されます。
データ活用で見えてくる未来の航空運営
JALとNECによる手荷物分析AIの導入は、単なる遅延対策に留まらず、蓄積される手荷物データによって、未来の航空運営そのものを変革する可能性があります。
高度な予測と対策の実現
現在はフライト直前のリアルタイム推定が中心ですが、今後は蓄積されたデータをAIが分析することで、より高度な予測が可能になります。
例えば、便の特性、路線、季節変動などを組み合わせて、「この便は手荷物が多くなる」と事前に予測できれば、人員配置の最適化が図れます。また、場合によっては予約段階の乗客への事前案内など、問題の発生自体を抑制する対策も実現可能です。
JALの総合的なデジタル変革
本ソリューションは、JALが推進する「SMART AIRPORT」のコンセプトを実現するために重要です。JALはこれまでは、顔認証による搭乗手続き(Face Express)や空港案内AIなど、さまざまなデジタル施策を進めてきました。
今回の手荷物分析AIは、将来的にこれらのシステムと連携することで、搭乗手続きから機内への案内まで、一人ひとりの乗客に最適化された、よりシームレスな総合的顧客体験(CX)に貢献する可能性があります。
航空業界への影響
JALとNECが実証実験に成功したAIソリューションは、世界初の取り組みとして、航空業界全体に大きな影響を与えることが予想されます。手荷物収納の問題は世界中の航空会社が共通して抱える課題であり、JALの事例は、AIが有効な解決策であることを示しました。将来的に技術の実用化が進めば、他の航空会社や空港への展開により、業界全体のデジタル変革とサービス向上に貢献する可能性があります。
JALの課題から始めるAI活用
本記事では、JALが手荷物という、航空業界における課題に対し、いかにしてAI技術で解決しようとしているかを解説しました。この先進的な取り組みは、AI導入を検討する多くの企業に対し、重要なヒントを与えてくれます。JALとNECが行った実証実験は、AIを使って身近な問題を解決できるかを検証したものです。JALは「手荷物収納の混雑による遅延」という、現場が直面している課題に着目しました。
そして、JALはその解決が「定時運航率の維持」「顧客体験(CX)の向上」「業務効率化」という経営の根幹に関わる改善につながる可能性を見出しました。注目すべきは、その導入プロセスです。JALは、いきなり全社展開を目指すのではなく、まずはNECとの協業により、羽田空港という実際の現場で実証実験を行いました。
「AIは本当に現場の課題を解決できるのか」という技術的な有用性を徹底的に検証し、データに基づいた上で、初めて本格導入の検討に進んでいます。JALは、現場の課題に焦点を当て、AIによる解決策を検証しました。これは、AI導入を検討している多くの企業にとって、貴重な指針となることでしょう。


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