星野リゾートは、生成AIを活用して、宿泊予約センターと魅力造成の業務において、生産性とサービス品質の両立を実現しました。
2024年8月6日、カラクリ社は、星野リゾートが生成AI搭載のオペレーター支援ツール「KARAKURI assist」を導入したと発表。このツールは、問い合わせ内容に応じた返信文の下書きを自動生成する機能を備えています。
さらに魅力造成の業務ではGoogleの「Gemini」を導入し、企画立案や資料作成などにかかる時間を平均30%削減しました。
本記事では、生成AI導入の背景から具体的なプロセス、導入後の成果、課題、そして今後の展望までを詳しく解説します。
なぜ星野リゾートは生成AIを導入したのか
星野リゾートでは、高品質なホスピタリティを提供していく中で運営効率化と企画力向上に向けた課題がありました。
運営効率化の課題
知識とノウハウの属人化
5,000件を超えるメールテンプレートを経験豊富なスタッフしか扱えず、知識とノウハウが属人化。
新人教育の長期化と負担増大
新人が独り立ちするまでに長い研修期間が必要で、教育担当者の負担が増大。
サービス品質のばらつき
担当者によって対応内容や提案の質に差が出てしまい、全体のサービス品質が安定しない。
業務の非効率性
企画立案や資料作成に多くの時間がかかり、業務のスピードアップが求められていた。
上記の課題は、スタッフの業務負担を増やすだけでなく、星野リゾートが重視する顧客満足度の維持にも影響を及ぼす可能性がありました。
企画力向上に向けた課題
新規アイデアの創出課題
既存の発想から脱却した新しいアイデアを継続的に生み出すことに苦戦。
データの分析と活用の遅れ
大量の顧客アンケートやSNSデータを素早く分析して施策に反映する体制の不足。
暗黙知の継承課題
ベテランスタッフが持つ言語化しにくい「暗黙知」を組織全体で共有し、次世代へ継承する仕組みの不十分さ。
上記らの課題により、市場変化への対応スピードが遅れ、競争力の維持が困難になる懸念がありました。
【宿泊予約センター】KARAKURI assistの導入
上記の課題に対して宿泊予約センターのメール業務に導入した生成AIソリューション、
KARAKURI assistの技術的な特徴と、導入の決め手を紹介。
KARAKURI assistの採用技術
カラクリ社のKARAKURI assistは、宿泊予約センターのメール業務を標準化するオペレーター支援ツールです。
大規模言語モデル(OpenAIのGPT-4)を活用した生成AIを搭載し、問い合わせ内容に応じた返信文の下書きを自動生成します。
また、社内に蓄積された5,000件以上のメールテンプレートを検索して適切な文面を提示できるほか、タグ付けによるワンクリック呼び出し機能も備えています。
結果的に、新人スタッフの育成面でも効果を発揮しています。これまではベテランの対応方法を見て学ぶ必要があったため、一人前になるまでに時間を要していました。
そして、生成AIによる返信文の生成や、蓄積されたテンプレートの活用により、経験が浅い段階でも適切な対応ができる環境が整いました。
さらに、自動校閲機能により誤字脱字や表現の不適切さをチェックできるため、メール返信の質を保ちながら業務時間の短縮を実現しています。
KARAKURI assistの導入アプローチ

星野リゾートは、KARAKURI assistの導入にあたり、自社の業務実態に即した3点が決め手となりました。
検索型テンプレート管理
一般的なツールでは、テンプレートをフォルダで階層管理する方式が主流です。しかし、この方法では運用を続けるうちにフォルダ構造が複雑になり、目的の文面を探すのに時間がかかってしまいます。
カラクリ社が提案したのは、階層管理ではなく検索による運用でした。テンプレートは必要に応じて自由に増やし、使いたいときにキーワード検索で即座に呼び出す仕組みです。
スタッフは直感的に使うことができ、星野リゾートが目指す「誰でも使いやすいツール」という要件にも合致していました。
データを生かした生成AI活用
星野リゾートには5,000件以上のテンプレートが蓄積されており、これをAIに学習させることで定型的な問い合わせへの返信を自動化できる可能性がありました。
柔軟な導入設計
星野リゾートでは全スタッフへの一斉導入ではなく、ツールを必要とする人や新人スタッフを中心とした段階的な展開を想定していました。
KARAKURI assistはユーザー数に応じた柔軟な契約が可能だったため、小規模から始めて効果を見極めながら拡大できる点が、導入リスクを抑える安心材料となりました。
【魅力造成】Geminiの導入

星野リゾートの生成AI活用事例として、Gemini導入の背景、選定理由、技術的特徴、検証と成果を解説します。
Geminiの導入背景
星野リゾートは、社内業務の生成AI活用においてGoogle Workspaceと連携するGeminiを採用しました。
星野リゾートがGeminiを採用した理由は、すでに活用していたGoogle Workspaceの蓄積データを活かせる点にありました。
同社は既存データを活用して、業務に必要な情報を生成可能なRAG(Retrieval-Augmented Generation)環境の構築を目指しており、既存のデータ基盤を活用できるメリットがあります。
Geminiの検証と成果
実際の業務における効果を検証するため、複数言語を扱うグローバルマーケティングユニットのメンバーを対象に、Geminiトライアルプログラムを実施しました。翻訳や多言語コンテンツ作成など、生成AIの効果が出やすい業務で検証しました。
結果として、デジタルコンテンツの作成時間は大幅に短縮できました。導入後の調査では、85%以上のメンバーが1日あたり2時間以上の時間削減を実現したと回答しています。この結果は、当初の予想を上回る成果となりました。
【宿泊予約センター】KARAKURI assist導入効果
KARAKURI assistの導入による具体的な効果を見ていきます。
対応時間の短縮と新人の早期戦力化
KARAKURI assistの導入により、問い合わせ内容が自動で分析され、最適なテンプレートや下書きが生成されるようになりました。
生成AIが提案した文章をスタッフが確認・修正したうえで送信することで、検索にかかる時間と労力を大幅に削減しています。
結果として、よくある問い合わせへの対応時間が大幅に短縮できました。さらに、生成AIがテンプレート検索と下書き作成を担うことで、新人研修期間が大幅に短縮され、2024年4月入社の新人4名が短期間で戦力化しています。
数か月でメール対応デビューを果たした新人たちは、ベテラン以上の件数を処理して活躍中です。
対応品質の均一化と業務負荷の軽減
ベテランの属人的なノウハウが生成AIに置き換わり、安定した品質で顧客対応が可能になりました。経験の浅いスタッフでもベテランと同等の品質で対応でき、迅速かつ正確な返信が可能です。
現場からは「生成AIが返信のひな形を作ってくれるおかげで、返信の質を保ちながら、対応が速くなった」という声が寄せられています。
新人とベテランの差が縮まることで全体の生産性が高まり、カスタマーサポートの即応性が向上しました。
【魅力造成】Gemini導入効果
Gemini導入による具体的な効果は以下の通りです。
作業時間30%削減と創造性向上
魅力造成の業務では、企画立案や資料作成の時間が約30%削減され、文章校正にかかる時間は30分から5分に短縮されました。その結果、担当者の負担が軽減され、新しいサービスのアイデアや顧客体験の向上策に時間を割けるようになりました。
また、市場分析においては膨大なアンケートやSNSデータからトレンドを短時間で抽出できるようになり、データに基づいた意思決定が迅速に行われています。
翻訳業務と多言語対応
生成AIは複数の言語でのメールや会議資料の作成、プレスリリースの翻訳、年間500件を超える日本国内施設のリリースの多言語化に活用しています。生成AIの活用により、翻訳に要する時間を半分程度に短縮できました。
Geminiの多言語対応により、対応言語を大幅に拡大しており、ブランドごとに求められる言葉遣いを理解して適切な表現を選べるため、翻訳品質も向上しています。
生成AI導入時の課題と対策
導入当初は生成AIの回答や文案の精度検証が課題でした。星野リゾートでは、生成AIが作成した下書きは必ず人間が確認・承認してから送信するルールを徹底しています。「生成AIは支援ツールであり最終判断は人間が行う」ことを全社員に周知しました。
また、生成AIが人間の仕事を奪うものではなく、能力を拡張するツールであることを理解してもらうため、勉強会やセミナーを開催し活用方法を共有しています。
星野リゾートが目指す生成AI活用の未来
星野リゾートは、生成AIの活用をさらに深化させる構想を描いています。
既存データを活用したRAG環境の構築に加え、NotebookLMの活用も進めています。これにより、経営判断に関する情報や、これまでベテランに頼っていた「暗黙知」を、誰もが引き出せる共有知識として整備することを目指しています。
Geminiとの対話を通じて判断の理由や意図を理解することで、暗黙知の継承も可能です。
AIはあくまで発想を広げるアシスタントと位置づけ、最終判断は人が下すという文化を守りながら、全社員が創造的な業務に集中できる環境を実現していく計画です。
星野リゾートから学ぶ、生成AI導入の成功要因
星野リゾートの成功要因は、課題が明確な部門から段階的に導入し、既存のデータを最大限に活用した点にあります。
さらに、生成AIをあくまで「人間の能力を拡張するツール」と位置づけて現場の不安をなくし、活用を促す文化を醸成したことが、単なる業務効率化を超えた成果に繋がりました。



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