Happy Quality株式会社|AI灌漑管理で可販果率95%・糖度9.46を達成

日本の農業を支える熟練農家の高齢化が進み、長年の経験で培われた栽培技術が失われる危機にあります。さらに、異常気象の増加や、環境に優しい農業も求められ、生産現場は板挟みになっています。

こうした課題にAI技術で挑むのが、静岡県浜松市のHappy Quality株式会社です。同社が静岡大学と3年かけて開発したAI灌漑システム「Happy潅水」は、植物の葉のしおれ具合から水分不足を判断し、自動で水やりするタイミングを決めます。これにより、高糖度トマトを可販果率95%、糖度9.46という高い品質で安定生産できるようになりました。

AI灌漑管理と栽培データ分析の技術、導入の進め方、実際の成果、そして世界展開への展望を紹介します。

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目次

日本農業が直面する壁

日本の農業は、人口減少と高齢化、気候変動に直面しています。これらは個々の農家の努力だけでは解決できません。

平均年齢68.4歳 担い手不足と技術継承の危機

農林水産省の2022年調査によると、日本の基幹的農業従事者(農業を主な仕事とする人)の平均年齢は68.4歳です。

課題具体的な状況影響
高齢化の進行平均年齢68.4歳、10年前より5歳以上上昇体力的に厳しい作業の継続が困難に
技術継承の断絶天候の読み方、土の状態判断など「暗黙知」が言語化できない熟練者の引退とともに技術が消失
新規就農の壁経験不足による収量ばらつき、品質低下経営が安定せず離農するケースも
耕作放棄地の増加担い手不足で農地を維持できない食料自給率のさらなる低下

こうした課題を解決するには、長年の経験をデータ化し、誰でも再現できる技術にすることが必要です。

台風・豪雨・猛暑 データで挑む気候変動リスク

大型台風や集中豪雨、記録的な猛暑といった異常気象が、農業生産に大きな被害をもたらしています。これまでと同じ栽培方法では対応できず、収穫量や品質が不安定になってきました。

気候変動は予測が難しく、農家にとって大きなリスクです。さらに、環境に配慮した持続可能な農業への期待も高まっており、生産現場は厳しい状況に置かれています。

従来の経験や勘だけでは限界があります。急な天候変化にも対応できる、データに基づいた科学的なアプローチが必要です。

こうした課題に、Happy QualityはAI技術とデータ分析で取り組んでいます。

Happy Qualityの3つの技術

引用元:https://happy-quality.jp/2025/03/05/agritech-agriculture-aiirrigation/

Happy Qualityは3つの強みを持っています。静岡大学との共同研究で開発した独自AI、通信環境に応じて選べる実装形態、そして10年間蓄積した栽培データによる仮想シミュレーション技術です。

AI灌漑システム「Happy潅水」葉のしおれで水やりを自動判断

Happy Qualityが静岡大学と2017年から2019年にかけて開発したHappy潅水は、植物の葉のしおれ具合から水不足を判断し、自動で水やりするシステムです。

従来方式との違い

項目従来の日射量方式Happy潅水(AI方式)
判断基準日射量のみ葉のしおれ+環境データ
天候変化への対応遅れる(急変に弱い)リアルタイムで即応
植物の状態把握間接的(推測)直接的(画像解析)
品種・栽培方法個別設定が必要汎用性が高い

Happy潅水の5つの機能

機能内容効果
リアルタイム画像解析カメラで葉のしおれ具合を数値化し、微細な変化も検知人の目では判断できない初期段階の水ストレスを発見
多次元データ統合温度・湿度・日射量・CO₂濃度・土壌水分を同時処理植物を取り巻く環境を総合的に判断し、最適な灌水タイミングを決定
高い汎用性トマト、メロン、イチゴなど作物や栽培方法に関係なく適用可能土耕、ロックウール、養液栽培など、どんな環境でも高精度な判断
完全自動実行AIの判断から電磁弁の開閉まで、人の操作は一切不要24時間365日、植物にとって最適なタイミングで灌水
急変の対応力曇天から急に晴れた場合など、従来方式では遅れる場面でも即応水ストレスによる裂果(実割れ)を大幅に低減

通信環境に合わせて選べる2つの形

Happy Qualityは、農家の通信環境や予算に合わせて2つの実装形態を用意しています。

形態サービス名特徴適した農家
クラウド型NTTドコモ「かん水オート」インターネット経由でデータ送受信、遠隔から複数農場を管理複数圃場を持つ農業法人、通信環境が整った地域
エッジ型イノチオアグリ「AQUA BEAT」連携オフラインで現場機器のみで完結、既存設備と互換性あり山間部など通信不安定地域、通信コスト削減したい農家

どちらも同じAIアルゴリズムを使っているため、判断精度は変わりません。農家は自分の状況に合わせて選べます。

10年間のデータで仮想空間シミュレーション

デジタルツインとは、現実の農場をコンピューター上に再現し、仮想的に実験できる技術です。Happy Qualityは2015年から蓄積したデータでこの仕組みを作りました。

データの種類収集内容活用方法
環境情報気温、湿度、日射量、CO₂濃度など最適な栽培環境の再現
作物情報草丈、葉色、糖度、リコピン量など生育予測と品質管理
農作業情報作業時間、投入人数、使用資材など作業効率の改善
収穫情報収量、サイズ、不良果率など次作の栽培計画立案

このデータを使い、「水の量を10%増やしたら糖度はどう変わるか」といった実験を仮想空間でできます。実際の農場で試す必要がなく、失敗のリスクを減らせるのです。

さらに、M2Labo(自動走行ロボット)でデータ収集を自動化し、CRRA(CO₂削減技術)との統合を進めています。静岡大学、NTTドコモ、イノチオアグリといった信頼できるパートナーとの協力が、技術の精度と応用範囲を広げ、農家が安心して導入できます。

可販果率95%、糖度9.46 数字で見る導入効果

引用元:https://happy-quality.jp/product/

Happy QualityのAI技術は、生産面・コスト面・労働面で成果を上げています。高品質トマトの生産だけでなく、水の使用量や労働時間の削減も実現しました。

さらに、この技術で栽培した「Hapitoma(ハピトマ)」は、生鮮食品では日本初の機能性表示食品として年間2,000トンの注文があります。

数字で見る導入前後の変化

AI灌漑システム「Happy潅水」の導入効果を、数字で見ていきます。

項目導入前導入後改善率
可販果率75%95%20%増
糖度通常4~5度平均9.46度約2倍
労働時間基準値約50%削減約50%削減

こうした成果をもとに、Happy Qualityは日本初の機能性表示食品トマト「Hapitoma」の商品化に成功しました。

日本初の機能性表示トマト「Hapitoma」

AI技術で栽培した高糖度トマト「Hapitoma(ハピトマ)」は、生鮮食品では日本初の機能性表示食品です。科学的な根拠をもとに健康効果を表示できる食品として認められました。

Hapitomaは、ストレス緩和のGABA(ギャバ)と抗酸化作用のリコピンを含み、リコピン量は通常のトマトの2倍以上です。世界初のリコピン測定機能を持つ選果機で、一粒ずつ糖度・形・傷・リコピン量を測定し、糖度6度から10度まで選べます。

小売店や飲食店から「通年で安定した品質を扱える」と評価され、年間2,000トンの注文があります。

Happy QualityのFC(フランチャイズ)農家モデルでは、マニュアル通りに栽培した作物を同社が規定価格で全量買い取ります。農家は価格変動や在庫の心配がなく、一般より高額な買取価格で年収1,000万円も目指せるのです。

AI技術による高品質な生産と確実な販路を組み合わせた「Happy式マーケットイン農業モデル」が、農業経営の新しい形です。

現場調査から本格稼働までAI導入を成功させる4Step

Happy QualityのAI導入は、4つのステップで段階的に進めます。現場を把握 → 機器を設置してデータを集める → AIを調整してから運用開始へ。この進め方が、導入の失敗を防ぎ成果につなげています。

Step 1:現場調査と要件定義

まず、作物の種類、栽培環境(ハウスか露地か)、農場の広さといった基本情報の確認です。「収量を増やしたい」「労働時間を減らしたい」といった導入目的も、この段階で明確にします。通信環境に応じてクラウド型かエッジ型を提案し、既存の灌水設備があればそれを活かす形で進めていきます。

Step 2:機器設置とデータ収集開始

センサー、カメラ、制御盤を設置します。カメラは植物の葉がよく見える位置に、センサーはハウス内の代表的な場所に配置し、灌水設備と接続します。設置後は数日間、データが正しく取得できているかチェックです。

Step 3:データ統合とAI調整

取得したデータをクラウドに集め、AIが学習を始めます。Happy Qualityが2015年から蓄積したデータと、現場の新しいデータを組み合わせてAIモデルを作るのです。作物の種類や品種に合わせてAIを調整し、その農場専用にカスタマイズすることで判断精度を高めます。

Step 4:試験運用と本格稼働

AIモデル完成後、まず仮想空間でシミュレーションします。「このタイミングで水やりしたらどうなるか」を試し、予想通りの結果が出れば実際の圃場で自動灌水の開始です。

運用開始後もAIは学習を続け、月10回以上のモデル調整で精度を高めます。技術サポートチームが24時間365日バックアップし、導入初期の研修では操作方法からメンテナンスまで指導します。

データ収集、システム連携、IT不安 導入の壁を乗り越える方法

AI導入には、技術と人の壁があります。

  • どのデータを集めればいいか分からない
  • 違うメーカーの機器がつながらない
  • デジタル技術に不慣れで不安

こうした課題に、Happy Qualityは解決策を用意しています。

「何を測る?」「機器が繋がらない」データの壁を4分類で解決

AI導入で最初にぶつかるのが、データに関する課題です。

一つ目は「何を測り、どう使うか」という問題です。何を優先的に集めればいいか判断が難しいため、Happy Qualityはデータ収集を4つに整理しました。

  • 環境情報:気温、湿度、日射量、土壌水分など
  • 作物情報:草丈、葉色、果実の大きさ、糖度など
  • 農作業情報:作業の種類、時間、使用した資材など
  • 収穫情報:収量、サイズ、不良果の割合など

この分類で「まず環境と作物情報から始め、慣れたら農作業情報を追加する」といった段階的な導入ができます。

二つ目は、違うメーカー機器の連携問題です。農業現場には様々なメーカーの機器がありますが、メーカーごとに通信の仕組みが違うため、データを一箇所に集められませんでした。Happy Qualityは標準化技術で解決しました。

技術内容効果
オープンAPI外部システムと自由にデータをやり取りできる仕組み他社製品との連携が容易
モジュラー設計機能ごとに分かれた構造で、必要な部分だけ追加可能段階的な拡張ができる
多様な通信対応Modbus、Analogなど複数の通信方式に対応既存設備をそのまま活用

これにより、イノチオアグリのアクアビートExなど既存の制御盤と接続でき、設備を一から入れ替える必要がありません。取得したデータは分かりやすい画面で表示され、専門知識がなくても理解できます。

「機械が壊れたら?」「操作ミスしたら?」不安を消すサポート

技術的な問題が解決しても、人の問題が残ります。

「機械が壊れたらどうしよう」「操作を間違えたら作物がダメになるのでは」といった不安があります。特にベテラン農家ほど、長年のやり方を変えることへの抵抗感が強いです。

Happy Qualityは、段階的な導入と手厚いサポートでこの壁を乗り越えます。

  • 導入時研修プログラム:操作方法だけでなく、「なぜこのデータが重要か」「AIがどう判断するか」まで指導
  • 24時間365日技術サポート:トラブル時に電話やメールで相談でき、遠隔確認と必要に応じた現地対応
  • 直感的な画面設計:専門用語を使わず「水が必要です」といったシンプルな表示
  • 段階的な自動化移行:「AIが提案、人が判断」の半自動モードから始め、慣れたら徐々に全自動へ

こうした様々なサポートで、デジタル技術に不慣れな人でも導入できます。

2025年から始まる進化 デジタル農場と世界展開への道筋

Happy Qualityは、個別作業の自動化から農場全体の統合管理へと進化してきました。2025年から段階的に技術を広げ、生産から流通までの世界スタンダードを創り上げようとしています。

個別作業から農場全体へ デジタルファーミングの価値

デジタルファーミングとは、生育状況・環境データ・作業記録・販売実績など、農場全体の情報をデジタル化し、栽培や経営の判断を最適化する仕組みです。

これまでのスマート農業は個別作業の自動化でしたが、デジタルファーミングは農場全体を捉えています。AI灌水・センサー・ドローン・無人走行車といった技術を一つのシステムで管理することで、バラバラになっていた情報がつながり、農場全体の最適化になります。

Happy Qualityが目指す4つの価値があります。

  • データの一元化と見える化:全データをリアルタイムで把握し、過去データと比較
  • 経営判断の支援:出荷タイミング、収量予測、労務管理など
  • リスクの早期発見:病害虫や異常気象を素早く察知
  • 仮想シミュレーション:実際の圃場で試す前にデジタル空間で検証

これら4つの価値を実現するため、Happy Qualityは新技術の開発を進めています。開発中のStomata Scope(ストマータスコープ)は、植物の気孔(呼吸や水分調整を行う小さな穴)を観察する技術です。気孔の開閉から植物のストレスを把握し、12種類の病気を早期発見できるシステムを目指しています。

M2Laboと開発中の自動走行ロボット「Mobile Mover」は、圃場内を自動で移動しながら生育データを集めます。人が毎日見回る必要がなくなり、常に最新情報を基にAIが判断できます。

2027年までの成長戦略

Happy Qualityは、2025年から2027年にかけて3段階で技術を広げていきます。

期間主な取り組み目標
2025~2026年Happy潅水の多作物対応、小型化、コスト削減トマト以外の野菜・果樹への展開
2026~2027年Stomata Scopeの商用化、12種類の病気検出病気早期発見の実用化
2027年~全技術の統合、複数農場管理、経営支援統合システムによる意思決定支援

この段階的な展開と合わせて、VR(仮想現実)トレーニングシステムも導入し、新規就農者が収穫や芽かき・葉かきを仮想空間で練習できるようにします。

Happy Qualityは、国内で確立した技術を海外へ展開します。FC農家モデルを全国に広げると同時に、アジアなど海外市場にも進出する計画です。現地パートナーと連携し、その国の気候や作物に合わせて技術を提供します。

最終目標は「生産から流通までの世界スタンダードを創る」ことです。栽培技術、品質管理、流通システムまでを一貫して提供し、世界中どこでも高品質な作物を安定生産できる仕組みを作ります。

まとめ

Happy QualityはAI技術により、日本の農業が抱える課題への実践的な解決策を示しました。熟練者の経験と勘をデータ化し、誰でも高品質な作物を安定生産できる仕組みです。

2023年に4億5,000万円の資金調達に成功し、国内外への展開を進めています。個別作業の自動化から農場全体の管理へ、そして世界の農業の標準を創るというビジョンが、形になってきています。

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