
営業マネージャーの皆様は「スキルが属人化している」「多忙でロープレに時間が割けない」といった課題はありませんか。OJTが限界を迎える中、AIによる営業研修が注目されています。
本記事では、大東建託株式会社(以下、大東建託)の事例「生成型AI課長」にスポットを当てます。AIがいかにして属人化やロールプレイング(以下、ロープレ)の形骸化を解決するのか。その機能や導入効果、そして成功に至ったポイントまで詳しく解説します。
AI営業研修を導入する背景

大東建託がAI営業研修を導入した背景には、「マンパワーによる営業人材の育成が限界」という根本的な課題がありました。 そして、実際の現場では主に2つの問題を引き起こしていました。
スキルの属人化と指導のばらつき
従来の研修は、管理職の個別指導に依存していました。結果として、指導者の経験によって内容や質にばらつきが生じ、営業スキルが属人化する状況に陥っていたのです。
指導者によって内容が異なれば若手社員は混乱し、営業力の平準化は困難となります。
ロープレの「形骸化」と双方の負担
従来のロープレは、お客様役・評価者役など3〜4名を集めるリソースの制約がありました。マネージャーの時間を確保できない時間的な課題も深刻です。
加えて、評価者の目を気にして若手が萎縮する心理的な負担もあり、ロープレはやらされ仕事として形骸化する状況に陥っていたのです。
では、生成型AI課長がどのようにしてこれらの課題を解決するのか、その主要機能を見ていきましょう。
大東建託の「生成型AI課長」とは?

引用:大東建託株式会社
(https://www.kentaku.co.jp/corporate/pr/info/2025/release_aikacho_250328.html)
AI課長とは、大東建託が独自開発したAI営業研修システムです。営業担当者の育成と実務支援を目的に設計され、ロールプレイング形式で営業スキルを習得できます。
AI課長は全4段階に進化する計画となっており、現在展開中の生成型AI課長は第2段階に位置づけられています。※詳細は以下の表のとおり
第1段階として2024年10月に全国へ展開されたのが台本型AI課長です。決められたシナリオに沿って練習するもので、基礎的な対応力を身につけることを目的としています。
第2段階として2025年4月から導入された生成型AI課長は、さらに実践的な対応力を養えるよう進化しました。台本型との大きな違いは、シナリオなしで会話ができる点です。土地オーナーの年齢や性格などの設定に基づいて会話を展開し、営業担当者の発言を即座に評価します。関係構築や情報収集のスキルに対するアドバイスも可能です。
「課長」という身近な役職名を採用したことで、AIを相手にしたロープレでも親近感が湧き、実践的に学習できる環境を実現しています。
※「AI課長プロジェクト」4つの段階
| 段階 | 名称 | 導入時期 | 目的・概要 | 特徴的な機能 |
| 第1段階 | 台本型AI課長 | 2024年10月~ | 基礎訓練 あらかじめ準備されたシナリオに基づき、商談手法の基礎を学ぶ。 | PC・タブレットでAIがオーナー役 ソーシャルスタイル理論に基づくシナリオ 全6種類の方言に対応 |
| 第2段階 (現在) | 生成型AI課長 | 2025年4月~ | 実践訓練 シナリオなしで、AIが柔軟に応対。より実践的な対応話法を学ぶ。 | シナリオなしの自由な会話 AIが発言内容・音声を解析 顧客の感情変化を定量化し評価・指導 |
| 第3段階 | チャットボット機能 | 年度内予定 | 知識支援 営業担当者が必要な専門知識をAIから即座に入手する。 | 専門用語や法律・税金に関する知識の即時提供 |
| 第4段階 | データ駆動型営業支援 | 未 定 | 戦略支援 顧客データをAIが分析し、関心度や最適な提案内容を導き出す。 | 会話音声データの可視化 AIによる顧客の関心度分析 最適な行動や提案内容をAIが考案 |
AI課長は、基礎訓練から始まり、最終的にはAIによる戦略支援までを見据えたプロジェクトです。
本記事で中心的に解説する第2段階の生成型AI課長が、なぜ導入されたのか。従来の営業研修が抱えていた課題を次に見ていきましょう。
生成型AI課長の3つの主な機能

生成型AI課長の3つの主な機能は以下の通りです。
- 自由応対ロープレ
- 感情変化の可視化
- スキルに合わせた個別学習
上記について、目的と特徴を表にまとめます。
| 主な機能 | 目的 | 特徴 |
| 自由応対ロープレ | シナリオに縛られない実践的ロープレの実施 時間や場所を問わない練習環境の提供 | AIが顧客役と評価役を代替(24時間365日練習可能) 顧客の年齢・性格など設定に基づきAIが応対 標準語に加え、関西弁など全6方言に対応 終了後に客観的な評価とアドバイスをフィードバック |
| 感情変化の可視化 | 発言が顧客心理に与える影響をデータで把握 コミュニケーションの癖や課題の早期発見 | 顧客の感情を警戒心、興味、信頼で定量化 ロープレ中に感情が変動した発言と理由を可視化 評価に基づき、トークの改善点を具体的に把握 |
| スキルに合わせた個別学習 | 個々のスキルや課題に応じた学習内容の最適化 組織全体の営業スキルの標準化・底上げ | 上司が部下に練習させたい顧客の属性を設定可能 「ソーシャルスタイル理論」に基づき、顧客タイプ別の型を習得 ロープレ結果は全てデータ蓄積され、ナレッジシェアに活用 |
生成型AI課長は実践的な訓練と客観的なデータ分析を両立させています。生成型AI課長が、組織にどのような効果をもたらしたのか見ていきましょう。
生成型AI課長による3つの効果

生成型AI課長の導入は、以下の3つの効果がありました。
- 提案品質の向上
- 学習意欲の向上
- マネジメント工数の削減
上記の効果について、導入前後の変化を表にまとめます。
| 主要な効果 | 導入前の課題 | 導入による効果 |
| 提案品質の向上 | スキルの属人化 指導のばらつき | 指導レベルの均一化と、営業力の平準化を実現 感情変化が可視化され、客観的データに基づき対応話法を改善 |
| 学習意欲の向上 | 人前でのロープレは心理的負担 受け身の練習 | 失敗を恐れず練習でき、心理的負担が軽減 能動的な学習へ意識が変化 |
| マネジメント工数の削減 | 人員の調整が必要 時間の確保が必要 | ロープレ工数を削減 付加価値の高い業務に集中 |
上記の成果を出すためには、単にツールを導入するだけでは不十分です。大東建託はどのような点に注意して、プロジェクトを導いたのでしょうか。
AI営業研修に成功した4つのポイント

大東建託のAI営業研修の事例から、AI営業研修を自社で成功させるための4つのポイントをご紹介します。
①目的の明確化
AI導入には、課題を解決するという目的が不可欠です。
大東建託は、「マンパワーによる営業の人材育成が限界を迎えつつある」と認識していました。そして、指導の内容や質にばらつきが生じていたため、「AI活用によって教育や指導レベルの均質化、若手の営業力の平準化を図る」という明確な目標を設定しました。
②段階的な導入と継続的な改善
AI営業研修は、段階的に導入し、現場のフィードバックに基づいて精度を向上させることが重要です。
大東建託のAI課長は、第1弾として台本型AI課長をリリースしました。全支店への一斉展開ではなく、まず一部支店で先行利用し、フィードバックを収集・改善した上で全支店に展開するスモールスタート方式を採用しています。
また、日常の練習で得られたフィードバックを基に、AIの調整や辞書の追加を継続的に行い、精度の向上を図っています。
③現場のニーズを反映
AIを現場に定着させるためには、現場のニーズを反映させることが必要です。大東建託では、開発ベンダーと社内の業務部門が密に連携しました。
具体的には、業務部門が現場目線で要望を伝える「橋渡し役」を担っています。また、ローンチ前には全国19支店でPoC(概念実証)を実施し、地域によって異なる顧客の特徴に合わせて、AIを調整しました。
さらに、開発側が思いつかなかった「方言を喋らせる」という要望も実現しており、徹底して現場の声を吸い上げています。
④AIと人間の役割分担
大東建託は、生成型AI課長を通じて人間の役割再定義を進めています。
AIが訓練を効率的に実施することで、約2,900名の営業担当者に対し、ロープレにかかっていた時間を削減できます。営業担当者は商談準備や顧客面談など、より付加価値の高い業務に集中できるようになり、高度な判断や創造的な業務への注力が可能です。
AI導入による省力化と顧客対応の品質向上は、同社の「ビジョン2030」における生産性向上目標の達成を後押しします。
大東建託に学ぶAI営業研修の導入法
AI導入を成功させる第一歩は、組織が抱える課題を明確にすることです。大東建託は「マンパワーによる人材育成の限界」という課題を認識し、「AI活用による教育レベルの均質化と営業力の平準化」という目標を設定しました。
また、AIは全社に一斉導入するのではなく、現場のフィードバックを反映しながら段階的に進めることが重要です。大東建託は、まず台本型AI課長で検証と改善を行った後、生成型AI課長を全支店に展開しました。さらに、日常の練習から得られるフィードバックでAIの判断基準を調整し、精度を継続的に向上させています。
明確な目標設定と段階的な導入を実践することで、AIは単なるツールではなく、組織の未来を共創する強力なビジネスパートナーとなるでしょう。


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