年間42万時間の創出、災害対応の負担40%削減。あいおいニッセイ同和損保が、この驚きの数字を実現したのは、3つのAI技術を組み合わせた戦略です。人の手に頼っていた膨大な作業が、最新の仕組みへと変わりました。
この記事では、なぜAIを入れたのか・どんな技術を選んだのか・どう進めて成果を出したのか・そしてこれからどこへ向かうのかを解説します。
なぜAIが必要だったのか?2つの深刻な課題

あいおいニッセイ同和損保がAI導入を決めた理由は、次の2つの課題にありました。
- 激しさを増す自然災害への対応
- 膨大な時間を奪う非効率な作業
従来のやり方では限界でした。「このままではお客様に良いサービスを届けられない」という危機感が、会社全体を変える決断につながったのです。
課題1:増え続ける災害と追いつかない現場
日本では台風や豪雨の被害が年々ひどくなっています。2018年の西日本豪雨、2019年の台風15号・19号と大きな災害が続き、そのたびに数万件もの保険金請求があいおいニッセイ同和損保に殺到しました。
これまでは社員が現場へ行き、一件ずつ被害を確認していましたが、災害の規模が大きくなると対応しきれません。毎日遅くまで働いても処理が追いつかず、お客様からは「いつになったら保険金が受け取れるのか」という声が相次ぎました。
災害はこれからも増える見込みで、人を増やすにも限界があります。このままではお客様に満足してもらえなくなると感じ、災害対応の仕組みそのものを変える必要に迫られていました。
課題2:年間70万時間を奪う非効率な作業
もう一つの大きな問題が、毎日の業務に隠れている無駄な作業です。保険会社では、契約書のチェック、データ入力、書類の照らし合わせといった細かい仕事が山ほどあります。あいおいニッセイ同和損保でも、こうした作業に年間70万時間も使っていました。
中でも大変なのが、紙の書類をパソコンに打ち込む作業です。お客様から届く申込書や請求書を、一枚ずつ目で見て、手で入力するだけで一日に何時間も取られます。打ち間違えれば、チェックにさらに時間がかかります。
社員は「もっとお客様のために時間を使いたい」と思っていました。
しかし現実は、単純作業に追われる毎日でした。この70万時間を取り戻せたら、会社は大きく変わります。
問題を解決した3つのAI技術

あいおいニッセイ同和損保が選んだのは、3つのAI技術です。
- RPA:単純作業の自動化
- 画像認識AI:災害の被害確認
- 機械学習:不正の見抜きやリスク予測
それぞれ得意分野が違い、組み合わせることで大きな力を発揮します。各技術が実際にどんな仕事を担い、現場をどう変えたのでしょうか。
1.単純作業を自動化するRPAとAI-OCR
最初に取り入れたのが、UiPathというRPAツールです。RPAは「ロボティック・プロセス・オートメーション」の略で、パソコン作業をロボットに教えて自動化する技術です。キーボードを打ったりマウスを動かしたり、人がやっていた単純作業をロボットが代わりにこなします。
あいおいニッセイ同和損保は、このRPAにAI-OCRを組み合わせました。OCRは紙の書類をスキャンして文字を読み取る技術で、AIを使えば手書き文字や複雑な形の書類も正しく読めます。これまで社員が手で打ち込んでいた申込書や請求書を、AIが自動で読んでシステムに入れてくれます。
主な導入業務
| 業務内容 | 従来の方法 | RPA導入後 |
|---|---|---|
| 契約書データ入力 | 社員が手入力(1件15分) | 自動入力(1件2分) |
| 請求書処理 | 目視確認+手入力 | AI読み取り+自動処理 |
| データ照合 | 複数システムを手作業で確認 | 自動照合+エラー通知 |
この仕組みで社員は面倒な作業から解放され、お客様対応や戦略的な業務に集中できるようになりました。
2.被害確認を一瞬で終わらせる画像認識AI

引用元:Tractable公式サイト
災害対応で力を発揮したのが、イギリスのTractable社が作った画像認識AIです。このAIは、事故車や被災した建物の写真を見るだけで、どこがどれくらい壊れているかを一瞬で判断します。
これまでは社員が現場へ行き、自分の目で被害を確かめていました。一件に数時間かかることもあり、大きな災害では間に合いません。Tractableなら、お客様がスマホで撮った写真を送るだけで、AIが数秒で損害額を計算してくれます。
2019年の台風被害で、この技術が活躍しました。数万件の請求があっても、AIが最初の査定をこなすため、社員は難しいケースだけに集中できます。災害対応の時間が40%も減り、保険金を払うスピードが格段に上がりました。
3.不正を見抜く機械学習と生成AI

3つ目が、イギリスのオックスフォード大学から生まれたMind Foundryの機械学習技術です。機械学習とは、大量のデータから規則性を見つけて、予測や判断をするAI技術です。あいおいニッセイ同和損保では、不正請求を見抜いたり、リスク分析の場面で使っています。
保険金の不正請求は、手口が巧妙になるほど見抜きにくくなります。Mind FoundryのAIは、過去の膨大な請求データを学び、怪しいパターンを自動で探し出します。人間では気づけない小さな違いも、AIなら見逃しません。
2024年からは生成AIも入れました。やり取りの場面で次のように役立っています。
- お客様からの質問に自動で答える
- 契約の内容を分かりやすく説明する文章を作る
- 複雑な保険用語を簡単な言葉に言い換える
新しい技術が出れば積極的に試す姿勢が強みです。
乗り越えた2つの壁

AI導入は順調に見えましたが、実は2つの大きな壁がありました。技術の問題と、人や組織の問題です。
どんなに良い技術でも、現場が使ってくれなければ意味がありません。
AIの精度と信頼性をどう保つか
最初は、画像認識AIが損害額を間違えたり、RPAが思わぬ動きをしたりしました。特に、AIの判断理由が分からないことです。なぜこの金額なのかを説明できなければ、お客様は納得してくれません。
そのため、AIの判断を必ず人がチェックする仕組みを作りました。Tractableの画像認識なら、AIが出した金額を経験豊かな担当者が確認し、おかしい結果が出れば、すぐに人が直せます。
AIの精度を高めるための取り組み
- 日本の建物や道路の写真データを追加で学ばせる
- 定期的に結果を確かめ、間違いの傾向を調べる
- お客様向けに、AIがどう判断したかを分かりやすく示す
倫理面にも気を配りました。個人情報の扱いや、AIが不公平な判断をしないよう、専門チームが監視しています。技術を使いこなすには、危険を知り、手を打つことが大切です。
現場の不安とスキル不足
もう一つの大きな壁が、現場の反発でした。AIに仕事を取られるのではという不安や、長年のやり方を変えたくないという気持ちです。特にベテラン社員からは「AIなんて信用できない」という声も出ました。
社員の不安に真正面から向き合い、経営層が「AIは敵じゃない、味方だ」と繰り返し伝えます。AIが面倒な作業を引き受ければ、社員はもっと大切な仕事に集中できると説明し続けました。
導入の進め方にも工夫し、いきなり全社で始めず、興味を持った社員から少しずつ広げたのです。AIを使ったら楽になったと実感した社員が、周りに良さを伝えることで組織全体に広がりました。
スキル不足への対応も丁寧で、ツールの使い方を学ぶ研修を何度も開き、質問窓口も用意しました。この姿勢が社員の安心につながったのです。
成功を導いた3つのステップ
あいおいニッセイ同和損保の成功には、3つのステップがありました。会社全体の方向を決め、小さく始めて確実に成果を出し、外部の力を借りて加速させます。この段階的な進め方が、DXの成功につながりました。
| ステップ | 取り組み内容 | 効果 |
|---|---|---|
| Step1:ビジョン策定 | 「CSV×DX」を掲げ、会社の利益だけでなく社会全体に価値を生み出すという方向性を明確化 | 経営層が繰り返しメッセージを出し、社員全員が同じ方向を向いた |
| Step2:スモールスタート | 一部の部署で試験導入し、うまくいったら次へ広げる方式を採用 | 失敗しても傷は浅く、小さな成功の積み重ねが組織全体の自信につながった |
| Step3:外部連携 | UiPath、Tractable、Mind Foundryなど各分野の専門企業とパートナーシップを構築 | 定期的な情報交換により、常に最先端の技術を使い続けられる体制を確立 |
AI導入で得られた大きな成果

AI導入の効果は、数字で見える成果と、数字にできない成果の両方に表れました。具体的な数字と現場の声から、AI導入がもたらした価値を確認できます。
年間42万時間創出と災害対応40%削減
最も大きな成果は、年間42万時間の創出です。これは社員一人あたり年間約200時間、約1ヶ月分の仕事に当たります。RPAとAI-OCRで自動化したことで、データ入力や書類処理の時間が大きく減りました。
災害対応も大きく変わりました。Tractableの画像認識AIを使えば、従来は数日かかっていた損害の査定が数時間で終わります。2019年の台風被害では、災害対応にかかる手間が40%も減りました。
主な成果
| 項目 | 従来 | AI導入後 | 削減率 |
|---|---|---|---|
| 年間業務時間 | 70万時間 | 28万時間 | 60%削減 |
| 災害対応工数 | 100% | 60% | 40%削減 |
| 損害査定時間(1件) | 2〜3日 | 数時間 | 約80%削減 |
| データ入力ミス | 月100件 | 月10件 | 90%削減 |
この時間を使い、社員はより価値の高い業務に集中できるようになりました。ただの効率化ではなく、会社全体の働き方が変わったのです。
お客様と社員の満足度向上
数字にできない成果もあり、お客様からの評価が目に見えて上がりました。特に災害時の対応が速くなったことで、「困っているときにすぐ助けてもらえた」という感謝の声が増えました。
また社員の変化も大きく、面倒な作業から解放され、もっと創造的な仕事に時間を使えるようになりました。
社員アンケートの結果
| 項目 | 導入前 | 導入後 | 向上幅 |
|---|---|---|---|
| 仕事にやりがいを感じる | 65% | 82% | +17% |
| 会社の方向性に共感できる | 58% | 76% | +18% |
| 働きやすい環境だと思う | 62% | 79% | +17% |
AIはただの効率化ツールではありません。社員が本来やるべき仕事に集中できる環境を作り、この流れが会社全体の成長につながっています。
これから目指すAI活用の未来

AI導入で大きな成果を出したあいおいニッセイ同和損保が、次に目指すのは、生成AIで一人ひとりに合わせたサービスを作ることです。そして、事故や災害を事前に防ぐ新しい保険です。
一人ひとりに合わせたサービスへ
次に力を入れるのが、生成AIを使った個別対応です。お客様一人ひとりに合わせて、最適な保険プランを提案したり、分かりやすい説明を自動で作ったりします。
例えば、若い世帯と高齢者では必要な保障が違います。生成AIなら、年齢や家族構成を分析し、その人に本当に必要な保険を提案できます。難しい契約内容も、AIが簡単な言葉で説明してくれるのです。
生成AI活用の具体例
- お客様ごとに最適な保険プランを自動提案
- 契約書を分かりやすい言葉に言い換え
- 24時間対応できるAIチャットボット
- よくある質問を予測して先回り対応
これまでは同じだったサービスが、一人ひとりに寄り添ったものへ変わっていきます。お客様には「自分のために考えてくれている」という安心感が生まれます。
事故を防ぐ新しい保険へ
もう一つの大きな展望が、保険の役割を変えることです。これまでの保険は事故が起きてから補償するものでしたが、事故を事前に防ぐサービスへ広げようとしています。
例えば、車のセンサーから運転データを集め、AIが危険な運転パターンを見つけます。急ブレーキが多い、夜の運転が多いといった情報から、事故のリスクが高いドライバーに注意を促すのです。
災害対策も同じで、気象データをAIが分析し、「今週は大雨の可能性が高いので、早めに避難の準備を」といった情報を届けます。
予防・災害サービスの例
| サービス | 内容 | 期待される効果 |
|---|---|---|
| 運転診断サービス | AIが運転データを分析し、危険な運転パターンを通知 | 事故率20%削減を目指す |
| 災害予測アラート | 気象データから災害リスクを予測し、事前に警告 | 被害額30%削減を目標 |
| 健康管理サポート | 生活習慣データから病気のリスクを予測し、改善提案 | 医療費削減と健康寿命延伸 |
保険会社の仕事が事故後の対応から、事故を防ぐパートナーへ変わることで、お客様の安全で豊かな暮らしを積極的に支える存在になろうとしています。
まとめ
あいおいニッセイ同和損保のAI導入から学べるポイントをまとめます。
5つの成功の鍵
- はっきりした目標を持つ
- 小さく始める
- 外の力を借りる
- 人を大事にする
- 数字で示す
あいおいニッセイ同和損保の成功は、最新技術を入れたからではありません。はっきりした目標のもと、段階を踏んで進め、人を大切にしながら変えていった結果です。
AI導入は手段で、目的はお客様により良いサービスを届ける、社員がより働きやすい環境を作ることでした。
この事例から、DXの本質は技術ではなく、人と組織を変えることです。現場の声を聞き、成功を積み重ねる先に、大きな変化が待っています。


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