Microsoftは、2025年11月に企業が生成AIアプリケーションやエージェントを大規模かつ安全に構築・運用、ガバナンスするための基盤としてMicrosoft Foundryの最新アップデートを発表しました。
このアップデートでは、特にAIエージェントの能力向上や、エンタープライズデータとの統合、そして包括的なガバナンス機能に焦点が当てられており、従来までのFoundryをまさに企業AI開発の「工場」へと進化させています。
その特徴などについて紹介していきます。
Microsoft Foundryとは?

引用画像:https://azure.microsoft.com/ja-jp/products/ai-foundry
Microsoft Foundry(従来のAzure AI Studioを含む)は、企業が生成AIアプリケーションやAIエージェントを大規模かつ安全に構築・運用、ガバナンスするための統合開発・運用基盤(プラットフォーム)のことを指します。
これは、単なる開発ツールセットではなく、AIモデルの選択からデプロイ、責任あるAI(Responsible AI)の実践、セキュリティ統合に至るまで、AI開発のライフサイクル全体を一元管理できるエンタープライズAIの「工場」として設計されています。
Microsoft Foundryの主要な役割と機能
Microsoft Foundryは、AIソリューションの迅速な開発と安全な本番運用を両立させるため、以下の機能領域を提供しています。
①モデルの選択と管理(Foundry Models)
- 広範なモデルカタログ
Microsoftが提供するAzure OpenAI Serviceのモデル(GPT-4、GPT-3.5など)に加え、Mistral、Meta、Cohereなどのサードパーティ製モデル、およびオープンソースモデルを含む、多種多様な基盤モデルにアクセスできます。
- モデルルーター
タスクやリクエストの内容に基づいて、最もコスト効率が高く、パフォーマンスの高い最適なモデルをインテリジェントに選択し、自動的にルーティングする機能を提供します。
- モデルデプロイ
選択したモデルを、Azureのマネージドコンピュート上に簡単にデプロイし、スケーラブルなAPIエンドポイントとして公開できます。
②AIエージェントの開発と運用(Foundry Agent Service)
- エージェント構築
複数のLLM(大規模言語モデル)、外部ツール、カスタムコードを組み合わせて、複雑な業務フローを自動化するインテリジェントなAIエージェントを設計・構築できます。
- RAG(検索拡張生成)の強化
企業データや外部情報源をエージェントに組み込み(グラウンディング)、ハルシネーション(嘘の生成)を防ぎ、正確で文脈に基づいた応答を生成させるための高度な機能(Foundry IQなど)を提供します。
- ツール連携
既存のビジネスロジックやAPI(例:Microsoft Copilot Platform (MCP) ツール)をエージェントに組み込むことで、エージェントが実際のアクション(例:メール送信、データベース更新など)を実行できるようにします。
③セキュリティとガバナンス(Foundry Control Plane)
- 一元管理
モデル、エージェント、デプロイメントなどのすべてのAI資産を一元的に監視し、管理します。
- エンタープライズ・セキュリティとの統合
- ID管理
Microsoft Entra IDと統合され、ユーザーおよびサービスへのアクセス制御を厳密に行います。
- データ保護
Purviewなどの機能と連携し、機密データ(PIIなど)の検出と保護をサポートします。
- セキュリティ監視
Microsoft Defenderと統合され、AIワークロードのランタイムセキュリティと脅威検出を強化します。
- 責任あるAIとガードレール
プロンプトインジェクション対策や、有害なコンテンツのフィルタリングなど、構成可能なセーフティガードをモデルの入出力に適用し、責任あるAIの実践を強制します。
Microsoft FoundryのAI統合強化アップデートの概要

引用画像:https://azure.microsoft.com/en-us/blog/microsoft-foundry-scale-innovation-on-a-modular-interoperable-and-secure-agent-stack/
今回のMicrosoft Foundryのアップデートでは、Azure AI Foundryとして、AIモデルの構築、デプロイ、ガバナンスをシームレスに行うための相互運用可能なプラットフォームの強化が図られています。
この強化は、PoC(概念実証)から本番運用、そして定着までのリードタイムを大幅に短縮し、組織全体のセキュリティとガバナンスを確保しながら、開発者が迅速かつスマートにAIアプリケーションを構築できる環境を提供することを目的としています。
主要なAI統合強化のポイントは以下となります。
Microsoft Foundryのアップデート項目一覧
| 項目 | 主な強化ポイント |
| リソース構造 | ワークロード、アクセス管理、データ分離をユースケースごとに集約し、管理を大幅に簡素化 |
| AIエージェント | エージェント機能の一般提供。堅牢なバージョン管理、セキュリティ、スケーラビリティを確保 |
| RAG/知識基盤 | RAGを動的な「推論プロセス」として再構築。クロスソースグラウンディング、反復的取得を簡素化 |
| オーケストレーション | 協調的なエージェントの構築をサポートし、複雑なビジネスプロセスの自動化 |
| ガバナンス/統制 | セキュリティ、コスト、パフォーマンス、安全性を一元的に監視・管理する機能の提供 |
| モデル選択肢 | Anthropic Claude、Cohere、NVIDIAなど、最先端のフロンティアモデルからの選択肢が大幅に増加 |
| 開発・運用効率 | ロード時間の短縮、効率的なデバッグ、Observability (OTelトレースなど) の組み込み |
| メモリ機能 | エージェントがインタラクション間でコンテキスト(会話履歴など)を保持し、より自然でパーソナライズされた体験の実現 |
| デプロイ先 | 開発したエージェントのMicrosoftの生産性ツールへ直接統合・展開 |
統合された相互運用可能なAIプラットフォーム
Microsoft Foundryは、開発者がAIモデルとアプリケーションを迅速に構築できるよう必要なツールやサービス、リソースを統合しています。
- 参照アーキテクチャの確立
プロンプト設計、フロー構築、評価の仕組み、RAG(Retrieval-Augmented Generation:文書検索型AI)、そしてセキュリティ・ガバナンスを一体化した参照アーキテクチャが確立されました。
これにより、AIシステムの設計とデプロイの標準化が促進されます。
- ガバナンスとセキュリティ
組織全体でのセキュリティとAIガバナンスを単一の統合ポータルで実現します。
これは、特に金融や医療などの規制の厳しい業界において、AIの信頼性とコンプライアンスを保つ上で重要です。
Foundry IQの導入とRAGの再定義
Foundry IQは、今回のアップデートにおける最も注目すべき新機能の一つで、RAGワークフローを「動的推論(Dynamic Reasoning)」として再定義し、エージェント向けに最適化された「統合ナレッジレイヤー」を提供します。
- RAGワークフローの簡素化と統合
Foundry IQは、Azure AI Searchを基盤とし、RAGワークフローを単一のGrounding APIに統合します。
これにより、複雑なオーケストレーションが大幅に簡素化され、開発者が応答品質の向上に集中できるようになります。
- 応答品質の向上
ユーザー権限やデータ分類を尊重しながら、AIの応答に適切なコンテキスト(根拠情報)を組み込む能力が強化されます。
- スコアリング関数の集計(プレビュー)
複数のスコアリング関数を組み合わせ、集約する新しい機能により、関連性のカスタマイズと重み付けされたシグナルの組み合わせが可能になり、より洗練された検索と推論が可能になります。
SQL Server 2025との連携強化
最新のSQL Server 2025では、データベースエンジンにAIがネイティブに統合されました。
これはFoundryのエコシステム全体を強化するものです。
- データベースへのAI統合
データベースエンジン内でセマンティックサーチや自然言語での対話が可能となりました。
- シームレスなモデル管理
操作言語であるTransact-SQL (T-SQL)にAIモデル管理機能が組み込まれ、オンプレミスやクラウドにデプロイされたMicrosoft Foundry、Azure OpenAI Service、OpenAIなどのモデルとシームレスな統合と簡単な切り替えが可能になりました。
これにより、データとAIの連携が飛躍的に向上します。
AI品質保証の強化
AIシステムの品質と信頼性を確保するための仕組みも強化されています。
- 言語モデルを評価者として導入
今後のアップデートでは、AI品質保証を強化するために、言語モデルを評価者(Evaluator)として導入することが目指されています。
このアプローチにより、AIシステムは人間の判断基準に沿った標準に基づいて、自身の出力(例えば、ソフトバンクの事例におけるコールセンター応答)を評価し、改良することが可能になります。
Microsoft FoundryのAI統合強化によって期待される効果

AIエージェントの価値と信頼性の最大化
Foundry IQの導入は、エージェントが提供する情報の信頼性と行動の正確性を劇的に高めます。
- ハルシネーション(誤情報生成)の低減
Foundry IQは、企業が保有する複数のデータソースから、セキュリティと権限を尊重しつつ、リアルタイムに情報を引き出し(グラウンディング)、エージェントの応答を裏付けます。
これにより、LLMが「嘘」をつくリスクが最小化され、エージェントが生成する回答の信頼性が向上します。
- アクション能力の拡大と業務自動化の深化
Foundry Agent Serviceの強化により、既存のAPIやビジネスロジックをMCPツールとしてエージェントに組み込むことが容易になりました。
これにより、エージェントは単なる情報提供者ではなく、発注処理、データ更新、チケット発行といった実際の業務アクションを自動で実行できるようになり、業務自動化の範囲と深さが拡大します。
エンタープライズレベルのセキュリティとガバナンスの確保
大規模なAI展開において最も重要な懸念事項であるセキュリティとコンプライアンスも、Foundry Control Planeが解決します。
- 統一されたセキュリティ態勢
Entra IDによる厳密なID管理、Purviewとの連携によるPII(個人情報)の自動検出と保護、そしてDefenderによるランタイムセキュリティ監視が統合されます。
これにより、AI資産全体で一貫したセキュリティポリシーを適用でき、データ漏洩や不正アクセスのリスクを低減します。
- 責任あるAIの実践強制
構成可能なガードレールにより、プロンプトインジェクションや有害コンテンツのフィルタリングをモデルの入出力に適用し、コンプライアンス遵守を保証します。
この集中管理機能により、数十、数百のエージェントを展開しても、セキュリティ管理の複雑性が増すことなく、企業倫理に沿った運用が可能になります。
開発効率とコスト効率の飛躍的向上
開発者エクスペリエンスの向上とモデルの最適化により、AI開発と運用にかかる時間とコストを削減します。
- 開発の迅速化
VS Code拡張機能の強化や、コード不要のビジュアル開発ツールにより、開発者はエージェントの構築とデバッグに集中でき、市場投入までの時間を短縮します。
- 運用コストの最適化
モデルルーターの一般提供(GA)により、タスクに応じて最適な性能と価格のモデルが自動で選択されるため、コード変更なしで応答時間を最大40%高速化し、コストを最大50%削減できる見込みです。
- エッジでの活用推進
Foundry Local(Android含む)により、インターネット接続が不安定な環境や、低遅延が求められる業務、高度なプライバシー保護が必要な場面でもAI機能を展開できるようになり、AI活用の幅が地理的・技術的に拡大します。
まとめ

Microsoft Foundryのこれらのアップデートは、単なる機能追加に留まらず、AIエージェントを企業のコアなビジネスシステムとして機能させるための包括的でセキュアかつ高性能なプラットフォームを提供するというMicrosoftのコミットメントを示しています。
特に、Foundry IQによる文脈理解の深化やFoundry Agent Serviceによるアクション能力の拡大、そしてFoundry Control Planeによるエンタープライズレベルのガバナンスの確立は、企業がAIを「PoC(概念実証)」から「生産規模のビジネス価値」へ導くものとしても期待されています。


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