「職員が減っているのに、住民対応の質は落とせない。新しいシステムを入れても使われない」多くの自治体が、こうした悩みを抱えています。群馬県館林市は、国産AI「QommonsAI」でこの課題を解決しました。導入からわずか3ヶ月で、文書作成の時間を66.7%削減し、年間2,300万円のコストを削減しています。
職員の85%が満足と答え、基本的な使い方の問い合わせがゼロでした。この記事では、館林市がどのように段階を踏んでAIを導入し、組織全体で使える仕組みを作ったのかを解説します。
人口減少と予算不足で迫られた改革
館林市が直面していたのは、人口減少と財政難という二重の課題でした。既存のAIツールは十分に活用されておらず、業務の効率化が急務でした。
2060年に人口4割減という深刻な課題
館林市の人口は2005年をピークに減り続けています。2060年には今より40%減ると予測され、深刻な課題に直面しているのです。人口が減れば税収も減り、高齢化で社会保障費は増え続けます。さらに働く世代も減るため、この3つが同時に押し寄せる厳しい状況です。
年少人口は15.2%減・生産年齢人口は12.8%減です。約700人の職員が年間数万件の住民対応をこなす中、今後さらに職員を増やすのは難しいでしょう。限られた人員で質の高いサービスを続けるには、業務のやり方を変える必要がありました。館林市にとってAI導入は、効率化だけではなく、将来も行政サービスを維持し続けるための必要な選択だったのです。
既存AIの利用率低迷と使いにくさ
館林市は2024年4月に生成AI研究会を立ち上げました。志願した職員10名が集まり、複数のAIサービスを試しに使い始めたのです。しかし結果は期待外れでした。
- 月間の利用は20万文字以下
- 「使い方がわからない」と答える職員が67%
問題は使いにくさだけではありません。多くのAIには文字数制限があり、長い文書を作る際は何度も分ける必要がありました。また、どんな業務に使えるのか、個人情報をどう扱えばいいのかといった運用ルールが分かりづらく、職員は迷っていました。
行政に特化した国産AI「QommonsAI」の3つの強み

館林市が4ヶ月の比較検証で選んだのが、国産AI「QommonsAI」でした。
選ばれた理由は下記3です。
GPT-4を超える日本語処理能力
QommonsAIの中心となるのが、2025年4月に搭載された国産の大規模言語モデル「PLaMo Prime」です。このモデルは数千億規模のパラメータを持ち、2兆トークンを学習しています。トークンとは、AIが文章を理解するための単位で、日本語では約1文字が1トークンです。特に注目なのは、そのうち0.7兆トークンが日本語データという点でした。
PLaMo Primeの主な特徴
- 特定の評価テストでGPT-4を上回る性能
- 一度に処理できる文字数は約1万字(従来の4倍)
- 長い議事録や計画書も分けずに一度で読み込める
- 純国産開発で知的財産権を完全に確保
館林市の職員にとって、日本語の細かいニュアンスも正確に理解できるAIは、実務で頼れる存在です。
全国1,000自治体の情報を集めたデータベース
QommonsAIのもう一つの強みは、全国約1,000自治体の行政文書をデータベース化していることです。推定100億トークン規模のデータには、議会議事録・計画書・方針文書などが含まれ、導入初日から使えます。
行政文書データベースの特徴
- 全国自治体の98%をカバー予定
- 独自技術で高精度な情報抽出を実現
- 最新情報を自動更新
- 他の自治体の事例や対応方法をすぐに検索可能
過去の議事録を検索する際、全国の自治体の議事録から関連する議論や答弁をすぐに見つけられ、他の自治体の情報や経験を活かせます。これは1つの自治体では実現できない、QommonsAI独自の強みです。
情報を守る国内完結型のセキュリティ
自治体がAIを導入する際に最も懸念するのは、個人情報や機密情報の漏洩リスクです。
QommonsAIはその不安に応える強固なセキュリティ基盤を構築しています。
公開文書と非公開文書を分離し、個人情報を含むデータは東京の国内データセンターで処理、海外には送信されません。
通信は最新のTLS 1.3で暗号化され、役職ごとの閲覧制限によって情報管理を徹底しています。
館林市がQommonsAIを採用した理由も、この高い安全性と信頼性にありました。
段階的に進めた組織全体への導入
館林市のAI導入が成功した最大の理由は、段階を踏んだアプローチにあります。いきなり全職員に導入せず、まず少人数で試し研修を行い、組織全体へと広げました。
この3段階のプロセスが、高い満足度と利用率につながっています。
職員主導の4ヶ月間の比較検証
館林市は志願制の生成AI研究会を立ち上げました。集まったのは、AIに興味を持つ職員10名です。この研究会の役割は、複数のAIサービスを実際に使い比べ、館林市に最適なツールを見極めることでした。
4ヶ月間の検証では、使いやすさ・精度・コスト・セキュリティという4つの項目を評価し、特に重視したのが、4つの項目の内、実務での使いやすさと職員の意見です。カタログの情報だけでなく、実際に業務で使ってみてどうかを確かめました。
その結果、QommonsAIが最も優れていると評価されました。文字数制限がなく、行政業務に特化した機能が揃っていたからです。現場の職員が主導したからこそ、本当に使えるツールを選べました。
実務に基づく導入研修
比較検証が終わり、QommonsAIが選ばれた後、2024年8月30日に導入研修が実施されました。対象は研究チームのメンバーで、実践的な内容で構成されました。
研修プログラムの構成(合計2時間)
- プロンプト入力の基礎(30分)
- 実務課題を使った演習(60分)
- 質疑応答(30分)
特に重視されたのが、60分の演習です。「住民向けのお知らせ文を作る」「会議の議事録を要約する」といった実際の業務を題材にしたため、学んだことをすぐに仕事で使えました。
さらに重要なのが、この研修はPolimill社が無料で提供しており、何度でも実施できます。館林市はこの仕組みを活用し、その後も月1回の研修を続けました。実践的な内容と継続的な学びの機会が、職員のスキル向上につながりました。
協定による全庁での利用体制づくり
研修を終えた研究チームの成果を受け、2024年11月1日に館林市とPolimill社は包括連携協定を結びました。これは群馬県内で初めての自治体とAI企業の連携です。
協定の主な内容
- 職員の能力向上支援
- 継続的な研修プログラムの提供
- 新機能の共同開発
包括連携協定により、全職員約700名に1,000アカウントが無料で配られました。利用アカウント数は当初の20から一気に50倍に増えたのです。さらに部署別の相談会も行われ、職員がいつでも質問できる環境が整いました。
重要なのは、単にツールを配るだけでなく、組織全体でAIを使う文化を育てる仕組みを作ったことです。上から押し付けるのではなく、職員が自ら学び、使いこなせるよう支える体制が、高い利用率と満足度につながりました。
導入3ヶ月で見えた業務効率化と成果
QommonsAI導入からわずか3ヶ月で、館林市には目に見える成果が現れました。文書作成時間の大幅な削減・年間2,300万円のコスト削減・職員満足度85%という高い評価です。
数字だけでなく、実際の業務でどう役立ったのか、具体的な事例を見ていきましょう。
文書作成66.7%削減で年間2,300万円の削減
QommonsAI導入による最も大きな成果は、文書作成時間の短縮です。従来60分かかっていた文書作成が20分で完了するようになり、削減率は66.7%になります。また、議事録検索も30分から5分へと83.3%削減されました。
この効率化を年間のコスト削減に換算すると、約2,300万円です。職員の人件費を時給換算し、削減された時間に基づいて計算されています。
年間コスト削減の内訳
- 文書作成の効率化 約1,200万円
- 検索時間の短縮 約800万円
- 研修コストの削減 約300万円
さらに重要なのが、利用量の変化です。既存のAIでは月20万文字以下だった利用が、QommonsAIは文字数制限なしで職員は文字数を気にせず、必要なだけAIを使えるようになりました。最大の効果を生み出した、費用対効果の高い投資と言えます。
式典準備が8時間から2時間に短縮
数字だけでなく、実際の業務でどう役立ったのかが分かる事例があります。ある職員が式典準備にQommonsAIを使ったところ、従来8時間かかっていた作業が2時間で終わりました。75%の時間短縮になったのです。
職員はタイムスケジュール作成とアイデア出しにAIを使い、式典の流れを入力すると、AIが適切な時間配分を提案してくれます。さらに、式典を盛り上げるアイデアも複数出してくれました。AIの提案をもとに調整した結果、式典は大成功したのです。
議会対応でも効果が出ています。過去の議事録をすぐに検索でき、議員の発言傾向も分析できるようになりました。住民対応では、問い合わせへの回答が速くなり、対応の質も同じレベルに保てるようになりました。ベテラン職員の知識をAIが補うことで、経験の浅い職員でも質の高い対応ができるようになったのです。
満足度85%を実現した使いやすさと支援
QommonsAIの導入で注目すべきは、職員満足度85%という高い評価と、基本操作に関する問い合わせがゼロだったことです。これは、システムの使いやすさを物語っています。
実際に使った職員からは「他の生成AIと比べて使いやすさは一目瞭然」という声が上がっています。複雑な設定や専門知識がなくても、すぐに使い始められる操作性が評価されました。利用アカウント数は当初の20から1,000へと50倍に増え、定例研修の参加率も年2回から月1回へと6倍に増えました。
この高い満足度を支えているのが、充実した支援体制です。月1回の定例研修に加え、部署別の相談会も開かれています。職員がいつでも質問でき、困ったときにすぐサポートを受けられる環境が整っています。使いやすいツールと手厚い支援の両方が揃ったことが、成功の鍵です。
成功を支えた課題への対応
QommonsAIの導入は順調に進みましたが、課題がなかったわけではありません。生成内容の品質管理やベテラン職員の抵抗感など、多くの自治体が直面する問題に、館林市も向き合いました。
しかし、事前に課題を把握し、具体的な対策を実践したことで、これらの壁を乗り越えたのです。
生成内容の品質を守る二次確認体制
AIが作った内容をそのまま使うのは危険です。館林市は、生成内容は必ず人が二次確認する体制を作り、エラー率は0.1%以下に保たれています。
特に重要な文書は、さらに厳しくチェックします。議会答弁や公式文書など、ミスが許されない内容は複数人で確認する体制を整えました。例えば、AIが作った議会答弁の原案を、担当職員がまず確認し、次に上司が内容をチェックし、最後に部長が最終承認するという三段階の確認体制を取っています。
この仕組みにより、効率化と品質保証の両立を実現しました。AIで時間を短縮しながらも、行政文書として求められる正確性と信頼性を守る仕組みができました。職員は安心してAIを使えるようになり、利用率の向上にもつながっています。
世代を超えた利用を実現した同伴型導入
AI導入で大きな課題となったのが、ベテラン職員からの抵抗感です。長年の経験で培った業務のやり方を変えることへの不安や、新しい技術への苦手意識が壁となっていました。
館林市はこの課題に対し、同伴型導入という方法を取りました。若手とベテラン職員をペアにして、一緒に学び、一緒に使う仕組みです。若手は技術面でサポートし、ベテランは業務知識を共有することで、世代間の壁を越えられました。
さらに、成功事例を積極的に共有しました。「こんな業務が楽になった」「こんな使い方が便利だった」という小さな成功体験を組織全体で共有することで、抵抗感が薄れていったのです。マニュアルの整備と良い使い方の共有も進め、業務の標準化率は90%を実現しました。全年代層の利用率が80%に達し、世代を超えてAIを活用したのです。
全国展開を見据えた今後のビジョン
館林市のQommonsAI導入は、単なる業務の効率化にとどまりません。AIを超ベテラン職員として、組織の知識を受け継ぐ仕組み作りの構想があります。
さらに、全国の自治体が情報を共有し、互いに支え合う仕組みの構築も視野に入れています。
AIで組織の知識を受け継ぐ構想
ベテラン職員が持つ業務ノウハウやマニュアルをAIに学習させることで、組織の知識を確実に受け継ぐ仕組み作りを考えました。
この仕組みが実現すれば、新人職員や異動してきた職員がすぐに必要な情報を得られるようになります。従来は先輩職員に聞いたり、分厚いマニュアルを読んだりして数ヶ月かかっていた習得期間を、大幅に短縮できるのです。例えば、「住民税の減免申請の手続き方法」を知りたいとき、AIに質問すれば、過去の事例や注意点を含めた詳しい回答がすぐに得られます。
この構想により、職員は決まった業務から解放され、より創造的な仕事に集中できるようになります。住民との対話や新しい施策の企画など、人にしかできない仕事に時間を使えるのです。組織の知識を守りながら、職員の能力を最大限に活かす仕組みが実現しようとしています。
自治体間で情報を共有する仕組みづくり
館林市の取り組みは、2026年以降、全国の自治体が情報を共有する仕組みへ発展する可能性があります。課題を抱える自治体が支援を求めれば、全国のQommonsAIユーザーの自治体が持つ知識を活用できるのです。
現在、QommonsAIを導入している自治体は400以上あり、2028年には700〜800の自治体へ導入を目指しています。多くの自治体が参加すれば、全国の情報が集まった強力なネットワークができ、課題解決の成功事例を全国の自治体から瞬時に検索できるのです。
この仕組みは、特に小規模な自治体にとって大きな助けになります。限られた人員と予算の中で、他の自治体の成功事例を参考にしながら効率的に施策を進められるからです。全国の自治体が互いに支え合い、学び合う新しい行政運営のモデルが、館林市の成功から始まろうとしています。
まとめ
館林市のQommonsAI導入事例から学べる重要なポイントをまとめます。
5つの重要ポイント
- 人口減少と財政難という課題に、段階的なアプローチで成功
- 文書作成時間66.7%削減、年間2,300万円削減という効果
- 職員満足度85%、基本操作の問い合わせゼロという高い成果
- 無料枠1,000アカウント、無制限利用、継続サポートという充実した支援
- 全国の自治体へ展開する可能性が高く、日本の行政DX推進の手本となる事例
館林市の成功は、AI導入を考えるすべての自治体にとって、実践的な手本です。いきなり大きく始めるのではなく・小さく試して段階的に広げること・現場の職員を巻き込むこと・継続的な支援体制を整えることが成功の鍵になります。
館林市は、確実に成果を出せることを証明しました。


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