ヤマトホールディングス 配送需要予測AI×自動仕分け最適化の全貌

配送効率30%アップ、走行距離25%減少、営業利益率3%から5.4%へ。ヤマト運輸がAI導入で実現した数字が、ドライバー不足に悩む物流業界の注目を集めています。

2020年7月から少しずつAI需要予測と自動仕分けを導入し、着実に成果を出してきました。全国3,500拠点で3ヶ月先の荷物量を高い精度で予測し、1時間に4,800個もの荷物を自動で仕分ける仕組みを作りました。

導入前の課題から技術の中身や段階的な進め方、そして利益率を大きく改善できた理由まで、経営層への説明や自社での導入判断に役立つ情報をまとめています。

目次

ヤマト運輸が抱えていた深刻な問題

ヤマト運輸がAI導入に踏み切った理由は、物流業界が抱える問題でした。2024年問題による残業時間の制限、ドライバー不足、さらに手作業による仕分けの限界です。

年間22.8億個もの荷物を扱う同社にとって、このままでは全国6,500拠点での配送が回らなくなります。お客様に満足してもらえるサービスを続けるには、配送の仕組みを根本から変える必要がありました。

2024年問題とドライバー不足 年間22.8億個を運べなくなる危機

2024年4月、トラックドライバーの残業時間が月45時間までに制限されました。それまで月80時間以上働くこともある業界にとって大きな変化です。ヤマト運輸も全国約6,500の拠点で、働き方を根本から見直す必要がありました。

もう一つの問題はドライバー不足です。国の調査では業界全体で約20%が足りておらず、高齢化で10年後はさらに減る見込みです。年間22.8億個もの荷物を扱うヤマト運輸ですが、人を増やすにも限界があります。

また、配送計画は各ドライバーの判断に任されていました。同じルートでもある人は2時間で終わり、別の人は3時間かかるといった無駄が積み重なり、残業が増えていきました。

手作業での仕分けが限界に ミスと人手不足の悪循環

配送の現場には、もう一つの問題がありました。届いた荷物を一つひとつ手で確認し、配送先ごとに分ける荷物の仕分け作業です。1日に何千個も扱う拠点では、朝から晩まで動き続けます。

似た住所を見間違えたり、荷物を違う場所に置いたり、手作業だとミスも起きやすくなります。一つのミスで誤配送が起き、お客様からクレームが来たり、再配達になればドライバーの負担も増えてしまいます。

仕分け作業をする人の確保も難しくなっていました。体力がいる仕事で、高齢者には厳しく、若い人も集まりません。繁忙期には人手が足りず、社員が残業で対応する日々でした。

ヤマト運輸が選んだ2つの技術 AI需要予測と自動仕分けの仕組み

ヤマト運輸が選んだのは、AIによる配送量予測とRFID技術による自動仕分けです。この2つを組み合わせて、配送計画と仕分け作業の両方を効率化しました。

大事なのは、一気に導入せず、少しずつ進めながら効果を確かめていった点です。

AIで3ヶ月先の荷物量を予測 誤差数%の高精度を支える技術

引用元:Amazon AWS

ヤマト運輸が最初に取り組んだのが、AI需要予測システムです。全国約3,500の拠点で、3ヶ月先までの荷物量を誤差数%という高い精度で予測します。年間22.8億個もの荷物を扱う同社にとって、この正確さが配送計画を大きく変えました。

このシステムは、AI技術に強いエクサウィザーズ社と協力し、ヤマト運輸の物流ノウハウとエクサウィザーズ社のAI技術を組み合わせた形です。ヤマト運輸が持つ膨大な配送データを、エクサウィザーズ社の機械学習技術で分析します。

技術の中心にあるのが、MLOps(エムエルオプス)という仕組みです。AIモデルを作って運用するまでを自動化する技術で、Microsoft Azureというクラウド上のYamato Digital Platformで管理しています。クラウドを使うことで、全国3,500拠点のデータを一箇所に集め、リアルタイムで分析できるようになりました。

技術要素内容提供元・役割効果
MLOps環境AIモデルの作成から運用までを自動化エクサウィザーズ社が構築支援開発と運用の環境を統一し、安定稼働を実現
Yamato Digital PlatformMicrosoft Azure上のクラウド基盤Microsoft提供、ヤマト運輸が運用全国3,500拠点のデータを一元管理
複数データの統合分析配送実績、天気、交通渋滞、イベント情報を統合ヤマト運輸のデータ+外部データ予測精度が誤差数%まで向上
機械学習アルゴリズム過去のデータから将来のパターンを学習エクサウィザーズ社が開発3ヶ月先までの荷物量を高精度で予測

実装の流れは、過去の配送実績データをクラウドに集めます。次に、エクサウィザーズ社の機械学習モデルが、荷物量の変動パターンを学習します。さらに、天気予報や地域のイベント情報も取り込み、予測精度を高めました。

システムは一度作って終わりではなく、実際の配送結果と予測を比較し、ズレがあればAIモデルを調整する作業を月10回以上繰り返しています。

1時間に4,800個を自動仕分け RFIDとリニソートの威力

引用元:椿本チエイン公式

もう一つの技術が、RFID(アールエフアイディー)を使った自動仕分けシステム「リニソート」です。RFIDは電波で情報を読み取る技術で、荷物に付けた小さなタグから配送先を瞬時に読み取ります。バーコードと違い一つずつスキャンしなくていいので、大量の荷物を一気に処理できます。

ヤマト運輸がリニソートを選んだ理由は3つあります。

  • 省スペース設計
  • 設置の早さ
  • 移動の柔軟性

導入の決め手は、2021年の沖縄拠点での実証実験でした。仕分け能力が従来の4倍以上になることを確認でき、他の拠点へ展開する自信になったのです。

項目仕様・性能従来との比較
処理速度最大4,800個/時手作業と比べ約5〜10倍
精度ミス率1/10万〜1/100万人的ミスをほぼゼロに
設置スペース25平方メートル省スペースで既存施設に導入可能
設置期間最小ユニット約1日キャスター付きで移動も容易
実績効果沖縄拠点で仕分け能力4倍以上作業者数を50%削減

何人もの作業者が何時間もかけていた仕分けが、わずかなスペースで自動化できました。この成功を受けて、ヤマト運輸は全国の主要拠点への導入を進めています。

導入効果を数字で見る 生産性30%向上と営業利益率80%改善

AI導入の効果は、数字ではっきり見えました。これは効率化だけではなく、会社の経営そのものが変わったことを意味します。

数字だけではなく、ドライバーの働き方が楽になり、お客様の満足度も上がりました。数値化できる成果とできない価値の両方を実現したことが、ヤマト運輸の成功を際立たせています。

配送効率とコストの改善

AI導入で最も大きな成果が出たのが、配送効率の向上です。需要予測システムで配送ルートが最適化され、無駄な走行が減りました。さらに、営業利益率も大幅に改善し、会社の収益力が高まりました。

成果項目導入前導入後改善率
配送効率導入前20〜30%向上20〜30%アップ
走行距離導入前25%削減25%減
CO₂排出量導入前25%削減25%減
営業利益率約3%(2020年3月期)約5.4%(2021年3月期)80%改善
予測精度改善サイクル月1回程度月10回以上10倍高速化

特に注目すべきは、営業利益率の改善です。わずか1年で約3%から約5.4%へと向上し、コスト削減と効率化が直接利益につながりました。また、MLOpsの導入により予測精度の改善サイクルが10倍に加速したことで、常に最適な予測ができる体制が整いました。

働き方とお客様満足度の向上

数字では測れない成果も、現場には大きな変化をもたらしました。ドライバーや作業者の働き方が改善され、お客様の満足度も向上しました。

改善領域具体的な変化もたらされた価値
ドライバー不足の緩和配送ルート最適化により同じ人数で配送量増加採用難の中でも業務継続が可能に
仕分け作業の効率化作業者数50%削減人手不足の現場負担を大幅軽減
配達時間予測予測精度90〜95%達成お客様の待ち時間ストレス解消
再配達の削減正確な配達時間通知により不在率低下お客様とドライバー双方の負担軽減
残業時間の削減効率化により労働時間短縮ワークライフバランスの改善

特に働き方の変化は大きく、残業が減ったことでドライバーは家族との時間を持てるようになりました。仕分け作業者も体力的な負担が軽くなり、AIが単純作業を引き受けることで、社員は本来やるべき仕事に集中できるようになったのです。

失敗しなかった4段階の進め方 2020年から現在までの道のり

ヤマト運輸のAI導入は、各段階で効果を確かめながら慎重に進めました。

段階期間主な取り組み成果・検証内容
第1段階2020年7月~エクサウィザーズとの協業開始、Yamato Digital Platform構築、MLOps環境確立AI活用の基盤整備
第2段階2020年7月~2021年1月配送業務量予測システム導入、全国3,500拠点への段階的展開一部拠点での試験運用から全国へ拡大
第3段階2021年~リニソート本格導入、沖縄ベースでの効果検証仕分け能力4倍達成を実証
第4段階2022年~精度改善サイクル加速化、画像・動画データ分析への拡張月10回以上の改善サイクル確立

特に重要なのが、第3段階の沖縄拠点での検証です。ここで仕分け能力が4倍になることを実証できたため、他の拠点への展開に自信を持てました。

また、第4段階では4万台のドライブレコーダーから集まるデータを活用し、継続的な改善を実現しています。小さな成功を積み重ねることで、社内の理解を得ながら大きな変化を起こしていきました。

成功を支えた解決策 現場が直面した壁の乗り越え方

どんなに良い技術でも、現場が使わなければ意味がありません。ヤマト運輸も、AI導入でいくつもの壁にぶつかりました。「本当に効果が出るのか」という経営層の疑問、「仕事を奪われるのでは」という現場の不安です。

試すだけで終わらせない 小さな成功を積み重ねる方法

AI導入でよくある失敗がPoC疲れです。PoCとは技術が使えるかどうかを試すことで、多くの企業が試すだけで終わり、実際の業務に使えないまま予算と時間を使い果たしてしまいます。

ヤマト運輸はQuick Win(短期間で小さな成功を出す手法)で、この問題を避けました。最初から完璧を目指さず、短期間で小さな成果を出すことに集中したのです。第2段階では一部の拠点で配送量予測を試し、3ヶ月で効果を確認、具体的な数字を経営層に見せました。

投資も段階的に進めました。最初から大きな金額を使わず、効果が出たら次へ進む形です。営業利益率の改善を指標にし、「これだけ投資すれば、これだけ利益が増える」とROI(投資対効果)を示しました。数字で説明することで、経営層の理解を得やすくなったのです。

現場の抵抗を減らす工夫 社員を味方につける進め方

技術より難しいのが、人の問題です。「仕事がなくなるのでは」「長年のやり方を変えたくない」という抵抗が現場から出てきます。特にベテラン社員ほど、経験と勘に頼ってきた自分のやり方に自信があるため、AIへの切り替えに抵抗を感じます。

ヤマト運輸は、効果を数字で示すことで対応しました。配送効率や残業時間の変化を定期的に現場へ伝え、「AIを使ったら楽になった」という実感を持ってもらったのです。

いきなり全員に使わせず、興味を持った社員から始めました。便利だと感じた社員が周りに良さを伝え、この評判が組織全体へ広がったのです。経験と勘を否定せず、「AIがサポートするから、大事な仕事に集中できる」と伝え続けたことも、現場の理解につながりました。

YAMATO NEXT100が目指す未来 営業利益率6%への挑戦

ヤマト運輸のAI活用は、これで終わりません。YAMATO NEXT100という長期戦略で、営業利益率6%という新しい目標を掲げています。この成功モデルは、物流業界を超えて広がる可能性を持っています。

データ活用をさらに広げる 2050年CO₂ゼロへの取り組み

ヤマト運輸は、データ活用の範囲をさらに広げています。全国4万台のトラックに付いたドライブレコーダーから、毎日大量の画像や動画が集まります。このデータをAIで分析し、運転の安全性や配送ルートの改善に役立てる計画です。

環境面でも大きな目標があります。2050年までに、CO₂排出量を実質ゼロにすることです。すでにAI導入で25%削減しましたが、さらに進めます。具体的な取り組みは以下のとおりです。

  • 走行距離のさらなる削減
  • 電気自動車の導入推進
  • 複数企業による配送の共同化

共同輸配送プラットフォームも注目です。SST社を通じて、他の物流会社とも協力し、オープンな物流ネットワークを作ります。トラックの空きスペースを有効に使い、無駄な配送を減らすことで、業界全体の効率化と環境への負担削減を目指しています。

他業界と海外への広がり 成功モデルの応用可能性

ヤマト運輸のAI需要予測システムは、物流以外でも使えます。需要を正確に予測したい場面は、どの業界でも同じです。

  • 製造業では部品の需要予測
  • 小売業では商品の在庫管理
  • 医療分野では医薬品の配送計画

海外展開も進めています。アジア諸国では経済成長で物流需要が急増しており、効率的な配送システムが必要です。ヤマト運輸が培ったAI需要予測とRFID自動仕分けの技術は、こうした国々の物流改善に役立ちます。

日本で成功したモデルを海外へ広げることで、世界市場での競争力も高まるのです。物流DXの成功例として、ヤマト運輸の取り組みは世界から注目されています。

まとめ

ヤマト運輸のAI導入から学べるポイントをまとめます。

記事の主要な学び:

  • 段階的な導入
  • 数字で示す
  • 技術の組み合わせ
  • 現場への配慮
  • 小さな成功の積み重ね

ヤマト運輸の成功は、最新技術を入れたからではありません。2024年問題に向き合い、少しずつ進め、人を大切にした結果です。

AI導入は手段で、目的はお客様により良いサービスを届けること、社員が働きやすくなることでした。まずは一つの業務から始めることで、あなたの会社でも大きな変化を起こせます。

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