教育現場では生徒一人ひとりの学力差への対応が長年の課題となっていますが、限られた教員数で個別指導を実現することは容易ではありません。
こうした課題に対応するため、株式会社リクルートが提供するオンライン学習サービス「スタディサプリ」は、2023年3月に独自開発のAIを活用したアダプティブラーニング機能を学校向けサービスに導入しました。生徒の学習履歴データから習熟度とつまずきポイントを判定し、最適な講義を自動推薦することで、個別最適化学習と教員負担軽減の両立を実現しています。
全国約2,322校(2024年3月時点)で導入されている学校向けスタディサプリに、AIによる個別最適化学習を実装した同社の取り組みは、教育DX推進における先進事例として注目されています。本記事では、この革新的な機能について、導入背景から技術詳細、今後の展望まで詳しく解説します。
導入前の背景・課題|教育現場が求める個別最適化学習の実現

学校向けスタディサプリは、児童生徒一人ひとりの学習習熟度に合わせた講義動画とオンライン確認テストを提供する学校教育のサポートツールとして、全国の高校・小中学校で活用されています。2022年3月末時点では全国の高校の約4割にあたる約1,947校で導入されていましたが、この時点ではAI機能は搭載されていませんでした。
2023年3月、リクルートは既存の学校向けスタディサプリに「AIアダプティブラーニング機能」を追加し、導入校でも新機能が利用可能となりました。その後も導入校は着実に増加し、2024年3月時点では2,322校に拡大しています。
アダプティブラーニング機能導入の背景
リクルートのプロダクトマネージャー(池田脩太郎氏)は、導入背景について次のようにコメントしています。
「これまでリクルートは、学校向け『スタディサプリ』の宿題配信や進捗管理、コミュニケーション機能の提供を通じて、先生方の学習の伴走・サポート、よりよい指導の実現を目指してきました。これまで先生起点で活用いただいてきた『宿題配信』、到達度テストの結果に連動した『連動課題配信』、宿題正答率に応じて自動でフォローアップの課題を配信できる『フォローアップ配信』にプラスして、生徒起点の『アダプティブ学習』が加わることで先生の負担を増やすことなく、個別最適な学習の進化を実現します。」
採用技術・導入したAIソリューション|リクルート独自開発のスタディサプリのAIシステム

こうした教育現場のニーズに応えるために開発されたのが、AI搭載型のアダプティブラーニング機能です。
この機能には、リクルートが独自開発したAIと、スタディサプリ講師陣の教科専門知識を組み込んだ分析アルゴリズムを搭載。生徒の学習履歴をリアルタイム解析し、習熟度とつまずきポイントを判定することで、個別最適な講義推薦を実現しています。
AIアダプティブラーニング機能の技術的な強み
| 従来の課題 | AIアダプティブラーニングの解決策 |
|---|---|
| 膨大な講義から自分に合うものを選べない | AIが習熟度に応じて最適な講義を自動推薦 |
| つまずきポイントが分からない | 学習履歴から弱点を詳細に分析・判定 |
| 教員の個別対応に限界がある | AI推薦と教員指導の役割分担で効率化 |
| 一律のカリキュラムでは対応困難 | 生徒ごとに異なるおすすめ講義を提示 |
スタディサプリのAIシステムの仕組み
スタディサプリのAIシステムは、以下の3つのステップで個別最適化学習を実現しています。
- 学習データの収集と分析:
先生による宿題配信や自学自習で取り組んだ過去の学習履歴データを基に、AIが生徒ごとの学習状況を分析します。 - 習熟度判定とつまずきポイントの特定:
スタディサプリ講師の教科知見を基に、独自開発したAIが生徒ごとの「習熟度」および「つまずきポイント」を判定します。単純な正誤判定にとどまらず、教育的観点からの深い分析を可能にしています。 - 個別最適化レコメンド:
生徒が次に取り組むべき最適なコンテンツは「おすすめ講義」としてスタディサプリ上に表示されます。提示される「おすすめ講義」は生徒ごとに異なり、学校内外における個別最適な学習が可能となります。
スタディサプリ/アダプティブラーニング機能のスペック
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 対象学年 | 高校1〜3年生 |
| 対応教科 | 英語・数学 |
| 導入校数 | 約1,947校(2022年3月末時点、全国高校の約4割) |
| 利用デバイス | スマートフォン(iOS/Android)、Webブラウザ |
| 提供開始 | 2023年3月10日 |
| 主な機能 | AI習熟度判定、つまずきポイント特定、おすすめ講義表示 |
導入内容・利用方法|段階的な機能提供と活用方法

提供開始と展開
2023年3月10日に学校向けスタディサプリでアダプティブ学習機能(おすすめ講義機能)の提供を開始しました。
「おすすめ講義」の表示機能は段階的に展開され、スマートフォンアプリ(iOS/Android)での閲覧も順次提供されました。
3つの利用方法
生徒は以下の方法でアダプティブラーニング機能を活用できます。
- おすすめ講義の自動表示:スタディサプリ上に表示される「おすすめ講義」から、自分の習熟度に合った最適なコンテンツを選択して学習
- 教員による課題配信との併用:従来の先生による宿題配信、連動課題配信、フォローアップ配信と組み合わせることで、教員主導の学習指導と生徒起点の個別最適化学習を両立
- 学校内外での学習:デバイスを問わず、いつでもどこでも個別最適な学習が可能
活用のポイント
アダプティブラーニング機能は、以下の特徴により効果的な学習支援を実現します。
| 活用ポイント | 詳細内容 |
|---|---|
| 生徒ごとに異なる推薦 | 同じクラスでも生徒の習熟度に応じて異なる「おすすめ講義」を提示 |
| 教員負担の軽減 | 先生起点の課題配信に生徒起点のAI推薦を追加し、負担を増やさず個別対応を実現 |
| 継続的な最適化 | 学習履歴が蓄積されることで、より精度の高い推薦が可能に |
期待される効果・導入の意義|個別最適化学習と教員負担軽減の両立

アダプティブラーニング機能の導入により、教育現場では以下のような効果が期待されています。
主要な期待効果
効果1:生徒の学習効率向上
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 実現内容 | AI判定により習熟度とつまずきポイントに合った講義選択 |
| 期待される効果 | 個別最適な学習により学習効率が向上 |
| 技術活用 | AIによる習熟度分析と最適講義の自動推薦 |
| 対象範囲 | 学校内外を問わず、生徒ごとに異なる推薦講義を提示 |
効果2:教員の業務効率化
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 実現内容 | 先生起点の課題配信と生徒起点のアダプティブ学習の併用 |
| 期待される効果 | 先生の負担を増やすことなく個別最適な学習の進化を実現 |
| 技術活用 | 宿題配信、連動課題配信、フォローアップ配信にAI推薦を追加 |
効果3:全国規模での展開
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 実現内容 | 全国約1,947校での個別最適化学習提供 |
| 期待される効果 | 多くの生徒が個別最適な学習にアクセス可能 |
| 導入規模 | 全国高校の約4割(2022年3月末時点) |
期待効果から見る導入の意義
これらの効果から、AIアダプティブラーニング機能導入により以下のような意義が見込まれています。
| 効果項目 | 詳細内容 | 解決が期待される課題 |
|---|---|---|
| 個別最適化学習 | 生徒ごとの習熟度に応じた「おすすめ講義」の提示 | 一律のカリキュラムによる学習効率の低下 |
| 教員負担軽減 | 先生起点の課題配信と生徒起点のアダプティブ学習の併用 | 個別対応の時間的・労力的限界 |
| 学校内外での学習 | デバイスを問わず個別最適な学習が可能 | 学習場所の制約 |
| 継続的な改善 | 学習履歴データの蓄積による推薦精度向上 | 固定的なカリキュラムの限界 |
今後の展望|生成AI活用によるアクセシビリティ向上

AI字幕機能の提供開始
リクルートは2025年2月17日より、音声を文字起こしする生成AIと、文字起こしされたテキストを『スタディサプリ』独自教材のテキストデータ利用で校正する生成AIを活用し、講義動画に字幕表示する機能を追加しました。
AI字幕機能の詳細
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 提供開始 | 2025年2月17日 |
| 対象講座 | [新版]ベーシックレベル数学Ⅰ/A、ベーシックレベル情報Ⅰ |
| 対象動画数 | 384本 |
| 技術活用 | 音声文字起こし生成AI + 校正生成AI |
| 利用環境 | インターネットブラウザ版(追加費用なし) |
| 主な対象 | 聴覚障がいのある生徒、音声が聞こえにくい環境での学習 |
字幕機能の利用ニーズ
字幕機能は聴覚障がいの有無にかかわらず利用ニーズがあり、以下のような場面で有効です。
- 音声を出せない通学時間
- イヤホンを忘れてしまった授業時
- 周囲が騒がしく音声が聞き取りにくい場合
- 動画内の発言が聞き取りにくい場合
導入規模の拡大
学校向け『スタディサプリ』の導入規模は着実に拡大しています。
| 時点 | 導入校数 | 備考 |
|---|---|---|
| 2022年3月末 | 約1,947校 | AI機能追加前 |
| 2023年3月 | – | AIアダプティブラーニング機能追加 |
| 2024年3月 | 2,322校 | AI機能搭載後 |
教育環境格差の解消に向けて
リクルートは「経済的、地理的な理由から発生する教育環境格差を解消し、すべての人たちに学ぶ機会と楽しさを提供したい」という思いでサービスを提供しています。
生徒や先生から、アクセシビリティの向上など多くの要望があった中で、生成AIの活用で字幕機能を追加できるようになりました。今後も対象となる学年や科目を拡大することが検討されています。
まとめ|AI搭載型アダプティブラーニングが切り開く教育の未来
リクルートの「スタディサプリ AI搭載型アダプティブラーニング機能」は、教育現場における個別最適化学習を実現する、革新的なソリューションです。独自開発のAIとスタディサプリ講師陣の教科知見の融合により、以下のような多面的な効果が期待されています。
- 生徒ごとの習熟度とつまずきポイントを判定
- 最適な「おすすめ講義」を自動推薦
- 先生の負担を増やさず個別最適化学習を進化
- 全国約2,322校(2024年3月時点)で導入
2023年3月の導入以来、高校1〜3年生の英語・数学を対象に、学校内外における個別最適な学習が可能となりました。先生起点の課題配信と生徒起点のアダプティブ学習を組み合わせることで、教員の負担軽減と学習効率向上の両立を目指しています。
今後は2025年2月に追加された生成AIを活用した字幕機能により、聴覚障がいのある生徒を含む多様な学習ニーズへの対応が進んでいます。「経済的、地理的な理由から発生する教育環境格差を解消し、すべての人たちに学ぶ機会と楽しさを提供したい」というビジョンのもと、スタディサプリは教育DX推進のプラットフォームとして、今後も進化を続けることが期待されます。


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