物流業界では、労働人口減少による労働力不足や、2030年の輸送力不足を背景に、トラックドライバーの労働負担の軽減など労働環境の改善が求められています。
こうした課題に対応するため、SGホールディングス、佐川急便、住友商事、米国のユニコーン企業でAIロボティクスソフトウェアの開発等を行うDexterity, Inc.の4社は、「AI搭載の荷積みロボット」の実証実験を行う共同プロジェクトを発足しました。2023年12月から1年間の実証実験を行い、早期の実用化を目指しています。
国内の物流業界における人手作業の代替として、個々の荷物をトラックの庫内の最適な位置に積み込めるAI搭載の荷積みロボットの開発は、業界初の試みです。本記事では、この革新的な取り組みについて、導入背景から技術詳細、プロセス、今後の展望まで詳しく解説します。
導入前の背景・課題|物流業界が直面する深刻な人手不足と輸送力不足

日本の物流業界は今、かつてない危機に直面しています。2024年度には14%、2030年度には34%の輸送力不足の可能性があると試算されています。この「物流2024年問題」と「2030年問題」は、働き方改革関連法によるドライバーの時間外労働規制と人口減少が重なり合い、物流業界全体を揺るがす課題となっています。
なぜ荷積み作業の自動化が困難だったのか
通常、荷積み作業では、トラックドライバーや積み込み作業者が荷物のサイズ・形状・重さのほか、送り状の備考欄の記載内容や梱包資材の状態などを瞬時に確認して適切に取り扱います。具体的には以下のような判断が求められます。
- 重たい荷物は下に配置
- 壊れやすい荷物は上部や手前に配置
- 送り状の備考欄を確認して特殊な取り扱いに対応
- 梱包資材の状態を見極めて荷物の安定性を判断
佐川急便では、将来的な労働力および輸送力不足に対応するため、以前より荷積みロボットの導入を検討してきましたが、輸送品質を維持する人手作業の代替が困難であり、大きな課題でした。この課題を解決するため、AIとロボティクス技術の融合による新たな挑戦が始まりました。
採用技術・導入したAIソリューション|Dexterityの高度なAIロボティクス技術

この新しい荷積みロボットには、Dexterityが有する米国の物流業界で培ったロボット技術に高度なAI技術を搭載し、佐川急便における物流オペレーションを学習させることで、佐川急便が求める輸送品質の実現を目指します。
主要な採用技術と特徴
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| ベース技術 | Dexterity社の米国物流業界での実績あるロボット技術 |
| AI機能 | 荷物のサイズ、形状、重さ、送り状情報、梱包状態の認識と最適な積み方の判断 |
| 学習データ | 佐川急便の物流オペレーション |
| 目標 | 熟練作業者の経験と判断力をAIで再現し、輸送品質を維持しながら省人化を実現 |
Dexterityは米国のユニコーン企業です。その既存技術に、佐川急便が求める輸送品質や処理速度などの要件を組み込んだカスタマイズが行われています。
AI導入プロセス|4社協業による段階的な実証実験フロー

プロジェクト体制と役割分担
本プロジェクトは、SGホールディングス、佐川急便が、米国の物流業界でロボットの導入実績のあるDexterityの技術を生かし、Dexterityの日本代理店を担っておりかつ長年のパートナーである住友商事と協業する座組になっています。
| 参画企業 | 役割 |
|---|---|
| SGホールディングス | プロジェクト統括、実証実験場所の提供 |
| 佐川急便 | 物流オペレーションのノウハウ提供、要件定義 |
| Dexterity | AIロボティクス技術の開発・提供 |
| 住友商事 | 日本代理店として総合力を活かした実証実験のサポート |
Dexterity選択の背景と理由
本プロジェクトでDexterityが選択された背景には、以下の要因があります。
選択の主な理由
| 要因 | 詳細 |
|---|---|
| 長年のパートナー関係 | 住友商事は2020年に米国のコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)であるPresidio Ventures Inc.を通じてDexterityに出資、2022年には日本向けの総代理店契約を締結。佐川急便の要件に合わせた迅速なカスタマイズが可能 |
| 高度なAI技術 | 独自のAI、コンピュータビジョン、制御技術により、従来のロボットに比べて高速動作や協調動作、複雑動作を実現 |
| 人的作業の自動化 | 人的作業でしか実現できなかった工程の自動化を実現する技術として注目 |
| 専門ソリューション保有 | トラックやコンテナ向けの荷積み作業を自動化するソリューションを保有 |
| 実績 | 米国の物流業界で既に実績を積み重ねており、信頼性が高い |
実証実験の概要と期間
期間は2023年12月から1年間で、場所はDexterityの米国施設でのAI搭載荷積みロボットの開発と、SGホールディングスグループ「Xフロンティア」での実オペレーションの検証という二段構えです。
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 期間 | 2023年12月から1年間 |
| 開発場所 | Dexterityの米国施設 |
| 実証場所 | SGホールディングスグループ「Xフロンティア」内の中継センター |
| 費用 | 約6億円 |
段階的な開発・検証ステップ
Dexterity製の荷積みロボット(既存)をベースに、佐川急便が求める輸送品質や処理速度などの要件に合致するAIを搭載した荷積みロボットの開発・テストの実施、そして開発したAI搭載の荷積みロボットをXフロンティア内の中継センターに設置し、実際のオペレーションを検証します。
- 既存ロボットのカスタマイズとAI搭載
- 米国施設での開発・テスト
- Xフロンティアへの設置
- 実際のオペレーションでの検証
- データ収集と継続的な改善
Xフロンティアは、SGホールディングスグループの次世代型大規模物流センターで、2020年1月に竣工した、佐川急便の大規模な中継センターと、グループ各社が使用する倉庫区画、事務所スペース、一部テナントスペースからなる国内最大級の物流施設です。この最先端施設で実際のオペレーションを検証することで、より実践的なデータ収集が可能となっています。
導入効果・成果|省人化と品質維持の両立を目指して実現
証実験が成功し実用化された場合、前述の課題に対して以下のようなこの革新的な取り組みによって、複数の効果が期待されています。
熟練作業者の判断をAIが代替
第1章で述べた、熟練作業者が行っている以下の複雑な判断作業を、AIが代替することで期待される効果です。
AIによる自動判断の実現:
- 重たい荷物は下に配置: センサーによる重量検知により、重い荷物を自動的に下段に配置し、荷崩れを防止
- 壊れやすい荷物は上部や手前に配置: 送り状の備考欄情報をAIが読み取り、壊れ物を上部や手前に自動配置
- 送り状の備考欄を確認して特殊な取り扱いに対応: AIが「天地無用」「取扱注意」などの指示を理解し、適切に対応
- 梱包資材の状態を見極めて荷物の安定性を判断: コンピュータビジョンで梱包状態を視覚的に判断し、安定した積載を実現
主要な期待効果と成果
| 効果項目 | 詳細内容 | 解決する課題 |
|---|---|---|
| 作業負担の軽減 | 重労働である荷積み作業をロボットが代替し、作業者の身体的負担を軽減。働きやすい職場環境を実現 | 労働力不足、作業者の高齢化による身体的負担 |
| 輸送品質の維持・向上 | AIが最適な積み方を判断することで荷物の破損リスクを低減。輸送中のトラブル減少により顧客満足度が向上 | 熟練作業者の減少による品質低下リスク |
| 労働力不足への対応 | 人手作業の代替により慢性的な人手不足を解消。将来的な物流コストの削減も見込める | 2024年問題・2030年問題による輸送力不足 |
| 継続的な改善 | 実際の作業データをAIが学習し続けることで、物流現場のさらなる効率化が可能 | 従来の自動化技術では難しかった柔軟な対応力の実現 |
これらの効果は、実証実験を通じて検証され、実用化の可否が判断される予定です。
導入時の課題と解決策|実用化に向けた3つの課題への対応
革新的な技術導入には課題も存在します。
主な課題と対策アプローチ
| 課題 | 現状 | 対策アプローチ |
|---|---|---|
| 初期投資コスト | 約6億円という高額な開発・導入費用。中小物流企業にはハードルが高い | 4社協業によるリスク分散と技術共有。今後は補助金活用や段階的導入の検討も |
| 現場への定着 | 新技術導入には現場スタッフの理解と協力が不可欠 | 丁寧な説明会と実地研修を通じて、人とロボットが協働する環境を構築 |
| AIの学習期間 | 現場ニーズへの最適化には一定の時間が必要 | 継続的なデータ収集とフィードバックループの構築により段階的に改善 |
今回の4社協業という枠組みは、リスク分散と技術共有の観点から有効なアプローチといえます。
今後の展望|全国展開と他工程への応用可能性
実証実験によって、AI搭載の荷積みロボットが佐川急便の求める輸送品質と人手作業の代替として十分な機能を果たすことが確認でき次第、早期に実用化を進めます。具体的には、今後新設される佐川急便の大規模中継センターなどへの導入を検討する予定としています。
段階的な展開の可能性
実証実験が成功した場合、以下のような段階的な展開が想定されます。
- 短期的展開: 実証実験完了後、新設される大規模中継センターへの導入
- 中期的展開: 全国の物流拠点への段階的な展開
- 長期的展開: 荷降ろしや仕分け作業など、他の物流工程への応用
物流業界への波及効果
この革新的な取り組みは、荷積み作業の自動化にとどまらず、物流業界全体の自動化・省人化を加速させる契機となる可能性があります。約6億円という大規模投資と4社協業という体制は、本プロジェクトが業界全体に与える影響の大きさを示しています。
佐川急便の取り組みは、物流業界全体にとって新たな標準を示す先駆的な事例となる可能性を秘めています。
まとめ|AI搭載荷積みロボットが切り開く物流業界の未来
佐川急便のAI搭載荷積みロボット導入は、物流業界が直面する深刻な人手不足と輸送力不足という課題に対する、革新的な解決策です。AIとロボティクス技術の融合により、以下のような多面的な効果が期待されています。
- 作業効率の向上
- 輸送品質の維持
- 作業者の負担軽減
- 将来的なコスト削減
約6億円という大規模な投資と4社協業という枠組みは、この技術が単なる実験ではなく、実用化を見据えた本格的な取り組みであることを示しています。
実証実験の結果次第では、物流業界全体の自動化・省人化を推進する契機となり、持続可能な物流システムの構築に大きく貢献することでしょう。
今後は、この技術の中小物流企業への普及や、他の物流工程への応用展開が鍵となります。物流業界全体の発展のためには、政府や業界団体による支援、そして業界を超えた技術共有と協力体制の構築が重要です。佐川急便の挑戦は、日本の物流業界の未来を切り開く重要な一歩となるはずです。


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