畜産業界では、人手不足や生産性向上が大きな課題となっています。特に牛の発情兆候や病気の早期発見は、経験に頼る部分が多く、見逃しによる受胎率の低下や損失につながることも少なくありません。
そこで注目されているのが、AIを活用した牛の行動管理システム「U-motion®」です。
センサーで牛の行動をリアルタイムに把握し、発情や体調変化があれば、スマートフォンやパソコンに自動で通知するのが特徴です。導入した牧場では、見回り時間が1日約2.6時間削減され、妊娠率が9%から22%に向上したケースもあります。
この記事では、U-motion®の機能や導入効果、実際の牧場での活用事例を紹介します。
経験に頼らざるを得ない畜産経営の現状

日本の畜産業は、国際的な競争の激化や生産性の向上、人手不足など多くの課題があります。
現場では、依然として人の目による観察に頼る部分が多く、牛の健康状態や発情兆候を正確に把握するのは難しいです。その結果、発情の見逃しや病気の早期発見が遅れ、受胎率の低下や事故・損失につながります。
U-motion®導入前に抱えていた現場の課題

ここでは、U-motion®導入前に課題を抱えていた2つの牧場を紹介します。
江藤牧場(大分県・酪農300頭)
大分県にある江藤牧場では、約300頭の乳牛を飼育しています。U-motion®導入前には以下の課題を抱えていました。
- 食が細くなっている牛を見つけにくく救えない牛がいた
- 発情兆候の発見が難しかった
- 記録業務が手作業で非効率だった
特に深刻だったのは、病気の早期発見でした。食が細くなっている牛を早い段階で見つけられれば、救える命があります。しかし、数百頭をスタッフの目視だけで把握するのは限界がありました。
また、マウンティングやスタンディングといった発情兆候は一瞬で終わってしまいます。どれだけ注意深く観察しても運に左右される状態でした。
藤原牧場(宮崎県・肉牛1,100頭)
宮崎県にある藤原牧場では、約1,100頭の肉牛を飼育しています。藤原牧場ではU-motion®導入前には以下の課題を抱えていました。
- 少人数で1,000頭以上の管理が難しかった
- 牛の状態が目視頼みになっていた
- 事務作業の負担が大きかった
藤原牧場では、スタッフ1人あたり約200頭の牛を管理しています。1頭ごとの状態を目視だけで把握するのは難しく、スタッフには常に大きなプレッシャーがかかっていました。
導入後の効果

ここでは、実際にU-motion®を取り入れた牧場にどのような効果があったのか紹介します。
数字で見るU-motion®の効果
鹿児島県伊佐市にある(株)カミチクファームでは、約1,200頭の牛を飼育しています。「U-motion®」を取り入れたところ、次のような変化がありました。
| 対象業務 | 導入前 | 導入後 |
| 見回り業務(対象:1200 頭) | ・見回り 3.7h/日・発情発見率 30%・妊娠率 9% | ・見回り 1.1h/日・発情発見率 55%・妊娠率 22% |
| 出産・異常時駆付・待機・見回り | ・見回り 1h/日 | ・見回り 0.5h/日 |
見回り業務では、「U-motion®」導入前は1日約3.7時間かかっていました。「U-motion®」導入後は、見回り時間を1日2.6時間削減しつつ、発情発見率25%、妊娠率も13%向上しています。
また、牛舎に設置したカメラの映像を、離れた場所からモニターやスマートフォンで確認できます。常に牛舎に張り付く必要がなくなり、分娩時や異常行動時のみ駆けつければよいため、見回り時間を大幅に削減できました。
江藤牧場:導入後の変化
先ほど紹介した江藤牧場では「U-motion®」を導入したところ、以下の変化がありました。
【採食量データで淘汰される牛が約3分の1に減少】
導入前は、数百頭の中から「食が細くなっている牛」を目視で見つけるのは困難でした。U-motion®のセンサーは24時間365日、牛1頭ごとの採食時間を自動計測します。AIが個体ごとの正常な採食パターンを学習し、採食時間が減少するとスマートフォンに通知されます。この通知をもとに採食低下を確認した段階で獣医師に連絡できるようになり、その結果、病気などで淘汰される牛が約3分の1まで減少しました。
【発情アラートで見回り時間を大幅短縮】
発情兆候は一瞬で終わるため、発見は運に左右されます。U-motion®は牛の運動量や休息パターンなどの行動データを分析し、個体ごとの正常パターンからの「ズレ」をAIが自動検知します。発情アラートで通知された牛だけを確認すればよいため、見回り時間が大幅に短縮されました。
【記録のデジタル化で振り返りが簡単に】
分娩・種付け・治療履歴などをスマートフォンで記録できるようになり、ノートや台帳に比べて記録を振り返ることが簡単になりました。
藤原牧場:導入後の変化
藤原牧場では、「U-motion®」を導入したところ、以下の変化がありました。
【AIによる24時間モニタリングでスタッフのプレッシャー軽減】
スタッフ1人あたり約200頭を管理する中、目視だけでの健康管理には限界がありました。そこでU-motion®は、採食時間・反芻時間・横臥時間など7つの行動を自動記録し、グラフ化します。これにより、経験の少ないスタッフでも採食時間が明らかに少ない牛をデータで判断できるようになり、プレッシャーが軽減されました。
【起立困難・疾病アラートで迅速対応】
起立困難など生死に直結する状況をAIが自動で検知し、異常時のみ駆けつける体制にしました。また、風邪・尿石・鼓腸症など重篤化しかねない疾病もAIが採食量や反芻時間の変化から早期に検知し、すぐに対応できる体制が整いました。
【獣医師とのデータ共有で重篤化を防止】
治療履歴と行動データ(採食量、反芻時間など)を獣医師と共有することで、重篤化しそうな病気の早期発見にもつながっています。
U-motion®の仕組み:AIが支える牛の健康管理
U-motion®は、以下の3層構造でAI技術を商品に組み込んでいます。
【データ収集層】複数センサーによる24時間モニタリング
牛の首に装着するタグには、加速度センサー、気圧センサー、位置検出センサーの3種類を内蔵しています。牛の動き・高さ・位置を24時間365日リアルタイムで計測し、データをクラウドに自動送信します。
【AI分析層】機械学習による行動分類と異常検知
クラウドに送信されたデータは、NTTテクノクロスの「IoTデータ分析Suite」で分析されます。機械学習アルゴリズムにより、採食・飲水・反芻・動態・起立・横臥・静止の7つの行動パターンが自動で分類される仕組みです。さらに、個体ごとの正常な行動パターンをAIが学習し、そこからの「ズレ」を異常として自動検知します。
【ビッグデータ活用層】継続的な精度向上の仕組み
全国の牧場から約47万頭のデータが蓄積されており、このビッグデータをもとにアルゴリズムを継続的に改善。開発チームが定期的に現地で牛の行動とセンサーデータの関連性を検証し、検知精度が日々向上しています。
この3層構造により、畜産農家に高精度な発情・疾病・起立困難・分娩の各アラートと、詳細な行動分析を提供しています。
多様なタグセンサーと海外へ広がるU-motion®サービス

2024年デザミス株式会社では、既存のネックタグセンサーに加えて肥育牛向けの「イヤタグセンサー」の提供を始めました。今後は、さまざまな営農形態にも対応できるように、機能改善やアフターサポートの充実を図っていく方針です。
また、インドネシアのタイストール牛舎や中国の3,000頭規模の牧場など、海外の現場でもテストを進めています。得られた結果をもとに、海外への本格的な展開を見据えています。
まとめ

畜産・酪農の現場では、人手不足や生産性向上が大きな課題です。U-motion®は、センサーで牛の行動をリアルタイムに把握し、発情兆候や病気の早期発見につながります。
今回紹介した牧場では、見回り時間の削減や妊娠率の向上、淘汰される牛の減少など、生産性向上の成果が出ています。
今後はイヤタグセンサーの提供や海外展開も進み、さまざまな営農形態に対応できるようになる見込みです。畜産経営の効率化や労働負担の軽減を検討している方は、導入を検討してみてはいかがでしょうか。


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