富士フイルムが開発アルツハイマー病進行予測AI技術とは?AIを導入するプロセスや効果も解説

現在、認知症の患者数は世界で増加しており、今後も増えていく見込みです。軽度認知障害(MCI)から、認知症のひとつであるアルツハイマー病(AD)に進行する患者を予測するため、富士フイルムは国立精神・神経医療研究センターと共にAI技術を取り入れました。その結果、予測成功率が高くなったり、英誌に掲載されたりなどの実績をおさめています。
本記事では、富士フイルムがAI技術を導入した理由や、「AD進行予測AI技術」について解説します。AI技術を導入したことによる効果や実績、導入するプロセス、今後の課題や対策などについても紹介しますので、ぜひ最後までご覧ください。

目次

富士フイルムがAI技術を導入した理由

まずは、富士フイルムがAI技術を導入した理由について紹介します。
富士フイルムは、以下の3点を理由に、AI技術を導入検討しました。

  • トータルヘルスケアソリューションの強化
  • 認知症の患者数が増加
  • 新薬の臨床試験の治験成功率が低い

トータルヘルスケアソリューションの強化

富士フイルムは、2021年の日立製作所の画像診断関連事業買収などを通じて、CTやMRIを含む幅広い医療機器のラインナップを確立しています。AIを中核に据えることで、医療機器から得られるデータを統合・解析するトータルヘルスケアソリューションの強化を目指しています。 

認知症患者数の増加

認知症の患者は現在、世界中に約5,500万人いると推定されており、人口の高齢化に伴い、2050年には約1億3,900万人に増加すると予測されています。さらに、認知症の一種であるアルツハイマー病(AD)の患者は、認知症の中でもっとも多く、今後も続いていく傾向とされています。

新薬の臨床試験の治験成功率が低い

近年、アルツハイマー病(AD)の新薬開発では、早期の軽度認知障害(MCI)をターゲットに、臨床試験が実施されてきました。しかし、2年以内にMCIからADに進行する患者の割合は2割未満と少なく、臨床試験期間中に進行しないMCI患者が多くいることから、ほとんどの臨床試験は成功に至っていません。

富士フイルムが導入したAI技術

引用:https://digitalist-news.net/detail.php?pid=WnIVpkVZm

富士フイルムが導入したAI技術は、「AD進行予測AI技術」です。AD進行予測AI技術には、「画像認識技術」と「深層学習」が必須です。それぞれのAI技術について、どのようなものか詳しく紹介します。

「AD進行予測AI技術」とは

富士フイルムが導入した「AD進行予測AI技術」は、富士フイルムの画像認識技術を応用して開発したものです。MRI画像や認知能力スコアなど、複数の臨床情報をもとに予測します。具体的には、以下の手順で行います。

  1. 富士フイルムが写真・医療分野で培った高度な画像認識技術を用いて、脳のMRI検査の三次元画像から、アルツハイマー病(AD)の進行と関連性が高いと言われている、①海馬、②前側頭葉を中心とした区域をそれぞれ特定します。
  1. 深層学習を用いて、①海馬、②前側頭葉を中心とする両区域からAD進行に関わる微細な萎縮パターンを抽出し、画像特徴料として算出します。AIは、萎縮パターンからADへの進行を識別するようになります。

関連性の低い区域を排除して学習することで、限られたデータでの学習における個人差の影響を低減できます。その結果、高い予測精度の実現に成功しています。

画像認識技術

画像認識技術とは、画像に映る人やモノを認識する技術です。「画像に何が写っているのか」を解析します。画像認識はパターン認識の一種で、近年は深層学習という手法によってさらに精度を向上してきています。

画像認識技術には、以下のような種類があります。

画像認識技術の種類概要
画像分類画像全体が何に属するかを分類する技術
物体検出画像内の物体がどこに写っているかを特定する技術
顔認識画像から人物の顔を識別し、本人か判定する技術
文字認識画像内の文字を読み取り、テキストデータに変換する技術

富士フイルムは、「人が見たまま、感じたままの世界を人の視覚や脳に代わって、画像として適正に再現すること」「人が伝えたい世界を、意図を汲み取り画像として的確に表現すること」を目指し、画像処理技術の開発に取り組んできました。

深層学習

深層学習(ディープランニング)とは、人間の脳の神経回路を模倣した「ニューラルネットワーク」を、多層に重ねた機械学習の手法です。画像認識や音声認識、自然言語処理など、人間が処理するのが難しい複雑なタスクを、高精度で実現できます。

深層学習と従来の機械学習の違いは、以下の表の通りです。

深層学習機械学習
特徴量の抽出AIが自動で特徴量を抽出人間が事前に特徴量を把握しなければいけない
学習方法データから、パターンやルールを自己判断で学ぶ人間が設計したアルゴリズムに基づいて学習
データへの対応画像や音声、文章など、複雑で数値化が難しいデータに強い比較的シンプルで、数値化されたデータに強い

AI技術を導入するプロセス

AI技術を導入するときは、一般的に「構想・企画」、「検証」、「実装・開発」、「運用・拡大」の4つの段階で進めます。

  1. 構想・企画

まず、AIで解決したい経営課題や現場の業務課題を特定し、AI導入によってどのような効果を与えるのかを定義します。続いて自社の課題解決にAIが役立つかを見極め、具体的な活用方法を検討します。

  1. 検証

小規模なテスト導入を行って、AIの有効性と実現可能性を検証します。テスト導入の結果、修正が必要であるのが分かった場合は、この段階で見直すことが必要です。

  1. 実装・開発

テスト導入に成功したら、実際の業務にAIシステムを組み込みます。「なぜAIを導入する必要があるのか」を現場に説明し、AIの使い方に関するトレーニングも行わなければいけません。

  1. 運用・拡大

最後に、本格的にAIシステムを稼働させ、継続的に運用していきます。AIシステムが安定して稼働できるよう、不具合の対応やメンテナンスは必須です。AIシステムの導入に成功したら、他の業務や部署にも拡大できます。

富士フイルムがAI技術を導入したことによる効果や実績

富士フイルムがAI技術を導入したことによる効果や実績は、以下の2点です。

  • 予測成功率精度が高い
  • 英誌「Nature」の関連誌「npj Digital Medicine」に掲載

それぞれ、詳しく解説します。

予測成功率精度が高い_精度88%

富士フイルムと国立精神・神経医療研究センターは、アルツハイマー病(AD)の進行を予測するAI技術を用いて、2年以内に軽度認知障害(MCI)患者がADへ進行するかどうかを、高い精度で予測することに成功しました。

異なる人種の2つの患者集団(北米人・日本人)のデータベースにAI技術を適用したところ、2年以内にMCI患者がADへ進行するかどうかを、88%の精度で予測することを確認しています。

英誌「Nature」の関連誌「npj Digital Medicine」に掲載

富士フイルムの「AI技術を用いたアルツハイマー病の進行予測」の研究成果は、2022年4月12日に、国際学術誌「Nature」の関連誌「npj Digital Medicine」に掲載されました。「npj Digital Medicine」はAI技術だけではなく、デジタルヘルスやスマートフォンアプリを活用した治療法など、先進的な研究論文が掲載されている雑誌です。

「npj Digital Medicine」に掲載される論文は、厳格な編集基準と査読プロセスが設けられています。そのため、「npj Digital Medicine」に掲載された論文は、「質が高い」と認識されています。

今後の課題や対策

富士フイルムがAI技術を活用する上での課題は、データの活用や市場の変化への対応など、多岐にわたります。特に、今後も競争力を維持・強化していくためには、以下の課題への対策が必要です。

課題具体例
データに関する課題・プライバシーの保護とセキュリティの管理
・非構造化データの活用
技術に関する課題・より精度の高いアルゴリズム
・既存システムとの統合
市場に関する課題・新規事業の創出
・競合他社との差別化

富士フイルムの将来展望

富士フイルムの将来展望は、以下の2点です。

  • 治験成功率の向上
  • 個別化医療の推進

それぞれ、詳しく解説します。

治験成功率の向上

富士フイルムと国立精神・神経医療研究センターは、さらなる治験成功率の向上を目指しています。AD進行予測AI技術の予測結果をもとに患者の解析を行い、有用性をさらに検証していく予定です。具体的な検証内容は、以下の2点です。

  • 認知症が進行しない患者臨床試験の対象外にすること
  • 進行速度分布のばらつきを低減すること

また、AD治療薬の臨床試験の患者選定に、AD進行予測AI技術を適用させることも目指しています。

個別化医療の推進

富士フイルムと国立精神・神経医療研究センターは、AD進行予測AI技術のアルゴリズムを、さまざまな疾患の脳画像や、臨床データへの応用を検討していきます。AD以外の疾患に応用することで、予後や治療反応性の予測につながり、個別化医療の推進の一翼を担えると期待できます。

まとめ

富士フイルムがアルツハイマー病(AD)の進行予測にAI技術を導入した理由は、認知症の患者数が世界的に増加している点と、AD新薬の臨床試験の治験成功率が低い点が挙げられます。そして、富士フイルムは国立精神・神経医療研究センターと合同で、「AD進行予測AI技術」を開発しました。「AD進行予測AI技術」は、富士フイルムが培ってきた技術のひとつである「画像認識技術」を応用して開発したものです。

富士フイルムは「AD進行予測AI技術」の開発により、高い予測成功率の記録に成功しました。また、世界的に認められている国際学術誌「Nature」の関連誌「npj Digital Medicine」にも掲載され、注目を集めています。今後は、AD進行予測AI技術をさらに検証し、治験成功率の向上を目指しています。さらに、個別化医療の推進も期待しているそうです。

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