2029年までに30億円の効果を出すという、千葉銀行とエッジテクノロジーが掲げた目標が、多くの銀行から注目されています。膨大な紙の資料や外部への依存、AI人材の不足など地方銀行が抱える悩みは同じです。
千葉銀行も同じでしたが、2024年12月、エッジテクノロジーを完全子会社化しました。なぜAI子会社化に踏み切り、どんな技術を選び成果を出したのか、そして今後の展望までを見ていきましょう。
なぜAI子会社化したのか?千葉銀行が抱えた課題

地方銀行を取り巻く環境は厳しさを増しています。人口は減り金利は低いままで、デジタル化は進んでいきます。千葉銀行が2024年12月にエッジテクノロジーを完全子会社化したのは、こうした状況を打開するためでした。
千葉銀行が抱えていた課題は3つあります。
| 課題 | 具体的な内容 |
|---|---|
| データが使えない | 大量の顧客データを持ちながら、その多くが紙のまま眠っていた |
| 外部に頼る限界 | 外部のシステム会社に頼んでも、銀行の仕事をよく分かってもらえず、うまくいかなかった |
| AI人材がいない | 社内にAIを使える人材がほとんどいなかった |
これら3つの課題は、互いに関係していました。データが使えないから外部に頼り、するとノウハウが社内に残らず、AI人材も育たないという悪い流れを断ち切る必要がありました。
千葉銀行が選んだのは、AI技術に強いエッジテクノロジーの完全子会社化です。
30億円を生み出す技術の組み合わせ方

千葉銀行とエッジテクノロジーは、一つのAI技術だけに頼りませんでした。
- LLM(大規模言語モデル)
- 機械学習
- 画像解析
これらを組み合わせることで、幅広く対応できる仕組みを作りました。
4つの技術を組み合わせた仕組み
千葉銀行が使っているのは、4つの技術を組み合わせた仕組みです。
| 技術 | できること | 活用場面 |
|---|---|---|
| LLM(大規模言語モデル) | 人間のような自然な文章を理解・作成 | お客様からの問い合わせ対応、資料作成 |
| 分類・回帰技術 | 過去のデータから将来を予測 | どのお客様がどんな商品に興味を持ちそうか数字で示す |
| 画像解析技術 | 写真や書類から文字や状態を読み取る | 手書き申込書の自動データ化、建物の被害状況を判断 |
| 機械学習・ディープラーニング | 大量のデータから隠れたパターンを発見 | 不正取引の検知、融資リスクの判断 |
これらの技術を組み合わせることで、大きな効果が生まれます。画像解析で申込書を読み取り、機械学習でデータを分析し、LLMが提案書を作ります。この流れが自動化されることで、人の手では時間がかかる作業が数秒で終わるようになりました。
マーケティングから不正検知まで使える5つの分野
技術を実際の仕事に使う際、千葉銀行は5つの分野に絞りました。
| 応用分野 | 具体的な活用内容 | 期待される効果 |
|---|---|---|
| One to Oneマーケティング | 顧客データを分析し、一人ひとりに合った金融商品を提案 | 提案の精度が上がり成約率が向上、お客様の満足度もアップ |
| 音声情報の文字起こし | 電話対応や会議の録音を自動で文字に変換 | 議事録作成の時間が大幅に削減、重要な会話を見逃さない |
| CRM連携 | 顧客管理システムとAIを連携させ、営業活動を支援 | 営業担当者が次に何をすべきか自動で提案、営業効率が向上 |
| 不正取引検知 | 異常なパターンの取引をAIが自動で発見 | 不正を早期に発見してリスクを減らす |
| 融資審査業務の効率化 | 稟議書作成や審査プロセスをAIが支援 | 審査時間が短縮、経験の浅い若手でも適切な書類が作れる |
技術導入は段階的に進めました。最初に取り組んだのは音声情報の文字起こしです。議事録作成の時間が目に見えて減り、社員の理解が得られました。次に融資審査業務の効率化に着手し、若手でも適切な稟議書が作れるようになったのです。
小さな成功を積み重ねることで、One to Oneマーケティングや不正検知といった高度な分野へ広げることができました。
わずか3ヶ月で完了した子会社化の進め方

引用元:PR TIMES
わずか3ヶ月で千葉銀行はエッジテクノロジーを完全子会社化しました。2024年9月に公開買付けを始め、12月には完了したのです。
この素早さの裏には、はっきりした戦略がありました。意思決定が速くなり、銀行とAI企業が一つのチームとして動けるようになりました。
3ヶ月で完了した組織づくり
完全子会社化は驚くほど速く進みました。
- 2024年9月6日 公開買付け開始を発表
- 2024年10月24日 公開買付け結果を公表
- 2024年12月10日 完全子会社化が完了
通常、こうした大きな組織変更には半年から1年かかります。
しかし千葉銀行は急いでいました。フィンテック企業や大手銀行がAI活用を加速させる中、他の銀行に遅れないため、地域のお客様により良いサービスを届けるため、スピードを重視したのです。
完全子会社化に伴い、組織も変わりました。エッジテクノロジーのAIアルゴリズム事業本部と管理本部を廃止し、部門を減らしました。代表取締役が直接指示を出せる体制にし、意思決定を速くしたのです。さらにAIイノベーション推進室という新しい部署を作り、AI活用を全社に広げる役割を持たせました。
これにより、現場の課題をすぐにエッジテクノロジーに伝え、解決策を作るまでの時間が大幅に短くなりました。
2025年度に向けた計画
千葉銀行とエッジテクノロジーは、はっきりした計画を立てています。
| 時期 | 主な取り組み | 目標 |
|---|---|---|
| 2024年度下期 | 第1号の実際の案件を作る | AI活用の実績作り |
| 2025年度上期 | マーケティングモデル高度化の検証 | 顧客分析の精度向上 |
| 2025年度下期 | 体制・支援領域の拡大 | グループ全体への展開 |
このロードマップは、各段階ではっきりした目標を決めていることです。2024年度下期では、3つの案件を成功させることを目指しています。
2025年度上期は、マーケティングの予測精度を70%から85%以上への引き上げです。これにより、成約率が今の1.5倍になると見込んでいます。
2025年度下期には、千葉銀行グループ全体で50以上の業務にAIを導入する計画です。この段階で、30億円効果の約40%に当たる成果が見えてくると予測しています。
実際に出た成果と実績

千葉銀行とエッジテクノロジーのAI活用は、具体的な成果を生んでいます。
2029年までに30億円という目標を掲げる一方、現場ではすでに変化が起きています。実務アプリ、顧客の気持ちを数値化する仕組みなど、AIが銀行の仕事を変え始めているのです。
2029年までに30億円の効果を目指す
千葉銀行グループは、2029年3月までに30億円相当の効果を目指しています。この金額は、3つの柱から生まれます。
| 効果の柱 | 具体的な内容 | 期待される成果 |
|---|---|---|
| 業務効率化 | データ入力、書類チェック、稟議書作成などをAIが自動化 | 年間数万時間の創出、社員が本来の仕事(お客様対応や戦略立案)に集中 |
| コスト削減 | 開発の内製化、紙書類のデジタル化 | 外部委託費用、印刷費・保管費用の削減 |
| 収益向上 | AIによる顧客分析で一人ひとりに合った商品提案 | 成約率アップ、顧客信頼の向上 |
30億円の内訳を見ると業務効率化が約12億円、コスト削減が約8億円、収益向上が約10億円です。業務効率化で生まれた時間を、社員が新しいお客様の開拓や既存のお客様との関係作りに使うことで、収益向上にもつながります。
つまり、30億円は単純な足し算ではありません。各要素が影響し合って生まれる効果です。千葉銀行は、この効果を最大限に引き出すため、AI導入と並行して社員の働き方改革も進めています。
経営陣を驚かせた実務アプリとお客様理解
実際に開発されたアプリは、経営陣の期待を超えました。
若手行員が開発したトークスクリプト自動生成アプリは、お客様との会話の流れを自動で作ってくれます。経験の浅い社員でも、この台本を参考にすれば、スムーズに商品説明ができます。ロールプレイング会話アプリでは、AIが顧客役になり、何度でも練習できるのです。
安全なChatGPTアプリも注目を集めました。通常では入力した情報を学習に使う可能性がありますが、千葉銀行版は顧客情報を一切学習しない設計です。社員は安心してAIを業務に使えるようになりました。
顧客理解では、感情分析モデルが活躍しています。お客様の声を8種類の感情(喜び、怒り、悲しみ、驚き、期待、不安、満足、不満)で見える化します。どんな場面でお客様が不安を感じているのか、何に満足しているのかが分かるのです。
ニーズランクモデルは、顧客データを分析して、金融商品を購入する可能性を数値化します。0から100までのスコアで表示され、優先的にアプローチすべきお客様が分かり、本当に必要としている人に届けられます。
これらの成果により、他の部署から「AIで何とかならない?」という声が増えました。成功事例が社内に広がり、AI活用への期待が高まっています。
導入時にぶつかった壁と乗り越え方

AI導入は順調に見えましたが、実は大きな壁がありました。技術の問題と、人や組織の問題です。
どんなに良い技術でも、現場が使ってくれなければ意味がありません。
データとセキュリティの問題への対応
最初に直面したのが、データの問題です。千葉銀行には大量の顧客データがありましたが、その多くが紙の書類や古いシステムに入ったままでした。既存のマニュアルもAIが読みづらい構造で、そのまま使えません。
千葉銀行は、これらの課題に対して具体的な対策を行いました。
| 課題 | 具体的な対策 | 効果 |
|---|---|---|
| データ品質 | バラバラだった情報を整理し、AIが理解しやすい形式に変換 | AIの精度向上 |
| 情報検索 | RAG技術を活用し、必要な情報を正確に探し出す | 回答精度の向上 |
| セキュリティ | ユーザー情報を一切学習しない仕組みを構築 | 顧客情報の保護 |
| ルール整備 | 「ちばぎんグループAIポリシー」を制定 | 社員が安心して利用 |
これらの対策により、導入初期に心配されていたAIの間違った回答や情報漏れのリスクは大きく減りました。実際、RAG技術の導入後、AIの回答精度は75%から92%に向上しています。
セキュリティ面では、金融庁のルールに沿った「ちばぎんグループAIポリシー」を作りました。このポリシーでは、顧客情報を扱う際の具体的な手順や、万が一問題が起きた場合の報告ルートまではっきり決めています。社員は定期的な研修を受け、ポリシーの理解度テストにも合格する必要があります。
社員の不安を解消したAI教育の取り組み
千葉銀行は、経営層が「AIは敵ではなく味方だ」と繰り返し伝えました。さらに、AI導入で減った時間を、社員の勉強やワークライフバランスの改善に使えることを具体的に示したのです。
導入にも工夫し、最初は希望者20名で試験的に開始しました。3ヶ月後、20名の残業時間が平均30%減り、お客様満足度が15%上がったというデータを公開しました。この結果を見て、「自分もAIを使いたい」という社員が増えたのです。
Google Cloud ASLプログラムでは、500名以上の社員が研修を受けました。研修後のアンケートでは、85%の社員が「AIへの不安が減った」と答えています。
地域から日本全体へ広がる未来の姿

千葉銀行とエッジテクノロジーの取り組みは、千葉県内だけでなく、全国の地方銀行、日本の金融業界全体を変える可能性があります。短期・中期・長期の視点から、その未来像を見ていきます。
2025-2026年に目指す地域全体のDX
千葉銀行が目指すのは地域まるごとDXです。これは千葉県全域でAI活用のメリットを広げる取り組みで、中小企業や自治体にもAI技術を提供し、デジタル化を進めます。
TSUBASAアライアンスでの展開も重要で、これは千葉銀行を含む10の地方銀行が協力する仕組みです。AI活用の成功したノウハウを、他の地方銀行と共有します。同じような課題を抱えているため、成功事例を広げることで、全体のレベルアップが期待できます。
さらに、日本語に特化したSLM(Small Language Model)の開発も進めています。SLMは、LLM(大規模言語モデル)より小さく、特定の用途に特化したAIです。日本の金融業界に合わせて作ることで、正確で使いやすいAIになり、環境への負担も少なくコストも抑えられます。
2027年以降の次世代DXと環境に優しいAI
中期的な目標は、ちばぎんDX4.0の実現で、どこでも同じように、その人に最適な提案ができるようになります。
RPA(作業の自動化ツール)も進化します。現在、千葉銀行では120以上のロボットが業務を自動化していますが、これをAIが監視・管理する仕組みです。ロボットが止まってもAIが自動で対応します。
AIエージェントの導入も計画中です。AIエージェントは、人間の指示を理解し複数の作業を自動で進めるAIで、データ分析から提案書作成までの作業をこなします。
長期的には、環境に優しいAIの実現です。AIは大量の電力を使うため、千葉銀行は環境に配慮したシステムの開発を進めています。
そして最終的には、この成功モデルを全国の地方銀行へ広げ、日本の金融業界全体を変える起点になる未来を描いています。
まとめ
千葉銀行とエッジテクノロジーのAI活用から学べるポイントをまとめます。
5つの成功の鍵
- 明確な目標
- 段階的な導入
- 完全子会社化
- 社員への配慮
- 安全な仕組み
千葉銀行の成功は、最新技術を入れたからではありません。はっきりした目標のもと、段階を踏んで進め、人を大切にした結果です。AI導入は手段で、目的はお客様により良いサービスを届けること、社員がより働きやすい環境を作ることでした。
地方銀行のDX推進は、技術ではなく、人と組織を変える挑戦です。千葉銀行の事例は、「自社でも実現できるのか」という不安を抱える方々に、具体的な進め方を示しています。



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