「植物と会話するAI」という言葉を聞くと、SFのような未来技術を想像するかもしれませんが、実際、ケンブリッジ大学植物園では、AIを通じて植物と“対話”する体験型プロジェクトが行われています。AIを通して”対話する”ことで、人々が植物とどう関わるかを理解するためのデータとしても活用されています。このように、世界では『植物×AI』という形で研究が進んでいます。
この記事では、植物研究と農業の研究につながるAIの活用例についてご紹介します。
「植物とAI」が注目される理由

世界で進む「AI×植物」研究の本質は、植物が言葉を話すことではなく、AIによって、これまで人間が直感や経験に頼ってきた植物の状態や変化を、データとして読み解けるようになってきたということです。このような研究をめぐり、いま、植物研究と農業の現場で、静かにではありますが大きな変化が起きています。
世界で進む「AI×植物」研究の本質は、植物が言葉を話すようになることではありません。AIの活用によって、これまで人間が直感や経験に頼ってきた植物の状態や変化を、客観的なデータとして読み解けるようになってきた点にあります。
このアプローチが広がることで、植物研究や農業の現場では、静かではあるものの確かな変化が起きつつあります。従来の経験則に依存した栽培や管理から、データに基づく精密な判断へと移行する動きが進み、植物との向き合い方そのものが変わり始めています。
「AI×植物」とはどのようなことなのか
画像、環境データ、遺伝情報などをAIで解析し、植物の状態や反応を理解しようとする取り組みの総称を「AI×植物」と表現します。対象は病気の兆候や成長スピード、環境への適応など多岐にわたり、AIが植物の「気持ち」を読むわけではなく、人間の目では捉えきれない微細な変化やパターンを見つけ出すことができるようになるということです。この研究が進むことで、計算能力の向上と大量データの蓄積によって、植物を“観察する技術”そのものが進化し始めています。
「植物と会話するAI」は何を意味するのか

冒頭で紹介した、ケンブリッジ大学植物園で行われている、AIを通じて植物と“対話”する体験型プロジェクトは植物が意思を持って話すという意味ではなく、AIを通じて、植物に関する知識や状態を対話形式で理解できるという試みです。
ケンブリッジ大学のプロジェクトである「Talking Plants」は2026年2月11日~4月12日まで実施されています。このプロジェクトは、人間が植物をどう捉え、どう関心を向けるかを探るための実験でもあるのです。AIは植物の“翻訳者”として機能し、人と自然の距離を縮める役割を果たしており、「会話」という表現は、その関係性の変化を象徴しています。
その仕組みは、温室の各所に設置されたQRコードをスキャンすると、20種類の素晴らしい植物と会話することができるというものです。それぞれの植物は、AIによる生成型チャットボットで表現されています。同施設は、この試みについて、「デジタルツールが将来、生物多様性へのより深い理解と保護をどのように支えていくかについての洞察を深めるのに役立つ」とかたっています。
「AI×植物」研究のトレンド
①画像解析による病害・健康診断
最も実用化が進んでいるのが、画像解析による病害検出や健康診断です。葉の色や形、斑点の出方などをAIが解析し、病気の種類や進行度を判別する研究が世界中で行われています。すでに農業や園芸の現場では、スマートフォンで撮影した写真から病害を推定するアプリも登場しており、これにより、経験に頼らず早期発見が可能になり、農薬使用の最適化や収量向上につながっています。
AIは“植物の見た目”を定量的に読むツールとして定着しつつあります。
【アプリ】
家庭菜園向け
SCIBAI(サイバイ)ー家庭菜園向けの病害虫診断アプリで、トマト・ナス・ピーマン・イチゴなど主要野菜の病害虫を写真からAIが判定し、病害虫図鑑や対策方法も確認できる
ガーデンドクターAIー家庭菜園者向けの病害虫診断アプリで撮影画像から病害虫を特定し、対応策や有効薬剤の情報を確認
プロ農家向け
アグリショットSCANーLINEに圃場で撮影した被害作物の写真を送ると、AIが数秒で病害虫名を推定し、そのまま防除薬の発注までつなげられるサービス
レイミーのAI病害虫雑草診断(日本農薬)ースマホアプリで病害・害虫・雑草を撮影するとAIが判別し、生態や防除方法、対応する農薬情報を提示する防除支援ツール
病害虫診断 EXPESTS(エクスペスツ、住友化学「つなあぐ」内アプリ)ー圃場で撮った葉や害虫の写真を読み込むとAIが病害虫候補を提示し、有効な農薬一覧とECサイトへのリンクまで提供するのが特徴
② 成長・形を読む「表現型解析AI」
植物研究の分野では、成長過程や形状の変化をAIで解析する「表現型解析」が重要なトレンドとなっています。従来は人手で記録していた、葉の配置、茎の伸び方、根の構造などの観察作業をAIが担い、画像や動画から数値化して成長パターンを比較することで、規模と精度が大きく向上し、品種改良や環境適応の研究が加速しています。
また、表現型AIを支える周辺技術として知られているのが、アノテーションの自動化技術です。アノテーションとは、「AIに検出させたい対象物を特定するために、画像内の対象物を正確に指定して、その部分に囲い枠を描いてラベル付けする作業です。対象物をアノテーションし、アノテーションした部分を学習させてAIモデルを作成すると、作成したAIモデルが対象物を自動で検出できるようになります。」(参照:農研機構)
このような技術革新は、気候変動への耐性を持つ植物の開発など、長期的課題にもAIが貢献し始めています。
③ スマート農業・IoTとの融合
AI×植物は、IoTと組み合わさることで農業の現場にも浸透しています。温室や農地に設置されたセンサーから、温度、湿度、光量、水分量などのデータを収集し、AIが最適な栽培環境を判断することもできます。労働力不足が深刻な地域では、省人化と安定生産の両立が期待されており、それを補う形でも活用されています。
人の経験や勘に頼っていた管理が、データ駆動型へと変わりつつあり、研究室を出て社会インフラの一部になり始めています。
④ 遺伝子・分子レベルを読むAI
近年は、画像だけでなく植物の遺伝子情報やRNAデータをAIで解析する研究も進んでおり、遺伝配列を言語のように扱い、植物が環境にどう反応するかを予測しようとする試みなどもされています。これはまだ研究段階ですが、病害耐性や成長特性の解明につながる可能性もあります。
分子レベルの情報と生育データを統合することで植物理解はさらに深まり、見える世界から見えない世界へと領域を広げています。
【最新の遺伝子・分子レベルの研究】
GenoDrawing(スペイン)ーリンゴの遺伝子データ(SNPマーカー)から、形のような複雑な形質をAIで予測・再現するモデル。リンゴの遺伝子データ(SNPマーカー)から、形のような複雑な形質をAIで予測・再現するモデル。
岡山大学ートマトのゲノム配列データにAIを適用して、「熟すプロセスに影響する遺伝子の発現パターン」を予測する技術。どの遺伝子が果実の熟れ方を決めるかをAIで見抜く。
九州工業大学ーモデル植物(シロイヌナズナ)のゲノムや発現データにAI解析を使い,「重複遺伝子のどれが新しい機能を獲得したのか」を高精度で推定する方法を開発。進化に関わる重要遺伝子の特定が加速。
課題と限界

ここまでは、AIと植物の可能性を紹介してきましたが、もちろん課題も多く存在します。データは環境条件に強く依存し、地域や季節が変わると精度が落ちることがあったり、AIがなぜその判断に至ったのかを説明しにくい場合があります。誤った予測が現場に影響を与えるリスクも無視できません。
実際に、広角画像で植物病害を自動診断するAIモデルでは学習データと同じ環境なら高いが、撮影条件が変わると大幅に精度が落ちて再学習が必要ことが確認されました。
また、データの取り扱いやプライバシーへの不安がある、などで十分なデータが集まらず、AI性能の向上が停滞しているという声もある。これは技術的失敗ではなく“社会実装の失敗”に近いものだけど、実際の導入で大きな障壁になっているとの報告も上がっています。
これは植物×AIの分野に限ったことではなく、AIは万能な存在ではなく、人間の知見と組み合わせて使うことが必要で、過度な期待を避け、冷静に活用する姿勢が求められます。
まとめ
AI×植物の研究は、植物を支配したり、人間の代わりに意思決定させたりする技術ではなく、植物の状態をより深く正確に理解するための道具として進化しています。技術による実際の変化は、いくつかの具体的な分野で明らかになりました。
- 農業では、葉の色や形、水分量、微細なストレス反応をAIが検知し、最適な水やりや施肥のタイミングを提案できるようになり、人間が気づく前に病害の兆候を察知するケースも増えています。
- 環境保全では、森林や湿地の植物の生育状況をドローン画像や音響データから解析し、生態系の変化を早期に捉える取り組みが進んでいます。
- 基礎研究では、植物が発する微弱な電気信号や振動をAIがパターンとして読み取り、ストレス反応や成長プロセスの理解が深まっています。
このような技術が「植物と会話する」という表現につながっているのは、比喩的ではあるものの、自然の声をデータとして翻訳し、人間が理解できる形にするという新しい関係性を示しています。AIは、人間と自然を切り離すのではなく、両者の間に立って理解を助ける媒介としての役割を広げつつあります。
今後、AIを活用していくことで、植物との関わり方をより精密でより共生的なものへと変えていってくれるでしょう。


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