【AIで変わる漁業】はこだて未来大学のなまこ乱獲防止プロジェクト

北海道の沿岸で水揚げされる「なまこ」は、希少価値の高まりとともに密漁が増え、資源枯渇の危機に直面していました。こうした状況を前に、はこだて未来大学の研究チーム「マリンITラボ」は、現場の声を受けてAIとICTを活用した乱獲対策を進めます。

漁業者との対話を重ねながら開発した独自の解析技術は、乱獲防止に向けた新たな仕組みを形にしつつあります。本記事では、プロジェクトを開始した背景から成果、導入時の課題、今後の展望までわかりやすく解説します。

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目次

はこだて未来大学の「なまこ乱獲防止プロジェクト」とは

はこだて未来大学の「マリンITラボ」は、ICTを活用して漁業を可視化し、乱獲や資源枯渇への対策を目指す「スマート漁業」を推進する研究機関です。

漁獲データや環境データをデジタル記録・共有し、底びき漁などで乱獲の危険が高い「なまこ」などの沿岸資源の管理を効率化・透明化することで、持続可能な資源管理の実現を図ります。漁師や漁協、研究者が協力し、データに基づいた管理手法を実践することで、資源の保全と漁業の安定を両立させるモデルとして注目されています。

AI・ICT 導入を検討した背景・目的

日本の漁獲量は1980年代を境に減少が続き、現在は最盛期の約3分の1にまで落ち込んでいます。背景には、高齢化や人手不足、海の環境変化に加え、需要増による過度な漁獲があり、特に、なまこは高値取引によって乱獲の危険性が高まっていました。

従来のように経験や勘に依存する方法では資源を守りきれない状況が明確になる中、はこだて未来大学は、漁獲量や操業位置をデジタルで把握できるAI・ICTの活用に着目します。水温や海況を自動で記録する「ユビキタスブイ」、漁獲量を入力する「デジタル操業日誌」、GPSで航路を可視化する「marine PLOTTER」などのAI・ICTを導入しました。

データを基盤とした漁業管理へ移行することで、資源の減少を防ぐ仕組みをつくり、漁業の再生を目指したのです。

導入前に存在した課題

  • 属人的な漁業管理
  • データ収集・共有の困難
  • 漁師間での情報の閉鎖性

従来の漁業はベテラン漁師の経験に依存しており、漁獲量や操業場所の記録すら曖昧でした。そのため、情報の抜けや遅れが起きやすく、集めた記録を分析したり共有したりする体制が事実上機能していない状況があったのです。

加えて、漁獲実績や海の状況は地域ごとに分断され、資源がどの程度残っているかを科学的に確認することが困難でした。こうした環境では乱獲の兆候を把握できず、資源管理の判断材料も不足していたため、持続的な漁業を維持するうえで大きな障壁となっていました。

AI・ICT導入による効果

ここからは、マリンITラボによるAI・ITC導入によって得られた成果を、定量的な結果と定性的な結果に分けて解説します。資源管理の「見える化」と「共有」がもたらした構造的な変化に注目してください。

定量的成果

資源量の回復と持続的な資源管理の実現

北海道・留萌地域では、ICTとAIを組み合わせた資源管理により、なまこの資源量が導入前と比べて約1.6倍まで回復し、1.4億円のなまこ貯蓄に成功しました。鍵となったのは、ICTによる操業データの蓄積と、データをAIが解析する仕組みです。

漁獲量だけでなく、操業時間や移動範囲といった情報をICTで一元的に記録することで、海域ごとの実態を正確に把握できるようになりました。さらに、集められた膨大なデータをAIが分析し、資源量の増減傾向や乱獲が起こりやすい条件を数値として可視化します。

これにより、経験に頼っていた漁場選定や漁期判断が、科学的根拠に基づく判断へと転換しました。結果として、資源が減少する前に歯止めをかける運用が可能となり、漁獲の安定と資源保全を両立する持続可能な管理モデルが実現しています。

リアルタイム漁獲データの可視化と作業効率化

漁船にタブレット端末と専用アプリを導入し、漁獲の時刻・場所・量をその場で入力できる仕組みを整えたことで、操業データの精度と即時性が大きく向上しました。入力した情報はICTによって自動的にクラウドへ集約され、複数船のデータがリアルタイムで一元管理されるため、漁場ごとの漁獲状況を常に把握できるようになっています。

この蓄積データをAIが解析することで、海域別の漁圧や時間帯ごとの漁獲効率といった傾向が可視化され、数値に基づいた操業判断を行うことが可能になりました。結果として、状況の振り返りや次の判断が迅速になり、効率と資源管理の両立を支える基盤が形成されています。

コスト削減とAI・ICTシステムの普及促進

従来型より低コストで、10分の1の導入価格・50分の1のランニングコストで運用できるユビキタスブイの導入により、海況データの収集が全国沿岸に広く行き渡りました。延べ326基のユビキタスブイによる全国沿岸の水温観測網により、水温や潮流などの情報が自動的に集約・共有され、地域全体で継続的に蓄積されます。

収集データが増えることで、AIは過去の傾向と照合しながら変動パターンを高精度に解析可能になり、海況の変化や資源量の兆候をより正確に捉えられるようになりました。さらに、同じデータを研究者・行政・漁業者がリアルタイムで共有できる環境が整ったことで、AIの分析結果を根拠に操業ルールを調整する運用が可能となり、無理のない持続的な資源管理へとつながっています。

定性的成果

資源の「見える化」による漁師の意識変革

AI・ICTの導入によって、資源量や漁獲状況が共有されるようになったことで、海の状態を数値で確認できる環境が整いました。その結果、漁師一人ひとりが適切な漁獲量を客観的に判断できるようになり、必要以上に漁獲しないという考え方が自然と広がりました。

見えにくかった海中の変化が把握できるようになったことで、資源を守る姿勢が日常的な行動へとつながり、「未来の漁のために今の資源を残す」という意識が地域全体に定着しつつあります。

経験・勘に依存しない公平な漁業管理

AI・ICTを活用して漁獲量や海の状況が共有されるようになったことで、経験の差に左右されない判断が可能になりました。長年の勘に頼るのではなく、同じデータを基準に漁の方針を検討できるようになり、ベテランと若手の間にあった知識格差が縮まりました。

また、地域ごとに散らばっていた情報が統一され、誰もが同じ条件で資源管理に参加できる環境が整備されたことも成果です。公平な運用体制は、高齢化が進む現場でも後継者が学びやすい土台となり、持続可能な漁業を支える仕組みとして期待されています。

産学連携によるスマート漁業モデルの確立

大学の研究チームと漁業者、行政が連携して進めた取り組みは、地域の課題解決を実証的に示すモデルとして評価され、情報化推進の分野で表彰を受けています。現場の知見と学術的な技術開発を組み合わせることで、海の状況や漁獲情報を共有する仕組みが地域に根づき、資源の保全と安定した漁の両立を支える体制が整いました。

効率化にとどまらず、持続性の高い運用モデルとして確立された点が特徴で、将来の漁業を見据えた実践的な枠組みとして広く活用される基盤となっています。

プロジェクト導入時の課題と解決策

導入当初は紙の日誌で記録を集めていましたが、回収や集計に時間がかかり、FAXで返却される資料も見づらく活用されませんでした。防水ノートPCの導入も、船上での操作性や通信環境の不安定さが課題となり、記入漏れや負担増を招いていました。

これを受け、マリンITラボはタブレット中心の運用に転換します。直感的に入力できる専用アプリや、センサブイによる海況データとの統合表示を整備することで、現場負担を抑えつつICTが定着し、管理体制の構築に成功しました。

今後の展望とAI活用の発展性

環境データ、過去の漁獲データ、船の移動履歴などを統合し、AIによって資源量や漁場の変動を読み解く技術の活用が広がりつつあります。最適な操業の時期や場所をデータから導く仕組みが整備され、なまこ漁に限らず多様な資源管理への応用が広がるでしょう。

また、漁協や自治体、行政との連携を通じて、情報共有のルールや資源管理の体制を制度として築く取り組みも進められています。技術基盤と制度を整えることで、スマート漁業は新たな段階へ移行し、持続可能な水産業を支える仕組みづくりが期待されています。

まとめ

はこだて未来大学のAI活用プロジェクトは、なまこの乱獲を防ぎながら資源を守る取り組みとして成果を上げています。さらに、AIを活用した仕組みは、なまこ漁だけにとどまらず、日本全国の漁業・水産業の未来を変える可能性を秘めています。

データに基づく漁は、後継者不足が進む現場で新たな担い手が参加しやすい環境づくりにもつながり、次世代へと続く持続可能な漁業の実現に寄与していくでしょう。

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