建設業界大手の鹿島建設が2023年に本格運用を始めた「AIとドローンによる資機材管理システム」。広大な建設現場を対象に、AIを活用した画像認識による最適な資機材管理を実現しています。これまで人の巡回・目視に頼りがちだった現場管理を、データに基づく客観的な業務へと変革したこの取り組みは、建設業界の注目を集めています。大規模な建設現場で、どのように資機材の位置を見極め、効率的な管理を実現しているのか。その革新的な取り組みを追っていきます。
資機材管理の課題解決を目指したAI活用への挑戦
「現場の安全と効率」という理念と現実のギャップ

鹿島建設では建設現場における作業効率と安全性を重視していますが、資機材管理の現場では以下のような課題を抱えていました。
- 膨大な作業時間と労力
広大な現場を人が巡回して目視確認する方法が主流で、多大な時間と労力を必要 - 現場状況の把握困難
重機・仮設資材・安全設備など数多くの資機材が現場に点在し、「どこに、何が、何台あるか」という最新の現場状況を即座に把握できない - データ活用の不足
「適材適所」な資機材配置を実現するためのデータ活用が十分に行えず、戦略的な現場管理の障壁となる
国土交通省「PRISM」が後押ししたDX推進
2022年、本システムは国土交通省「建設現場の生産性を飛躍的に向上するための革新的技術の導入・活用に関するプロジェクト(PRISM)」に採択されました。
PRISMとは、全ての建設生産プロセスでICT等を活用する「i-Construction」を推進し、建設現場の生産性を2025年度までに2割向上させることを目指すプロジェクトです。従来の人による巡回では限界があると判断し、同社はシステム開発を推進。

共同開発パートナーとして選ばれたのがAI inside株式会社でした。
マルチモーダルAI統合基盤「AnyData」による高精度な画像認識と、3Dモデルとの連携が評価の決め手に。理念と現場のギャップを埋めるDX推進の核として、AI活用による科学的現場管理への転換が始まっています。
ドローン×AI分析:「AnyData」による資機材管理システム
鹿島建設とAI insideが共同開発した本システムは、ドローンが空撮した動画からAIが資機材を認識し、その位置を現場3Dモデル上に表示するものです。従来、現場職員が現場内を巡回して目視と手作業で行っていた資機材管理業務を、デジタルツイン上で実施することを可能にしました。AIモデルの構築には、AI inside社が提供するマルチモーダルなAI統合基盤「AnyData」を採用しています。
システムの主な特徴
- 統合データ管理: ドローンで撮影した空撮データと飛行記録を統合的に管理
- 3Dモデル連携: 現場3Dモデルと連携し、資機材の位置を可視化
- 安全な撮影: 人が立ち入りにくい危険箇所や高所も安全に撮影可能
- 効率化: 資機材管理の作業時間を約75%削減(1回あたり約2時間→30分)
AIによる自動検出機能
- 学習と推定: AIは空撮画像から現場内の資機材の名称と形を学習し、「どの資機材がどこにあるか」を推定
- 検出能力: 人と同程度の大きさの資機材であれば概ね検出可能で、現在25種類の資機材に対応
- 活用状況の把握: 活用していない資機材も判別でき、返却による無駄の削減が可能
- 点検管理: プラカードを使用した識別により、法定点検日等の管理も実現
段階的なトライ&エラーで成功した導入プロセス
鹿島建設のAI資機材管理システムは、2022年度に国土交通省のPRISMプロジェクトに採択され、国土交通省北陸地方整備局発注の大河津分水路新第二床固改築Ⅰ期工事(新潟県長岡市)において実証が行われました。実証を通じてシステムの有用性が確認され、作業時間約75%削減という成果を達成。本工事で構築したAIモデルは他の現場でも活用できるため、全社への展開も視野に入れています。
フェーズ1: 実証現場での基盤構築
国土交通省北陸地方整備局発注の大河津分水路新第二床固改築Ⅰ期工事(新潟県長岡市)を実証現場に選定し、AI inside社と共同でシステム開発を行いました。実証現場でドローン空撮を実施し、AIモデルの学習と精度検証を進めました。AIモデルの構築には、AI inside社が提供するAI統合基盤「AnyData」を採用しています。
フェーズ2: AIモデルの精度向上と機能拡充
検出対象とする資機材の種類を拡充し、25種類の資機材を検出できるシステムへと発展させました。さらに、現場3Dモデルとの連携を実現し、資機材の位置を3Dモデル上に表示する機能を構築しました。個別の管理を行いたい資機材については、プラカードを使用した識別によって法定点検日等を管理する機能も実装されました。
フェーズ3: 本格導入と横展開準備
実証を通じて本システムの有用性が確認され、大河津分水路工事現場にて本格導入。資機材管理の作業時間を約75%削減(1回あたり約2時間→30分)という成果を確認しました。さらに、本工事で構築したAIモデル(資機材学習モデル)は、他の現場でも活用できるため、全社展開に向けた準備が整いました。
数字が語る変革の成果と実感される効果

現場作業の効率化がもたらした時間とコストの削減
- AIとドローンによる資機材管理システム導入により作業時間を約75%削減(約2時間→約30分)
- ドローンによる空撮は数分で完了し、広大な現場を効率的にカバー
- 現場での紙メモ取り、PCへのデータ入力、集計作業が不要となり、戦略的な業務に注力可能に
- 現場巡回(約2時間)が不要となり、ドローン空撮(数分)で広大な現場を効率的にカバー
- レンタル資機材の適切な管理により、不要なレンタル費用を削減
データに基づく管理で実現した「効率的な資機材活用」
- AIによる客観的データ分析の導入で人的ミスや見落としを削減
- 資機材の位置を3Dモデル上に可視化し、最適な配置と活用を実現
- リアルタイムでの現場状況の把握・活用が可能に
- 点検期限や資機材の状態など多面的情報のデータ基盤を整備
- AI分析と人間判断の組み合わせが現場を活かす管理戦略を支援
鹿島建設のAI導入課題と対応策
鹿島建設のAI導入における主な課題は、検出精度の向上、天候条件への対応、そして現場へのシステム定着の3つでした。
検出精度の現状と小型資機材検出の課題
現在、人と同程度の大きさの資機材であれば概ね検出できる水準に達していますが、手で持ち運べる小さい資機材の検出率向上が今後の重要課題として認識されています。鹿島建設は「今後本システムの資機材の検出精度を向上させるとともに、小型資機材の検出率向上に取り組んでいく」方針を明らかにしています。検出可能な資機材の種類も、現在の25種類からさらに拡充することで、より幅広い現場ニーズに対応できるシステムへと進化させていく計画です。
天候条件がもたらす運用上の制約
ドローンを活用した本システムには、天候条件という避けられない制約が存在します。雨天・強風時は安全上の理由からドローン飛行が困難となる場合があり、撮影スケジュールの遅延リスクが生じます。この課題に対しては、天候予測に基づく柔軟な計画調整が必要となります。
現場への定着に向けた教育と意識改革
技術的な課題だけでなく、現場へのシステム定着も重要なテーマです。従来の紙ベース・目視ベースの管理に長年慣れ親しんできた担当者に対して、新しいデジタルツールの操作方法やデータの見方について丁寧に教育する必要があります。そのため、段階的な導入アプローチを採用し、現場の声を積極的に収集してUI改善に反映させることが重要です。実際の業務フローに組み込むためのインターフェース設計も、現場担当者と連携しながら継続的に改善を進めています。
既存システムとの連携強化
さらに、鹿島建設の多くの土木現場で活用が進んでいる現場見える化統合管理システム「Field Browser®」との連携をさらに強化することで、より包括的な現場業務の効率化が期待されます。
未来を切り拓くAI資機材管理:鹿島建設の展望と可能性
AIモデルの進化と対象範囲の拡充
鹿島建設のAI資機材管理システムは、今後さらに進化を遂げようとしています。両社は引き続き、「建設現場におけるモノのデジタルツイン」をより高度かつ網羅的に実現することを目指しています。特に注目されるのが、検出できる資機材の拡充や検出精度の向上をはじめとしたAIモデルの高度化。より小型の資機材や工具類の検出精度向上、資機材の状態(損傷、劣化など)の自動判定機能の追加も期待されています。
全社展開と他現場への横展開
今後は資機材管理に限らず、工程管理、品質管理、安全管理など、建設現場のあらゆる業務のデジタル化が進展する可能性があります。現場3Dモデルにおける検索性を高めるための資機材データベースの機能追加など、より使いやすいシステムへの発展が計画されています。また本工事で構築したAIモデルは他の現場でも活用できるため、鹿島建設での全社展開を見据えた他現場へのシステム転用も支援していきます。
建設業界全体のDX推進への貢献
AI insideは、これらの取り組みを通じて蓄積された建設現場におけるデータ活用ノウハウを活かして、建設現場にDXをもたらし、データ活用による新たな価値を創出します。国土交通省が掲げる「i-Construction」の推進に寄与し、「AIが民主化された社会の実現」を目指しています。
まとめ—鹿島建設の成功に学ぶ「AI×建設現場」導入の鍵
鹿島建設とAI insideが共同開発した「AIとドローンによる資機材管理システム」は、建設現場の生産性と安全性を同時に向上させる画期的なソリューションです。作業時間75%削減という明確な成果は、デジタル技術の実用性を証明し、建設業界のDX推進における重要な転換点となりました。

成功の3つの要因
本システムの成功要因は、以下の3点になります。
1. 国土交通省のPRISMプロジェクトに採択され実証環境を整えたこと
2022年度の国土交通省「建設現場の生産性を飛躍的に向上するための革新的技術の導入・活用に関するプロジェクト(PRISM)」に採択され、大規模な実証現場での検証機会を得たことが、システムの実用化を加速させました。
2. 現場の実課題に真摯に向き合ったこと
広大な現場を人が巡回して目視確認する従来の方法が抱えていた、膨大な時間とコスト、人的ミスのリスク、安全上の課題といった実際の問題に正面から取り組みました。
3. 最先端のAI技術と実用性を両立させたこと
AI insideのマルチモーダルAI統合基盤「AnyData」による高精度な画像認識と、ドローンによる効率的なデータ収集、3Dモデルとの連携による可視化を実現。技術の先進性と現場での使いやすさを両立させました。
建設業界が直面する課題とテクノロジーの可能性
建設業界は少子高齢化による人手不足、安全性向上、環境負荷低減など多くの課題に直面しています。鹿島建設の事例は、これらの課題をテクノロジーで解決する道筋を示しており、業界全体のモデルケースとして今後の展開が期待されます。
国土交通省が推進する「i-Construction」の理念に沿った本取り組みは、建設現場のデジタルツイン化を実現し、データ活用による新たな価値創出の可能性を示しています。デジタルツイン、AI、IoTが融合した「スマートコンストラクション」の時代は、もはや未来ではなく現実となりつつあります。



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