CyberAgentが生成AIを全社インフラにした理由|導入背景から成果まで徹底解説

近年、生成AIの進化が目覚ましいなか、CyberAgentはその可能性にいち早く着目し、AIを事業インフラとして全社的に活用する戦略を打ち出しました。2016年にAI Labを設立して以来、研究開発と実務への応用を両立させ、広告制作から開発現場、さらには公共分野にまで活用領域を広げています。

本記事では、CyberAgentがどのような背景や課題意識のもとで生成AIを導入し、組織全体で活用を定着させたのか、その全体像を紐解きます。

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目次

CyberAgentが生成AIを導入した背景

引用;https://www.cyberagent.co.jp/way/list/detail/id=31232

近年の生成AI技術の進化に伴い、CyberAgentはAIを事業成長の柱と位置づけ、積極的な投資を行っています。
2016年には、デジタルマーケティング全般に関わるAI技術の研究開発を目的とした「AI Lab」を設立し、研究開発と社会実装の両立を推進してきました。
AI Labには、機械学習・自然言語処理・計量経済学・HCI(ヒューマン・コンピュータ・インタラクション)などを専門とする研究者が在籍しており、産学連携も積極的に展開されています。

さらに、2023年には国内初の高性能GPUサーバーを導入し、大規模なAI開発環境を整備。開発部門ではAI支援ツールの導入を段階的に進めた結果、業務の約4割をAIが補完する成果が見られました。
こうした流れを受け、2025年には年間約4億円を投じ、エンジニア個人が開発AIエージェントを自由に試せる環境の構築に踏み切っています。

CyberAgentに採用された生成AI技術

CyberAgentは、生成AIを単に活用するだけでなく、自社開発による基盤技術の確立にも注力しています。ここでは、CyberAgentに採用された代表的な生成AI技術について解説します。

独自開発の日本語LLM・VLM

CyberAgentは、日本語に特化した大規模言語モデル(LLM)と視覚言語モデル(VLM)の開発を自社で推進しています。近年は、画像とテキストを統合的に扱うマルチモーダルAIの需要が高まり、日本語による精度の高い応答を実現するVLMとして「llava-calm2-siglip」を公開しました。

このモデルは、自社開発の日本語LLM「CALM2」と、画像情報を解析するエンコーダ「SigLIP」を組み合わせたものであり、画像内容の説明、画像を起点とした日本語での対話応答、画像+テキスト混合の指示応答、さらに構図理解やシチュエーション展開も可能な点が特徴です。


また、英語で生成した画像対話データを日本語に翻訳して学習することで、多様性と品質の両立を図りました。商用利用が可能なApache 2.0ライセンスで公開されており、研究開発からビジネス応用まで幅広く活用が進むことが期待されています。

広告クリエイティブ生成に特化した「極予測AI」シリーズ

CyberAgentが展開する「極予測AI」シリーズは、生成AIを活用して広告クリエイティブの精度と運用効率を高めるために設計されたプロダクト群です。静止画や動画に限らず、テキストやLPの自動生成にも対応し、広告効果を予測したうえで最も成果が見込まれる素材のみを納品・配信する仕組みを導入しています。代表的な機能は以下のとおりです。

  • 極予測AI:静止画・動画広告の生成と効果予測
  • 極予測TD:検索連動型広告向けの広告文を自動作成
  • 極予測LP:LPを自動生成し、予測スコアに基づき改善
  • 極予測やりとりAI:効果スコアの表示とSlack連携による入稿効率化

広告制作の全工程に生成AIを組み込むことで、業務の省力化と成果の最大化を同時に実現しています。

AIによるタレント・商品画像の自動生成技術

CyberAgentは、「極予測AI」に生成AI技術を組み込み、広告用の商品画像を自動で生成する新機能を開発しました。これにより、撮影機材やロケーションの準備をせずとも、多様な構図とシチュエーションを再現した商品画像を、大量かつ高速に制作できます。さらに、効果予測AIと組み合わせることで、配信前に広告効果が高い画像を選別し、自動で最適なクリエイティブを作成する運用が可能になりました。

特にこの技術は、これまで再現が難しいとされていた複雑な表現にも対応しています。たとえば、光が差し込む演出や、ガラス瓶のような透明素材の質感、商品ラベルの細かい文字など、撮影さながらのリアルな質感表現が実現されています。

CyberAgentが生成AIを導入したプロセス

CyberAgentは、2016年から本格的な活用に向けた体制づくりを始めました。ここでは、同社が生成AIを導入・展開するまでのプロセスについて解説します。

広告事業の課題感からAI Labを2016年に設立

CyberAgentは、広告制作の効率化と競争力強化を目指し、2016年にAI研究組織「AI Lab」を設立しました。当時、運用型広告の現場では、短期間に多様なクリエイティブを大量に制作する必要があり、人手で対応するには限界があります。そこで、AI技術を研究と実装の両面から活用し、広告効果の最大化と制作プロセスの再構築に取り組む体制を整えました。

組織内では、以下のような複数の研究領域が連携し、それぞれが広告事業全体の進化に貢献しています。

  • クリエイティブ支援に特化した画像・動画の生成技術の導入
  • CGとAIを融合し、撮影を必要としない制作手法の開発
  • 経済学的手法による広告運用の意思決定支援
  • 対話エージェントによる顧客体験の最適化と感情誘導の研究

独自の日本語LLM開発と生成AI技術の内製を推進

CyberAgentは、広告表現の精度向上と業務効率化を目的として、日本語に最適化された大規模言語モデル(LLM)の内製を進めてきました。従来のLLMは英語中心の学習が多く、日本語での自然な表現や実務への対応には限界がありました。この課題を踏まえ、同社は自社が保有する日本語データを活用し、独自のモデルを構築しています。

2023年には130億パラメータ規模のモデルを開発し、一部は商用利用可能なかたちで公開も行われました。AI Labとプロダクトチームが連携し、学習環境にはNVIDIA H100などの先端GPUを導入。全工程を社内で完結させることで、開発スピードと表現品質の両立を実現しました。

生成AIツールの現場導入で業務プロセスを再構築

CyberAgentでは、生成AIを現場の業務プロセスに組み込み、従来の手作業に依存したオペレーションの抜本的な見直しも進めています。たとえば、Slack上での予定調整を担う「サイスケ」は、社内外で月20万件の対応を自動化し、6万時間相当の作業削減を実現しました。

さらに、ユーザーの回答内容をもとに深掘り質問を生成するAIインタビューツールや、番組メタデータから紹介文やサムネイルを作成する仕組みも運用されています。これらの導入は、小規模な実証から効果検証を経て共通基盤を整備し、全社的な活用へと展開されました。

全社員を対象にリスキリングを展開し活用を浸透

CyberAgentでは、生成AIの全社活用を目的として「生成AI徹底理解リスキリング」を実施し、全社員6,200名のうち99.6%が合格しました。このプログラムはeラーニングとWeb試験で構成され、役割や専門性に応じて3つの階層に分けて運用されています。特に全社員向けの「for Everyone」では、法務やセキュリティの知識に加え、社内LLMやChatGPTの基礎的な活用スキルも習得できます。以下に、各層のリスキリング内容をまとめました。

対象階層施策名目的と内容
全社員for Everyone生成AIの基礎・法務・セキュリティ・LLM活用を習得
エンジニアfor Developersプロダクト開発におけるLLM組込みスキルを強化
MLエンジニアfor ML Engineers(2024年開始)モデル構築・チューニングによる事業課題解決を担う人材育成

生成AIの全社運用を担う「AIオペレーション室」を新設

CyberAgentは、生成AIを全社で活用し、業務の効率化と新たな価値の創出を両立させることを目的に、2023年10月に「AIオペレーション室」を設立しました。約30名で構成される同室には専任の開発チームが設けられ、現場のニーズに基づいたPoCや共通基盤の整備を推進しています。

Slack上で稼働する予定調整AI「サイスケ」や、深掘り質問を自動生成するツールなど、実用性の高いプロダクトを次々と展開してきました。さらに、全社コンテストや月次レポートによる情報共有も行い、現場主導の活用促進にも力を入れています。

CyberAgentが生成AI導入によって得られた成果や効果

生成AIを全社インフラとして活用するCyberAgentでは、広告制作や開発業務の生産性向上にとどまらず、営業支援や自治体業務の効率化にも成果を上げています。ここでは、CyberAgentが生成AIの導入によって得られた具体的な成果や効果について解説します。

広告効果を最大2.6倍に改善

CyberAgentは、生成AIと効果予測技術を組み合わせた独自の広告制作手法によって、広告効果の大幅な向上を実現しています。代表的な成果として、「極予測AI」を活用した先行テストでは、従来の制作プロセスで作成したクリエイティブと比べ、広告効果の勝率が最大2.6倍に高まる結果が得られました。

広告制作本数が1人あたり月30本→170本に増加

CyberAgentは、生成AIの導入によって広告制作のプロセスを抜本的に見直しました。従来はクリエイティブディレクターやコピーライター、フォトグラファーなど複数の専門職が関与していましたが、現在ではデザイナー1人で完結できる体制へと移行しています。これにより、1人あたりの月間制作本数は約30本から170本へと増加し、生産性は5.6倍に向上しました。

開発業務の工数を約40%削減

CyberAgentでは、自社開発の生成AIに加え、GitHub CopilotやCursorなど外部のAI支援ツールも段階的に導入した結果、約1年半で開発業務の工数をおよそ4割削減する成果を得ています。CyberAgentでは、GitHub CopilotやCursorなどの開発支援ツールを段階的に導入した結果、約1年半で開発業務の工数をおよそ4割削減する成果を得ています。AIがプログラミングやコードレビュー、ドキュメント作成などを一部自動化・補完したことが要因です。

2025年6月には、エンジニア1人あたり月額200ドルまでのAIエージェント導入費用を会社が支援する制度を整備。個人ごとに適したツールを選択できる環境を整え、業務効率のさらなる向上を図っています。現在、主に以下のようなAIツールが活用されています。

  • GitHub Copilot:コードの自動補完により、実装・検証工程を効率化
  • Cursor:AIペアプログラミング機能を通じて、実装やリファクタリングを支援
  • Windsurf / Devin:作業フローやレビューの自動化によって、ドキュメント作成業務を軽減

エンジニアとAIが協働することで、開発生産性が大きく向上し、プロダクト全体の品質とスピードの底上げにもつながっています。

CPAを最大33%削減し広告費を最適化

CyberAgentでは、AIを活用した広告運用によって、CPA(顧客獲得単価)の大幅な改善も進んでいます。たとえば、独自開発された「KW Booster AI」は、X(旧Twitter)広告のキーワードを自動でジャンル分けし、関連性の高い語句だけを自動入稿する仕組みを導入。さらに、効果の低いキーワードはAIが自動で停止するため、先行運用ではCPAが最大33%削減されました。また、Meta広告に対応した生成AIツールの組み合わせでは、以下のような成果も確認されています。

  • 極多様性プロット+極予測AI:コンバージョン数180%増、CPAを半減
  • 極予測LP:LPの高速A/B検証によりCPAを最大63%削減

自治体業務の作業時間を98%短縮

CyberAgentグループのAI Shiftは、自治体の業務効率化を目的に生成AIを活用したソリューションを展開しています。福島県郡山市では、保育所入所選考を支援するAI「ChilmAI」の導入により、年間690分を要していたデータ変換作業が約7.5分に短縮されました。

作業時間を約98%削減したこの成果は、定型業務における生成AIの有用性を示す好事例といえます。その結果、職員の負担が軽減され、重要度の高い業務に人材を振り向けやすくなりました。

CyberAgentが生成AI導入時に直面した課題とその対策

生成AIの活用を全社に広げる過程では、法務・セキュリティ対応、現場との乖離、社員の理解促進など、さまざまな壁に直面します。ここでは、同社が生成AI導入時に直面した主な課題と、それに対して講じた具体的な対策について紹介します。

セキュリティ・法務リスクへの対応として社内ガイドラインを策定・浸透

CyberAgentは、生成AIの活用に伴う著作権侵害や情報漏洩のリスクに対応するため、「画像生成AIガイドライン」を社内向けに策定しました。法務部門やセキュリティ推進グループ、クリエイティブ責任者が連携し、安全性の高いツールの選定基準やプロンプト記述の禁止事項、生成物の類似チェック義務などを明文化しています。

また、全クリエイターにはガイドラインの理解度テストを課し、合格しなければ利用申請を受け付けない体制も導入されました。さらに、各事業部と連携してローカルルールの調整を進めながら、実効性のある運用体制の構築が図られています。

社内での活用定着を促進するため、経営トップ主導で全社の空気を醸成

CyberAgentでは、生成AIの全社活用を推進するにあたり、経営トップが率先して空気を醸成する姿勢を打ち出しました。代表自らが意志を明確にすることで、社員が主体的にAI活用へ向き合える環境づくりが進みました。

全社員を対象としたリスキリング施策では、動画教材とWeb試験を活用し、高い定着率を実現。さらに、社内コンテストやアイデアソンを通じて現場の提案を即座に製品化する流れを整備し、成功体験の共有も促進しています。

導入現場との乖離を防ぐため、プロトタイピングと一次情報の取得を徹底

CyberAgentでは、生成AI導入時の現場との乖離を防ぐため、プロトタイピングと一次情報の取得にも重点を置いています。特に非エンジニア職を含む多様な部署には、ノーコードで操作できる「Dify」などを活用し、気軽に始められる環境を整備。実際の業務に即した課題を把握するため、個別ヒアリングを通じて一次情報を収集し、業務の流れや制約を丁寧に反映しています。

また、全社展開の前段階としてAIオペレーション室内でセルフホスティングによる効果検証も実施。このような段階的かつ現場起点のアプローチにより、導入後のギャップを最小限に抑え、実効性のある活用を実現しています。

CyberAgentの今後の展望と他領域への生成AI応用可能性

生成AIの活用を先導してきたCyberAgentでは、広告や開発にとどまらず、エンタメ・営業・公共サービスといった他領域への応用が本格化しています。ここでは、CyberAgentが描く今後の展望と生成AIの応用可能性について解説します。

映像・エンタメ領域への生成AI活用が進展中

CyberAgentでは、映像・エンタメ分野における生成AIの活用が加速しています。動画配信サービス「ABEMA」では、番組のメタデータをAIで要約・構造化し、類似番組のレコメンドに活用しているのが特徴です。さらに、バナー画像やニュース記事の自動生成も一部で実用化されています。

社内ではドキュメント検索ツール「esa AI」の導入や、コード補完・テスト支援の仕組みも整備され、開発体制全体に生成AIが浸透しつつあります。

広告以外にもマーケティング・営業支援での導入が加速

生成AIの活用は広告分野にとどまらず、マーケティングや営業支援の領域にも広がっています。CyberAgentでは、営業活動を支援するAIアシスタントを導入し、対応速度や提案の質の向上に貢献しています。従来は人手に依存していた定型業務をAIが担うことで、営業担当者が戦略的な判断に集中できる環境が整いつつあります。

具体的には、以下のような業務がAIによって効率化されています。

  • 広告データからの簡易レポート作成やインサイトの提示
  • Slackやメールを通じた一次回答の自動生成
  • 過去情報をもとにした提案資料の下書きやFAQ応答
  • 配信準備におけるタスク管理と進行の最適化

まとめ:CyberAgentの生成AI活用から未来の働き方を学ぼう

CyberAgentは、生成AIを単なる技術導入にとどめず、広告・開発・営業・公共サービスなど多様な分野へ応用し、組織全体の働き方を変革しています。独自の日本語LLM開発や効果予測AIの実装により、生産性の大幅な向上やコスト削減を実現。さらに、全社員対象のリスキリングや「AIオペレーション室」の設置を通じて、現場主導での活用定着を推進しています。

これらの取り組みは、AIを業務のインフラとして根付かせる好事例といえるでしょう。私たちも、CyberAgentの先進事例から学び、自社に合った生成AIの活用と未来の働き方を模索していきましょう。

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